その唸り声は遊びか威嚇か〜人間は唸り声に含まれる感情を理解している(研究)
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犬は様々な局面で唸り声をあげます。相手を威嚇するとき、脅威を感じたとき、そして楽しくて興奮したときにも唸り声を上げることがあります。
犬の様子を見ていれば、「喜んでるな」とか「怖がってるな」と聞き分けることは可能でしょう。しかし、音しか手がかりがなかったらどうでしょう?犬たちの感情まで聞き分けることはできるのでしょうか?
音声に含まれる感情を理解する
これをひも解くためにまず、人間が音声に含まれている情報をどう識別しているのかを、ざっくりと理解しておきましょう。
人間がコミュニケーションのために使う音声には、言語的情報(文字言語として表現される情報)、パラ言語的情報(韻律的特徴。発話意図や感情状態などが表現される)、非言語的情報(声の特徴などの個人的・身体的情報)などが含まれています。音声についての研究は様々な角度から行われていますが、感情と音声の関係を研究する分野では、声の高・低、強・弱、リズム・テンポを指す韻律的特徴が主に調査されてきました。先行研究によれば、感情は音声の韻律的特徴により伝達されるということがわかっています[2]。
ここまでを本当にざっくり要約すると、伝える側は自分の感情を声のピッチや強弱などに乗せ、受け取り側はこれらの情報を規則化して相手の感情を理解しているといえます。声のトーンだけで「怒ってる」「意気消沈してる」という印象を受けるのは、私たちの中に何らかのルールがインプットされているからなのですね。
動物行動学者のTamás Faragó博士は、私たち人間はこれらの音声認識のルールを、他の動物とのコミュニケーションにも利用しているのだと言います。Faragó博士らは2014年に、人間が犬の音声情報を理解するときも人間に適用するルールを使うことを示す論文を発表しました[2]。論文では、人は犬の感情を、音の強弱やリズムなどから”解釈”できるとする一方、細かい設定を識別することは難しいということが示されました。「遊びによる興奮からの唸り」と「攻撃性による唸り」を識別することは困難だというのです。
うーん、「遊びと攻撃性の違いって聞き分けられそうな気がするなぁ」と思った飼い主さん。その感覚は間違っていないかもしれません! Faragó博士は新たに実験を行い、「人間は犬の声から、遊びの興奮と脅威とを聞き分けることができる」ということを示したのです。
人間は犬の感情を聞き取ることができる
今回の実験で加えられたのは「文脈」。ただ興奮させる、ただ威嚇するのではなく、状況を設定して犬に声をあげてもらったのです。識別する人間側にも感情の推定だけでなく、状況を選択する質問が追加されました。
実験に参加したのは18匹の犬と40人の大人。18匹は(1)他の犬から食べ物を守る、(2)人間と引っ張りっこ遊びをする、(3)見知らぬ人に接近されるという3つの”唸り声をあげさせる状況”が与えられました。犬の声は録音され、40人に提示されました。
参加者の40人には、2セットの録音が提示されました。(1)〜(3)の状況に対する2つの唸り声の録音が1セットであり、参加者はこれを2タイプ聞くことになります。
それぞれのデータセットには、異なる質問が準備されています。犬の感情を推測する質問と、状況を推察する質問です。1セット目では恐れ、攻撃、絶望、幸せ、遊びのどれに該当するかを数字で評価し、2セット目では、(1)〜(3)の状況にどれに該当するかを回答することが求めらました。研究者らはこれらを集めて整理をし、分析を行ったのです。
結果、参加者のうち81%が遊びの唸り(2の状況)を正しく回答できました。また、60%が食べ物を守る唸り(1の状況)を、50%が見知らぬ人への唸り(3の状況)を正しく回答できました。遊びの興奮(2の状況)に対しては、”幸せ”や”遊び”のスコアが高くなり、”恐れ”、”攻撃”、”絶望”のスコアは低くなったということです。どうやら私たちは音声情報を聞くだけで、犬の意図を正しく識別できるようなのです。
女性の方が犬の意図を正しく理解できる
そして犬の感情を斟酌する上では、女性の方が男性より一枚上手であるようです。65%の女性が犬の意図を正しく理解したのに対し、男性で正しく理解できたのは45%にとどまったということです。研究者らは、「女性の感受性が高い言われている。おそらくはこの感受性の高さが、唸り声を発するコンテクストの理解に役立っていかと考えられる」としています。
愛犬家のパパさん達、がっかりすることはありません。飼い主と飼っていない人とを比較した場合、60対40で犬の飼い主が正確さにおいて優ったそうです。この結果は性別とは関係ないとのことで、ママさんには負けてしまうかもしれませんがパパ達もやはり、愛犬達の感情をより良く理解できてはいるようです。
犬達は、遊びという逼迫していない状況においては、ある程度”手心を加えた”唸り声を発するようです。犬と人間が同じ前提に立ってコミュニケーションしているというのは、実はかなりすごいことなのではないでしょうか。
犬への愛情がさらに強くなりそうな気がしませんか?
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
森山剛, & 茂美穂. (2011). 音声が感情を含むことによる声質変化の解析. 東京工芸大学工学部紀要, 34(1), 58-64.
[2] Faragó, T., Andics, A., Devecseri, V., Kis, A., Gácsi, M., & Miklósi, Á. (2014). Humans rely on the same rules to assess emotional valence and intensity in conspecific and dog vocalizations. Biology letters, 10(1), 20130926.
Faragó, T., Takács, N., Miklósi, Á., & Pongrácz, P. (2017). Dog growls express various contextual and affective content for human listeners. Royal Society Open Science, 4(5). Retrieved from http://rsos.royalsocietypublishing.org/content/4/5/170134.abstract
Featured image credit andrew.yim / Flickr
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