犬が飼い主のお墓に寄り添い続ける姿は、涙を誘います。仲間の死を悲しむ犬もの様子も、飼い主たちからしばしば報告されています。
動物は悲しむ
動物学者の多くは、動物たちが死を理解し、喪失を悲しんでいると考えているようです。
生物学者のジョイス・プール氏は著書の中で、仔象を失った母象が嘆き悲しむ姿を伝えています。同じく生物学者のマーク・ベコフ氏は、象だけでなくカササギやラマも悲しみを経験すると主張します。
2008年に公表された、子ゴリラを失った母ゴリラ、ガーナの写真はあまりにも有名で、その悲しみにくれる姿は多くの人の目を釘づけにしました。子の遺体を手放さなかったガーナと同様に、野生のゴリラは赤ん坊の遺体を何週間も手元に残しておくのだそうです[1]。
動物たちが人間と同じような「悲しみ」を経験しているのかは、実際のところわかりません。ただ、死に直面した動物が普段とは異なる行動をすることは、しばしば観察されています。
犬も死を悼むのか
さて、我らが犬たちはどうでしょう。もはや紹介するまでもない秋田犬のハチは、主が死亡した後も駅前で帰りを待ち続けた忠犬として知られています。
スコットランドにも忠犬の記録が残されています。スカイテリアのグレイフライヤーズ・ボビー(Greyfriars Bobby)は、1872年に死去するまでの14年間、飼い主の墓の上に座り守り続けたと伝えられています。彼のストーリーはのちに”Greyfriars Bobby: The True Story of a Dog”として映画化もされました。
最近では、亡き飼い主を供養する祭壇に向かって伏せをするジャーマン・シェパードの姿が話題となりました(上の動画参照)。犬は、突然この世を去った飼い主の不在のためうつ状態となり、食べる意欲も失ってしまったそうです。飼い主は21歳の若さで自動車事故に遭い、前触れもなくこの世を去ることになりました。
愛する人の喪失などを経験すると、犬も「悲しさ」と似た感情がわきあがってくるのかもしれません。しかし犬を擬人化して捉えすぎるのは、ちょっと危険です。私たちの目には「悲嘆」に見える行動の全てが、死を悼む行動であるとは限らないのです。
犬は別の認識世界に生きている
犬の様子や行動をみて、私たちは自分たちの理解しやすい方へと話をもっていきがちです。しかし犬は「イヌの感覚」で、ヒトとは異なる認識をして行動をする生き物です。
2015年にセルビアであった、飼い主のお墓のある場所から動こうとしなかったジャーマン・シェパードの話を振り返ってみましょう。犬は当初、飼い主の死を悲しんだとして広く注目されましたが、のちにお墓の下で子育てをしていることが判明しました。お墓のある場所は彼女にとって、子犬の出産と保護に最適だったというわけです。
前出の”墓守犬”グレイフライヤーズ・ボビーの感動話も、「実は眉唾話だ」という人が出てきています。カーディフ大学のJan Bondeson博士は、調査の結果、ボビーが14年間墓を守っていたというのは作り話だと発表しました。ボビーは孤独な墓地の住人ではなく地元住民によって飼われた幸せな犬で、14年間見守っていたのは実は2匹に犬だったというのです。ちなみにスカイテリアの寿命は10〜12年ということを考えると、墓守をした期間が14年というのは、なるほどちょっと怪しいかもしれません。
そんな話はあるものの、犬たちの人間への献身は疑われるべきものではなく、犬も悲しんだり落ち込んだりすること間違いありません。
犬の家族である飼い主は、人の目線と犬の目線の両方を行き来するのが良いのかもしれません。可愛い我がコの行動を擬人化して安直に解釈し、背後にある本当の理由に目をつぶるのだけは避けておきたいところです。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Do Dogs Know Death? | Psychology Today
[2] Greyfriars Bobby – Wikipedia
Featured image credit Kira_Yan / Shutterstock
犬は仲間の死を悲しむのか? | the WOOF イヌメディア
同じ家に住むペット動物と離別すると、同居犬が悲しんでいるような様子を見せるというのは、よく聞かれる話です。 家族として暮らす動物が「いなくなってしまうこと」で、犬が悲嘆にくれることはあるのでしょうか。 あいつ、どこ行ったんだ? image by Ian D. Keating / Flickr …