硬くて太いイヌの”ヒゲ”〜周囲の情報を集めて犬の安全を守る優秀な警報装置

犬のカラダ
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マズルの横からピヨ〜ンと伸びる、硬くて太く長〜い毛。思わず引っこ抜いてしまいたくなる衝動に駆られますが、ちょっと待って!その毛はとっても重要な役割を果たしているのです。

”ヒゲ”=触毛〜マズルの横から突き出る硬い毛


びよ〜ん image by Tony Alter / Flickr

ピヨンと伸びる犬の”ヒゲ”には、触毛(感覚毛、vibrissae)という立派な名前がついています。他の毛より2倍は太く硬く、3倍ほど深く皮膚に根を下ろす触毛は、マズルの両側だけでなく、目の上や顎の上、上唇の上にも見られます[1]

猫の”ヒゲ”が両側4列に12本並ぶのと異なり、犬の”ヒゲ”の生え方は様々です。たくさん生えている犬もいれば、ほとんどは生えていない犬もいるのだそう。ヘアレスに分類される毛のない犬には触毛もないことがあるそうです。

ただ、元々触毛を持つ犬は、触毛を通じて世界を体験している可能性があります。そのために専門家の多くはこの毛について、「切ったり抜いたりせず、そのままの状態にしておくべき」と勧めるのです。

犬は”ヒゲ”で世界を体験している

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顔を出せるか、出せないか image by https://flic.kr/p/6BCKL4 / Flickr

”触られる”を感知する皮膚の受容器の一つに、表皮と真皮にあるメルケル細胞があります。犬の場合このメルケル細胞は、犬の鼻と触毛に集中して豊富にあり、高感覚領域を形成しています[2]

非常に高感覚な触毛は、多くの情報を伝えることで「食物の獲得、捕食行動、攻撃、仲間内のコミュニケーションでの顔の表情作り、フェロモンの拡散、泳ぐ時の頭の位置の維持、そして様々な環境モニタリング(例:水中での位置確認、地上での風の方向認知など)」などに犬の様々な行動に役立っています。視覚が比較的発達していない犬にとって、触毛はいわば視覚障がい者が使う杖のようなもの外界や近くにある物体の情報を伝えて、犬の安全を守ります。近くの物体にうまく焦点を合わせることが不得意で、マズルの存在が視界を遮っている犬にとって、触毛の存在は不可欠と言えるでしょう。

触毛をメジャーがわりに使う犬もいます。その場所に入ることができるか、通り抜けできるかなどの情報を、触毛を通じて得ているのです。ラットやアザラシ、セイウチなどは食物探知にも触毛を利用することがあるそうですが、犬についてこれを明らかにする研究はほとんどありません。

さらにこの触毛を、感情の伝達に使うとする説もあります。脅かされると”ヒゲ”を前方に突き出して表現するというものですが、他の動物や犬と闘う時の防衛的反応(あるいは防衛戦略)だとする科学者もいます[4]

”ヒゲ”のケア〜医療上の理由がなければ自然のままに

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可愛いでしょ? image by Chris Barnes / Flickr

このように、素晴らしい働きをしてくれる触毛を、私たちはどうケアしてあげれば良いのでしょうか。

答えは「何もしない」。つまり自然のままにしておくのが良いようです。

触毛は痛みの受容体を持たないため、切断しても犬が痛みを感じることはありません。しかし、触毛を失うことは、方向感覚や位置情報を失うことに繋がります。ヒゲのお手入れをした後に、混乱をきたしたり空間認識が低くなる恐れもあるということです。美しさを維持しようとすることが、傷跡や痛みを残すことに繋がるのなら、何のためのケアだかわからなくなってしまいますよね。

触毛は他の毛同様、抜けることがあるようです。飛び出ることはありますが、例えば一本が2mになるという不自然なことにはならないようです。一方、カットしちゃった!という場合も伸びてくるので問題はありません。

フワフワの可愛い愛犬に、ビヨ〜ンと突き出る剛毛。それも可愛いものだと、自然のままに受け止めてあげましょう(実際、可愛いですよね!)。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] What is the Purpose of Dog Whiskers? | CANIDAE®
[2] Ramírez, G. A., Rodríguez, F., Herráez, P., Suárez-Bonnet, A., Andrada, M., & Espinosa-de-Los-Monteros, A. (2014). Morphologic and immunohistochemical features of Merkel cells in the dog. Research in veterinary science, 97(3), 475-480.
[3] Ahl, A. S. (1986). The role of vibrissae in behavior: a status review. Veterinary research communications, 10(1), 245-268.

Featured image credit Steven Tyler PJs / Flickr

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