分離不安症のワンコも薬物治療で気持ちが楽になる!? 〜不安ワンコの救世主になるか?

しつけ・トレーニング
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普段はおとなしくて、とっても良いワンコ。でも、お留守番は大の苦手。

ちょっとの時間だったとしても、物を散らかし、家具を傷つけ、大きな声で鳴き続ける・・・。こうした困った行動に、頭を抱える飼い主さんも少なくありません。

これらの行動があまりにもひどい場合、分離不安症という心の病気が考えられます。

分離不安症とは

分離不安とは、留守番などで飼い主と離れるとひどい不安に陥る症状[1]で、不安から吠える、物を壊す、トイレ以外で排泄するなどの様々な問題行動を起こすようになります。

行動療法で症状を改善させることもありますが、治療がすすむまでは「留守にしない」ことが必要だという問題があります。お仕事などの都合により、留守番を避けることが困難なことが多いからです。

このため、行動療法と薬物療法が併用された治療が行われることは少なくありません。行動療法で飼い主に対する依存を下げるとともに、薬物を併用し不安を低減することで、避けられないお留守番において少しでも落ち着けることを目指すのです。

分離不安の薬物療法

分離不安の治療に使われる薬とは、どういったものなのでしょうか。

欧米では、動物用薬のほかに、人の精神疾患に使用される薬物(三環系抗うつ薬やSSRI)を使用しているようです。日本においても状況は同じですが、欧米では許可されている動物用薬の未承認薬もあるため、使用できる動物用薬は少なく、人体薬や海外輸入薬を使用せざるを得ないこともあるということです[1]

今回、下記でご紹介する研究で使われた動物用薬は、犬の分離不安治療薬リコンサイル(Reconcile、イーライ・リリー社)です。噛み砕けて牛肉の味がする「犬用」ですが、有効成分はフルオキセチン塩酸塩でプロザック同じなのだそうです[2]

プロザックは、人のうつ病や、強迫性障害、注意欠陥多動障害患者の治療に用いられる、SSRIと呼ばれる抗うつ剤で、これを犬用にデザインしたものがリコンサイルです。薬物だけの治療ではなく、行動療法等を含めた治療の補助という位置付けであることには注意が必要です。

ちなみにプロザックは厚生労働省の承認を受けておらず(2015年7月現在)、リコンサイルについても発売の予定はないそうです※。

※ リコンサイルについて、日本イーライリリー社に問い合わせをしたところ、米国の製薬工場の統廃合にともない「リコンサイル」を作る工場が閉鎖になったため、米国での販売も昨年中止になったとのお返事をいただきました。

行動療法と薬物療法を組み合わせた治療

このリコンサイルと行動療法を組み合わせた治療関する論文[1]が、英国リンカーン大学研究者チームによって発表されました。

この研究の面白さは、治療によってワンコが本当に元気になるのか、ということを確かめようとしたところにあると思います。薬物療法というと、問題行動を起こさないように「抑制」するんじゃないの?という疑問を持ってしまいますが、この研究では「行動療法と併用することによってキモチが楽になるようだ」ということを示しているのです。

研究に参加したのは分離不安と診断された5匹の犬たち。2ヶ月にわたって、一般的な行動療法とあわせてリコンサイルの投与を受けました。進捗の確認には、飼い主に対するアンケートとインタビュー、そしてこれらに加えて認知バイアス(Cognitive Bias)のテストが行われました。

このテストは、犬が楽観的か悲観的かを判断することを目的に設計されたもので、犬の行動によりそれを確かめるというものです。

S12917 015 0373 1 1

Karagiannis et al. BMC Veterinary Research 2015 11:80 doi: 10.1186/s12917-015-0373-1 |

このテストで犬は、フードが入っているボウルがある場所(R+)とフードが入っていないボウルがある場所(R-)を教えられます。次に、微妙な位置(NR-、MID、NR+)にボウルを置きます。このときの、犬の反応を見るのです。すなわち、微妙な位置にあっても「フードが入っている」と判断したら楽観的であり、「入っていない」と判断したら悲観的とするというものです。

結果、行動療法と薬物療法を併用した犬は、より楽観的になったそうです。そしてそれに伴い、問題行動も減っていったということです。

研究を率いたミルズ教授(Daniel Mills, Professor of Veterinary Behavioral Medicine at the School of Life Sciences, University of Lincoln)は「リコンサイルのような薬物は、単に行動を抑制するだけで感情面には作用しないと考えていました。しかし、この研究によって、薬はイヌの気持ちを楽にしていることが分かった」と述べています。

そうは言っても、こうした薬剤をイヌにも使うことについては批判的な考えを示す動物心理学者も多く、議論が繰り返されています。ミルズ教授も「薬剤治療は単独で行うのではなく、必ず行動療法と合わせて行うべき」ことを強調しています。


分離不安症の原因はイヌの性格も関わっていますが、飼い主の過剰な愛情や接触に関連していることが大きいという専門家の指摘もあり、飼い主側の接し方を考え直す必要があるかもしれません。可愛がることは決して悪くはありませんが、可愛がり過ぎて共依存にならないように、飼い主さんが注意してあげてくださいね。

 
h/t to Pets on Prozac: Drug treatment can help anxious dogs — ScienceDaily , 翻訳:Akinaga


[1] 荒田明香, 藤原良巳, & 渡辺格. (2011). 『最新 犬の問題行動 診療ガイドブック』. 誠文堂新光社.
[2] 動物用医薬品等部会議事次第
[3] Karagiannis, C. I., Burman, O. H., & Mills, D. S. (2015). Dogs with separation-related problems show a “less pessimistic” cognitive bias during treatment with fluoxetine (ReconcileTM) and a behaviour modification plan. BMC Veterinary Research, 11(1), 1–10. http://doi.org/10.1186/s12917-015-0373-1

 
Featured image by Jeroen van den Broek via shutterstock

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