そのストレス量、ワンコに合ってる?〜与える刺激の「適量」は犬の気質によって異なるらしい(研究)

サイエンス・リサーチ
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アメリカのデューク大学の研究者らは、犬にストレスや刺激を与えたとき、犬の行動にどのような違いが現れるのかを実験で確認しています。その結果、興奮しやすい犬はストレス刺激に押しつぶされやすい傾向がみられた一方で、落ち着いた犬はストレス下でもより良いパフォーマンスを見せることがわかったそうです。

この研究論文[1]は、科学雑誌”Animal Cognition”に掲載されています。

ヤーキーズ=ドッドソンの法則:ストレスとパフォーマンスの関係

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おれは、やるよ!おれは、すごいよ!  image by Mackland / Shutterstock

ヤーキーズ=ドッドソンの法則(the Yerkes-Dodson law)をご存知でしょうか。極度の高ストレス下にある場合や、目を覚ましたばかりの時のように極度の低ストレス下にある時の記憶や知覚の正確さは、適度なストレス下にある場合よりも劣るというものです。ネズミを使った実験により見出されたものですが、その後、動物のみならず人間においても、情動的ストレスと知覚や記憶のパフォオーマンストの間にこの関係が成立すると考えられるようになってきました[2]

「あるタスクの難易度が低いと継続的に十分な能力を発揮することは難しく、逆に、難易度が高すぎても、よい成果は得られない」といった説なら、聞いたことがあるかもしれませんね。この論拠として用いられるのが、ヤーキーズ=ドッドソンの法則です。ストレスの微妙なバランスが、人間、動物両方から良いパフォーマンスを引き出すための決め手となるようです。

ストレスによるパフォーマンスの違いは、ワンコたちにも見られるのでしょうか?

実験のセッティング:どうやって調べたんだろう?


Duke University Study Finds Stress “Sweet Spot” Differs For Mellow Vs. Hyper Dogs / YouTube

デューク大学の研究者らによる今回の実験では、個々の動物の気質の違いによってストレス(刺激)の適量は異なるかどうかという点が追求されています。

実験協力犬は生後8ヶ月〜11歳までの、様々な種類の飼い犬30匹と、介助犬訓練所の訓練犬76匹。実験協力犬と研究者は、透明な衝立で遮られているという実験セッティングです。

ワンコたちが直面する課題は、衝立の反対側にまわって、研究者がもつ犬用おやつ(ジャーキー)をゲットできるか?というものです。おやつが目の前に見えるというのに、研究者に突進しようとすれば衝立にぶつかってしまうだけ。だから、一旦は逆方向に向かってジャーキーに飛びつかなければならないというのです。

さて、実験のポイントの一つは「個々の動物の気質の違いによって」というところです。気質をどうやって測ったのか、興味がありますよね。なんと、1分間に尾を振る回数によって推定したということですよ!気質の違いについて、研究者のブレイさん(Emily Bray)は、「一般的に飼い犬に比べて介助犬は、ストレスや気を散らすものに直面しても落ち着いており、飼い犬の方はより興奮しやすく神経質です」と語っています。

さて、実験の準備が整いました。ようやくワンコの名前が呼ばれます。ここで、与える刺激(ストレス)量を変える工夫がなされています。一つの実験では、(1)穏やかで平坦な声色で名前が呼ばれ、対する実験設定では、(2)オヤツをブラブラさせながら、興奮した声色で逼迫した様子で名前が呼ばれます。さぁ、ワンコたちはどのように行動したのでしょうか?ワンコたちの気質によって、その行動に違いはあったのでしょうか。

結果は?:気質の違いによって、刺激への反応は異なる

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あたしも、できるのよ〜  image by cynoclub / Shutterstock

実験の結果、飼い犬も介助犬も、ともに仕掛けをクリアし、衝立の反対側にいる研究者からオヤツをもらうことができました(よかった!)。一方で、ストレスや刺激の「適量」は、個別の犬の気質によって異なることがわかったのだといいます。

落ち着いてのんびりした性格の犬は、(興奮した声などによる)刺激の度合いが増すと、集中して能力を発揮できるようになったといいます。一方で、興奮しやすい犬たちは逆に、刺激を強くすると課題達成に時間がかかってしまいました。たとえば、チャーリー・ブラウンさん(2歳、スパニエル)は、落ち着いた声色のときは容易に課題を達成することができていたにもかかわらず、興奮した声色で呼ばれたときは課題を達成することができなくなってしまったというのです。

ワンコたちも、気質による違いがあるようですね。こうした研究成果は、個別犬によってどんなトレーニングが適しているのかを考えることや、補助犬などの適正判断にも役立てることができそうです。

 

h/t to Stress ‘sweet spot’ differs for mellow vs. hyper dogs, 翻訳:Yukiko R


[1] Bray, E. E., MacLean, E. L., & Hare, B. A. (2015). Increasing arousal enhances inhibitory control in calm but not excitable dogs. Animal cognition, 1-13.
[2] 中島義明 (Ed.). (2011). 『心理学辞典』. 有斐閣.

 
Featured image by Andraž Cerar / Shutterstock

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