【犬と子供】子供は犬の”ストレス表情”を誤って読み取る

サイエンス・リサーチ
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the WOOFを始め、多くのメディアが犬と子供が楽しく接する写真や動画を掲載しています。そうした情報を目にすると「犬は安全」「しつけをしていれば噛まない」「家族に対しては忍耐強い」という印象を持ってしまいますが、犬はやはり犬。噛むときは噛むものです。

私たちはこの「噛むときは噛む」という事実を忘れてしまいがち。普段の犬の、穏やかで優しい暮らしぶりを見ると、「このコは大丈夫」と思ってしまうものです。”犬は家族、でも犬は犬”ということを、折に触れて振り返る機会を持つことは、とても重要なことのように思います。

今日は犬と子供と咬傷事故のお話。子供が巻き込まれる咬傷事故の性質について考えてみたいと思います。

家族以外を被害者とする咬傷事故が多い日本

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もう、やめてよぉ〜 image by Steve Garner / Flickr

米国では年間に約450万件の咬傷事故が発生しています。2005年から2015年までの11年間に死亡した米国人は約360名。そのうちの50%である180名は、0から9歳まで子供です[1]

日本の状況に目を向けると、咬傷事故の発生件数は2014年で4264件。うち、死に至るような重大事故は数えるほど(2014年は3件)です。また、子供の被害者の占める割合も、米国と比較すると低いようです。横浜市で2008年に発生した咬傷事故は109件で、うち未成年者が占める割合は約23%、飼い主や家族以外に牙が向けられることが殆どでした。

米国との違いは、犬種や飼い方の違いによるところが大きそうですね。小型犬が多く、リード装着が義務付けられている日本と、大型犬が多く自由度も高い米国の数字は、違ってて当たり前なのかもしれません。ただし、子供と犬との’相性’があまり良くないのは、日本でもよく言われること。他の家の子供と接する機会がゼロではないのなら、子供と犬の関係について知識をつけておきましょう。

子供は歯を見せる犬を「喜んでいる」と解釈する

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喜んでないから〜 image by smerikal / Flickr

多くの子供達は、犬の目をじっと見ることが’敵意ある行為’であることを知りません。「話をするときは人の目を見て話しましょう」と教わっている子供なら尚更、人間と接するのと同じように、犬の顔や目を覗き込むことでしょう。もうその時点で、犬によってはストレスに感じるかもしれません。犬の様子を見て、緊張が高まっているようならば、子供の注意を大人側にひきつけるか、犬を引き離す(抱っこする、立ち去る)ようにしましょう。

また子供は、犬の恐怖や怒りの表情を見て「喜んでいる」と解釈することが多いそうです研究では、犬の写真ではなく動画が使用され、犬のシグナルを子供に解釈させる実験が行われました。犬の発するシグナルを危険度ごとに3つに分類し、それを子供たちに見せるというものです。

多くの子供たちは、「非常にストレスを感じている」シグナルでも「楽しい、リラックスしている」と解釈しました[3]。そっぽを向く、歯を剥くなどの危険度が高いことを示す表情についても、81%の子供は犬が「とても幸せである」と解釈したのだと言います。研究者たちは、犬たちが恐怖や威嚇の際に見せる”歯を剥く”という表情を、「とても幸せだから歯を見せる」と解釈するのではないかと推測しています。

ちなみに、映像に音刺激(唸り声や吠え)を伴った場合だと、正しく解釈できる割合が増えたそうです。ただ、唸り声が出るのは本当に本当の最終局面で、そこまで行くと手がつけられない可能性は十分にあるのです。

まずは大人が正しく解釈できるように

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嫌なの! image by Marina Castillo / Flickr

子供たちに犬が発するシグナルについての正しい知識を教えるのは、とても大事なことですよね。ただ、その前に大人も正しい知識をつける必要があります。米国で804人の犬の飼い主を対象に行われた調査[4]によれば、犬の行動及び犬と子供の接触についての安全対策に関する知識を正しく身につけている人はほんの一握りなのだそうです。

不幸な事故を減らすことができるのは、犬の飼主さんだけ。犬の行動、ボディ・ランゲージ、身を守る行動などについて学び、事故を未然に防ぐ努力はしておきましょう。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] DogsBite.org
[2] Meints, K., Racca, A., & Hickey, N. (2010). How to prevent dog bite injuries? Children misinterpret dogs facial expressions. Injury Prevention, 16(Suppl 1), A68-A68.
[3] Meints, K., & Just, J. (2014). Growl or no growl? Differences in children’s interpretation of dogs’ distress signalling.
[4] Reisner, I. R., & Shofer, F. S. (2008). Effects of gender and parental status on knowledge and attitudes of dog owners regarding dog aggression toward children. Journal of the American Veterinary Medical Association, 233(9), 1412-1419.

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