犬は人間と絆をむすび、私たちに大きな喜びをもたらしてくます。しかし犬に行動の問題があると、絆にほころびが生じたり失われてしまうこともあります。
犬が望ましくない行動をはじめたら、飼い主はどう対処すれば良いのでしょうか?
愛犬の行動に問題があることを認める
飼い主の中には、自分の愛犬に行動の問題があることを認めたがらない人がいます。犬のサインを正しく読み取れないためにそれが問題だと認識できないケースもあれば、その問題を一過性のものだと軽く考えてしまうケースもあります。あるいは最近よく聞かれる、「問題行動をする場合、犬に問題があるのではなく飼い主に問題があるのだ」という考え方も影響しているのかもしれません。
犬が困った行動をはじめると飼い主さんは、「我慢を強いているせいだ」とか「甘やかしすぎた」などと考えるかもしれません。もちろん、人間との関係や環境が犬に困った行動を起こさせているのかもしれません。しかし原因となるのはそれだけではありません。病気や怪我によるストレスや年齢による身体の変化も、行動に大きく影響します。
行動の問題を認識しなければ、真の原因を追求することも愛犬のストレスを軽減してあげることもできません。まずは正面から問題に向き合って、専門家と一緒に対処の方法を考えましょう。
それは行動上の問題か、病的な問題か
私たちは一般的に、犬が人間を困らせるような行動を「問題行動」と呼びます。しかしここには、行動上の問題と行動障害(病的な行動や行動の異常)の両方が含まれており、対処の方法は大きく異なります。
行動障害には、重度の恐怖、不安、攻撃的行動などがあります。恐怖や不安への対処ができず、手に追えないほど震えたり、唾液が過剰に分泌されたり、吠えたり唸ったり隠れたり、あるいは攻撃的な行動で周囲を危険にさらすこともあります。遺伝的素因からそうした気質に生まれつくこともあれば、過去の経験や学習から、あるいはホルモン異常から行動障害を発する犬もいます。
ペットに行動障害(とくに攻撃的な行動)がみられたら、すぐに獣医師に対処の相談しましょう。動物行動だけでなく、行動病理などの広範な知識と経験、精神薬の処方などが必要になる可能性があるので、まず向かうべきは動物病院です。
一方、行動上の問題には、人に飛びかかったり、ひもを引いたり、要求ぼえをするなどが含まれます。これらは概ねトレーニングなどにより解決できます。問題の程度によっては飼い主だけの力で解決することもできますが、望ましくない行動をやめさせて良い行動を強化するには、適切なタイミングでの学習が必要です。トレーニングの基本的な考え方を学ぶ意味でも、できれば早いうちに経験豊富なトレーナーの助けをかりるようにしたいものです。
専門家のサポートを求める
愛犬の行動に問題があることを認識したら、それがどんな程度のものであっても、まずはかかりつけ獣医師に心身の健康状態を評価してもらいましょう。健康問題が行動上の問題の根本的な原因でないことを確認し、この後の対処のアドバイスや動物行動の専門家の推薦を受けましょう。
どんな専門家が良いのかは、その犬の状態や飼い主との相性などにより異なります。しかし、行動障害への対処においても行動修正においても、罰を与えたり身体を痛めつけトレーニングは避けなければなりません。また一般的に行動の問題の解決には、非常に長い時間がかかります。「短期で完全に解決」などと謳う専門家は避けたほうが良いでしょう。
動物を押さえつけたり、酢溶液を顔にスプレーしたり、チョークやショックカラーを使用したりするような厳しい罰を伴う訓練は、犬の行動を抑制するだけで問題を解決するものではありません。恐怖や不安を増大させることから、より攻撃的な行動を示すようになる恐れもあります。
罰を与えない
すぐに専門家のサポートを求めることができない場合もあるでしょう。その場合は「罰を与えない」「恐怖や不安を引き起こす状況を回避する」ことを徹底してください。
前述のとおり、行動に問題がある場合に罰を与えることは、一時的には効果があるように見えるかもしれませんが、行動をエスカレートさせる恐れもあります。身体的にも言語的にも、罰の使用は避けなければなりません。
恐怖や不安を引き起こす状況を回避することは有効な対処法です。特定の刺激を避けることで穏やかで扱いやすくなるのであれば、出来るだけストレスの少ない状況に置くように工夫をすると良いでしょう。ただし犬によっては単に引きこもり、フリーズしたり隠れたりするだけになるかもしれず、根本的な解決には繋がらないかもしれません。様々な状況に対応できる自信をつけてもらうためにも、機会をつくってトレーニングで解決するよう頑張ってみましょう。
孤独にならない、絶望しない
”問題行動”をする犬の飼い主さんは、「なぜうちのコだけワンワン吠えるの?」「なぜ友達と遊べないの?」と悲しい気持ちになってしまうかもしれません。家族や友人、さらには全く見知らぬ人から一方的なアドバイスや心無いコメントを受けることもあるかもしれません。
行動の問題は、そのすべてが飼い主のせいで起こるものではありません。遺伝的素因、学習経験、感情状態の高まりや身体の状態、環境などが組み合わさって現れることもあるのです。飼い主さんや犬自身にもどうにもならないこともあります。
できるだけ孤独にならないようにしましょう。思いつめて愛犬を恨まないようにしましょう。SNSなどで同じ状況にいる人を探してみましょう。様々な専門家(獣医師、トレーナー、保護施設など)に相談してみましょう。
「犬育て」に悩んでいるのは、あなた一人ではありません。あなたが経験したことを経験した人もいれば、理解してくれる人もきっといます。仲間や専門家の助けを求めてください。愛犬をより愛することができる日は、きっとやってきます。
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