私たちは幼児と一緒にいる犬のSOSサインを読み間違える(研究)

サイエンス・リサーチ
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2017年3月、東京八王子で生後10ヶ月の幼児が、祖父母の飼い犬のゴールデン・レトリバーに噛まれて死亡する事故が発生しました。祖父母は犬の性質について「ほえたり噛んだりしない、臆病でおとなしい犬だった」と説明したそうです

犬と幼児が遊んだり、一緒に過ごしている様子は微笑ましいものですが、一方で飼い犬が子供を傷つける事故はゼロにはなりません。大人が見守っていても、犬が大人しくても起きてしまうのが咬傷事故。悲しい事故は、なぜ発生してしまうのでしょう。

犬のSOSのサインは正しく解釈されない

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image by Mike Liu / Flickr

この疑問を解くヒントになりそうな研究が、Anthrozoös誌に発表されました。この研究[1]によれば、犬の飼い主は幼児と一緒にいる犬のボディランゲージを誤って解釈する傾向があるのだそう。アンカラ大学(トルコ)の研究者は、幼児と中・大型犬の交流動画を題材に、成人がどのように(どの程度)犬のボディランゲージを解釈するのかを調査しました。

調査に参加したのは、(1)子供がいる犬の飼い主、(2)子供がいない犬の飼い主、(3)子供がいる犬の飼い主でない人(4)子供も犬もいない人に分類される71人。オンライン上で3つの動画を見て、犬のボディランゲージ(行動)を解釈するという形式で、動画はそれぞれ(a)赤ちゃんがボール脇に横たわるダルメシアンに向かって這う内容、(b)歩き回る幼児がドーベルマンを触る、(c)ボクサーがハイハイをする幼児を追いかけ顔を舐めるという内容でした。

専門家で構成する審査会は、動画に登場する犬の様子を「危険」と判断しました。犬の仕草や行動に、不安や恐怖を見出したためです。しかし参加者の68%は、動画の犬は「リラックスしている」と回答、65%が「自信がある」と回答したのです。7割近くの回答は、専門家と真逆の結果を示していました

犬への愛情が飼い主の目を曇らせる

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image by Liz Randall / Flickr

特筆すべきは、犬の飼い主の方が”不正解”率が高かったということです。犬の飼い主は専門家と異なり「リラックスしている」と解釈しました。不安を抱える犬の心持ちを斟酌するのが上手いのは、むしろ犬を飼っていない人であるという結果になったのです。

論文の筆頭著者であるDr. Yasemin Salgirli Demirbasは、”飼い主の成績不振”の理由を、①犬の飼い主は犬がフレンドリーだと想定しがち②飼い主でない人は警戒心が強い③犬の飼い主は自らの評価に自信を持っている④動画のような状況下でのボディランゲージについての知識が足りないことにあるのでは、と推測しました。犬に寄せる愛情が、飼い主の目を曇らせている可能性をこの研究は示したというわけです。愛犬家としては、ちょっと耳が痛い結果となってしまいました。

さて、この研究の明らかな欠点は、参加者が71人と非常に小規模であることです。しかし、人々が犬の仕草や行動をどのように見てどう解釈しているかを知る良いきっかけになることは間違いないでしょう。研究者らが言うように、この研究は、「子供と交流する犬の不安や恐怖の兆候を読むことは難しい」ということと、「犬との(交流)経験は、ボディランゲージの解釈を歪める可能性がある」ことは、飼い主全てが心に留める必要のある考え方ではないでしょうか。

犬のキモチの認識は、咬傷事故防止に直接的に繋がるものではないかもしれません。しかし、犬のストレスを最小限に抑え、犬と子供の良い関係を育むことには、しっかりと繋がってくることのように思います。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Adults’ Ability to Interpret Canine Body Language during a Dog–Child Interaction Yasemin Salgirli Demirbas, Hakan Ozturk, Bahri Emre, Mustafa Kockaya, Tarkan Ozvardar & Alison Scott Anthrozoös Vol. 29 , Iss. 4,2016

Featured image credit Kichigin / Shutterstock

【犬と子供】小さな子供と接する愛犬のどこを見れば危険を読み取れるのか | the WOOF イヌメディア

子供が犬と一緒にいるときは、目を離さないようにしなければならない、とはよく言われることです。「どんなにフレンドリーな犬でも噛むことがある」ことは、(時に忘れてしまうこともあるけれど)飼い主さんなら知ってはいることです。 それでも事故は毎年起こり、被害者には未成年者も含まれます。小さな子供を巻き込まないために、親や飼い主はどんなことに気をつけるべきなのでしょうか。

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