”過保護のワンコ”は成功しない!?〜厳しい母犬が良い盲導犬を育てる(研究)

サイエンス・リサーチ
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常に寄り添い、問題が起こると手を差し伸べるような親子関係は、子犬の成長の阻害要因にもなるようです。

最新の研究によれば、過保護な母犬に育てられた犬は、訓練プログラムを終えて盲導犬になる確率が低くそうです。犬生の初期の母子関係が、子犬のその後の成長にも影響を与え続ける可能性が示唆されています。

過保護な母犬に育てられた子犬は脱落傾向に

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image by Philip Penrose / Flickr

生涯の初期の経験が大人になってからの行動に与える影響については、人間や他の霊長類、齧歯類について多く研究されてきましたが、犬を対象としたものはほとんどありませんでした。

そこに着目して犬を対象に研究したのは、ブレイ博士(Emily Bray)率いる米ペンシルバニア大学の研究チーム。誕生後間もない時期の経験が盲導犬としての訓練の成功にどう影響するかが調査され、犬の認知と気質が盲導犬訓練の成否に関連していることと、盲導犬としての成功を予測するための要因が特定されました[1]

研究チームは、子犬の初期の経験についてのデータを収集するため、ニュージャージー州の盲導犬訓練施設The Seeing Eyeにほぼ常駐し、5週にわたり母犬23匹と子犬98匹の行動を撮影し観察しました。観察の主な目的は、母犬と子犬との交流の仕方から母犬の行動を整理することにあり、データを整理し統計分析を行なったところ、母犬の中に”気配りタイプ(attentive)”がいることがわかりました。”気配りタイプ”の母犬は、唾液コルチゾールれえるが高く、ストレスレベルが高かったことも明らかになりました。

さらに2年後、追跡調査により子犬たちの盲導犬としての成否を確認したところ、”気配りタイプ”の母犬に育てられた子犬は盲導犬訓練プログラムを脱落する可能性が高かったことがわかりました。とりわけ、横たわっている時間が長い世話好き母犬に育てられた子犬は脱落の確率が高かったそうです。

過保護な母犬は、小さな挑戦の機会を奪う

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image by smerikal / Flickr

ブレイ博士らは当初、世話好きな母犬に育てられた子犬は成功しやすいのではないかと仮定して研究をスタートさせたそうです。しかし結果は全く逆で、気配り上手で世話好きな過保護なママに育てられた子犬の成績は、芳しいものではありませんでした。

ブレイ博士はこの結果について、「母犬の過剰な関与は、子犬から小さい挑戦の機会を奪ってしまう」と説明しています。例えば、横たわっている時間が長い母犬に例を取ると、子犬たちは苦もなくお乳を口にすることができますが、歩き回る母犬についてはそうはいきません。子犬たちは母犬からお乳をもらうために工夫と努力をしなければならないのです。

施設において子犬が母犬と暮らす期間は5週間で、その後は里親家族との暮らしを経て再度施設に戻り、訓練を受けることになります。母犬との暮らしは短いながら、その影響は永続的であることもわかりました。2年後に行われた追跡調査でも、”気配りタイプ”の母犬からの影響はしっかり残っていたのです。14〜17ヶ月齢を対象に行なったこの追加調査では、認知と気質を測定するためのテストが実施されたのですが、”気配りタイプ”の母犬に育てられた子犬は、多段階の問題解決作業をこなすのに時間がかかり、衝動をコントロールが上手くなく、見知らぬものへの抵抗が強かったということです。

この結果には驚いたとブレイ博士は語っています。「母犬と過ごしたわずか5週間は、2年後の成否に影響を与えています。子犬たちは幼い時期に、小さなチャレンジをし、それに対処する方法を学ばなければならないようです」

ブレイ博士は、これらの知見がサービスドッグの成功確率を高めるのに役立つのではないかと考えています。成功確率が上がれば、育成にかかる費用を抑えた上で、世に送り出す盲導犬の数も増やすことができるのです。早期に良い候補犬を選定することは、犬と人の両方の負担を減らすことにも繋がります。

今回の研究では、母犬の行動が子犬の将来に与える関係することを示していますが、その理由までは明らかにはなってしていません。愛情と放任のバランスをとるのは非常に難しく、子供の成否を分けるポイントがどこにあるのかは正確にわかっていないのです。

ただ、個体ごとの向き不向きが早めにわかり、子犬も適した場所で適した仕事ができるようになれば、それはそれで幸せですよね。これらの研究が犬の幸せにつながるとしたら、是非とも応援したいものです。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Bray, E. E., Sammel, M. D., Cheney, D. L., Serpell, J. A., & Seyfarth, R. M. (2017). Effects of maternal investment, temperament, and cognition on guide dog success. Proceedings of the National Academy of Sciences, 201704303.
[2] Successful guide dogs have ‘tough love’ moms, Penn study finds | EurekAlert! Science News

Featured image credit Found Animals Foundation / Flickr

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