見つめあいで促進、人とイヌとの絆〜オキシトシンの関与を確認(麻布大学など)

サイエンス・リサーチ
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愛犬、特に子犬を見ると、思わず抱きしたいという衝動に駆られませんか?

黒々とした目で見つめられると、抗うことなど至難の業。なんでも言うことを聞いてあげる〜という気持ちになってしまいます。

ワンコさんとの交流の中で感じるそんなキモチの動きが、科学的に検証されましたよ!

アイコンタクトを主とした愛着行動とオキシトシン※の分泌が、愛犬と飼い主の間の親近感や信頼関係を促進させるという研究結果が、Science誌(2015年4月)に掲載されました[1][2]。麻布大学、自治医科大学ならびに東京医療学院大学の共同研究グループによる成果です。

※オキシトシン:脳の視床下部で分泌される脳内物質。社会的認識、絆、不安、母親行動、授乳など多様な行動において重要な役割を果たすと考えられている。

イヌとヒトとの絆は愛着行動とオキシトシンによって促進される

母親と赤ちゃんといった親子関係では、愛着行動とオキシトシンとがポジティブ・ループを形成することで両者の絆が深まることがわかっています。抱いたり、眼を覗きこんだりといった行動で、「愛情ホルモン」とも呼ばれるオキシトシンという物質が分泌され、さらに愛着行動をするといった循環を形成するのです。

今回の実験で麻布大学研究チームは、飼い主と愛犬の間にも同じ現象が起きることを明らかにしました。

・実験1: イヌとヒトは見つめ合うことでオキシトシン濃度が上昇

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実験1(麻布大学発表資料より)

研究チームが行った実験では、一般家庭犬とその飼い主30組が参加し、実験室で30分間の交流を行いました。行動解析により、イヌが飼い主をよく見つめる群(Long Gaze group: LG)と、あまり見つめない群(Short Gaze group: SG)とにわかれることが判明しました。2群の尿中のオキシトシン濃度を測定したところ、LG群では飼い主も犬も30分の交流ごに尿中オキシトシン濃度が上昇したことが分かったのです。一方、SG群では飼い主もイヌにも変化はみられなかったとのことです。

イヌの飼い主にむけた視線はアタッチメント行動として飼い主のオキシトシン分泌を促進するとともに、それによって促進した相互のやりとりはイヌのオキシトシン分泌も促進する

・実験1: オオカミは見つめてくれない

さらに面白いのは、この実験を人に飼育されたオオカミにも行ったというところ。イヌとオオカミが共通の祖先種をもつとされているのは、皆さんよくご存知ですよね。

実験に参加してくれたオオカミさんは、幼少期から人間と生活をともにし、非常に親密な関係を築いているみなさん。11組について、上述と同様の実験を行ったのだそうです。30分の交流から、オオカミはほとんど飼い主の顔を直接見ないことが判明し、また、尿中オキシトシン濃度の変化は認められなかったのだそう。飼い主とオオカミの接触はLG群と差がなかったにもかかわらず、なのです。

・実験2: オキシトシンを投与することで飼い主への注視行動が増加

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実験1(麻布大学発表資料より)

一般家庭犬と飼い主30組によるさらなる実験は、飼い主以外の初対面のヒト2名が加わって行うというものです。実験室で30分間の交流を行うところは同じですが、ヒトからイヌに声をかけたり触ったりすることは制限されていたようです。イヌには、オキシトシンあるいは生理的食塩水を経鼻投与しています。

行動解析の結果、オキシトシン投与によってメスイヌの飼い主を見る行動が増加しました。また、メスイヌと交流した飼い主さんは尿中オキシトシン濃度が上昇したということです。ちなみに、オスイヌの行動やその飼い主さんの尿中オキシトシン濃度に変化はなかったそうです。

これに対し、永澤美保研究員は、オキシトシンにはオスの間では、オキシトシンは他のグループのメンバーに対して敵意を煽る作用があるため、他の初対面のヒトに対して警戒心を抱いたのではないかと述べています[3]

ヒトとイヌとの間には母子間と同様の視線とオキシトシン神経系を介したポジティブ・ループが存在し、それにより生物学的な絆が形成される

「イヌと絆を感じる」というのは感傷だけではないみたい

飼い主さんにとっては、「科学が自分たちの感覚に近づいてきた」という感想をお持ちになるかもしれませんね。この研究の概要には、「戦略的知能は類人猿であるチンパンジーのほうが優れていますが、「心のありよう」がヒトに近いのはむしろイヌであることが、最新の研究によって明らかになりつつあります」とあり、「そうだそうだ!」と深く同意する飼い主さんも少なくないのでは?

「ヒトとイヌにはそれぞれの進化の過程でストレス応答システムに同様な突然変異が起こり、それが双方に寛容な気質をもたらしたことで共生が可能になったこと、そしてそれに付随してヒトは他者と協力しあえるようになったという仮説(収斂進化仮説(Hare B, Tomasello M. Trends Cogn Sci. 9, 439-44, 2005.)」もあるのだそうですよ。面白いですね。

この実験はイヌが対象ですが、ネコ飼いさんなら「いやいや、ネコとだって絆を深められるよ」と言うのかもしれません。いずれにせよ、こうした素晴らしい研究からいろいろなことが明らかになっていくのは嬉しいものです。


見つめ合うだけでワンコへの愛おしさが爆発・・・という経験は、飼い主さんならお持ちのことだと思います。母子関係に類似した生理的作用であるならば、愛犬を自分の子どものように扱ってしまうのも当然かもしれませんね。


[1] Nagasawa, M., Mitsui, S., En, S., Ohtani, N., Ohta, M., Sakuma, Y., … & Kikusui, T. (2015). Oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bonds. Science, 348(6232), 333-336.
[2] 麻布大学獣医学部 伴侶動物学研究室|ヒトとイヌの絆形成に視線とオキシトシンが関与
[3] New Scientist | 16 April 2015

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