里親に向けた犬の”笑顔”は恐怖を示しているかもしれない

生態・行動
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この記事は、ブログ記事”Shelter Pup “Smiles” From FEAR After She’s Adopted”を、筆者Eileen Andersonさんに許可をいただき翻訳したものです。Thanks, Eileen-san!

下のバイラル動画には、怯えた子犬が映っています。

  • 子犬はケージの後ろの方にうずくまっています
  • 動画の最初の方で、前脚を突っ張って身体を後退させます
  • 子犬は繰り返し まばたきをします
  • 子犬は目をそらして、何度か頭をそむけます
  • 子犬の耳は後ろに倒れています
  • 彼女は自分の口を引き下げ、”ニヤニヤ笑い(grin)”をみせます。この笑いは(自分または相手を)なだめることに関連したものと言われます

上記の行動はすべて、ストレスを示すものです。
ビデオの終わりに、子犬は前に身を乗り出します。

犬の笑顔は人間の笑顔とは異なる

犬の口が閉じた状態(または歯が見える程度に空いているが、ほぼ閉じている状態)で、犬の口角(交連)が後ろに引っ張られているときは、その犬はおそらくストレスを感じています。この行動は通常、社会的不安と関連しています。動物行動学者はそれらが「私を傷つけないで;私は脅威ではありません」といったシグナルであることに、概ね合意するでしょう。

動画の中の子犬はまた、他のストレスの兆候も示しています;まばたきをする、しゃがむ、目を逸らす、耳をぺったんこにして後ろに倒すなどの兆候です。

しかし私たち人間は、笑顔のようにみえるものに対して前向きな反応をする傾向があります。私たちはこの”笑顔のようにみえるもの”を、幸せを示すものだととらえるからです。この子犬の顔の特徴が服従のニヤニヤ笑い(the submissive grin)と組み合わさり、角が上がった(笑顔のような)口を作り出しています。表情はかわいいですが、喜びを示すものではありません。

幸せな犬がみせる、笑顔のような行動がひとつあります。それは、私の犬のクララがティーンエイジャーだったときの写真(下掲)にみられるような、口の開いた笑顔(the openmouthed smile)です。彼女の口は開いていて、彼女の口の角は少し後ろに引かれますが、それほど強くはありません。彼女の額は滑らかで、目は柔らかです。動画中の子犬と比較すると、クララがどれほどリラックスしているかわかりますよね?

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image by Eileen Anderson

⇨リンク先“Is That ‘Smiling’ Dog Happy?”では、「ストレスの多い笑顔」と「幸せな笑顔」を写真で確認できます。

この子犬に願うこと

私はこの記事のタイトルを、「おびえた子犬の笑顔」にしようとしていました。このタイトル案の方がページビューを稼げそうでしたが、この子犬が怯えていると確信ができなかったのでやめました。

(動画の子犬には)強い恐怖、身体のこわばり、あるいは震えなどはみられません。子犬は間違いなくこわがっていますが、彼女は相互作用的なボディーランゲージも示しています。

成犬になってからこのような反応がみられたら心配です。しかし子犬は通常恐れを感じるもので、これが一般的な程度のものであれば、社会化しやすい時期が過ぎる前に対処することで恐れを軽減することは可能でしょう。

動画の中の子犬は、少しずつ尻尾を振りはじめていて、動画が終わるころには人間の方へ向かっていました。うまくいけば、子犬は彼女の新しい家族と新たな世界を快適なものととらえ、幸せになるでしょう。

私たち人間は通常、子犬の”なだめ行動(appeasement behaviors)を愛らしいと感じます。私たちが可愛いと思うことは、子犬たちの生き残りを容易にしたと考えられます。

(動画の子犬は可愛いですが、可愛く見せるように)人々が意図的に子犬に圧力をかけていなかったことを願います。動画を拡散させたいという欲求は、人々に動物にかなり粗雑なことをさせる恐れがあります。 ”里親が見つかって幸せな犬”という動画のジャンルがありますが、残念ながらそのほとんどがストレスを感じている犬を紹介しています。

ボディーランゲージの専門家が語る”犬の笑い”

Barbara Handlemanは、犬のニヤニヤ笑い(grin)を能動的な服従行動として分類しています(Handleman、2008)。彼女は、服従のニヤニヤ笑い(the submissive grin)を親和的でもあるが、敵対的でもあると指摘しています。ニヤリ笑いの動物は、近づいてやりとりしたい場合もあれば、距離を置きたい場合もあるという意味です。彼女の著書(”Canine Behavior: A Photo Illustrated Handbook”)には、様々な服従のニヤニヤ笑いの写真が掲載されています;

  • p.10 オオカミ(身をかがめる、尾を下げ、耳を平らにする)
  • p.78 犬(親和的、距離を縮める)
  • p.175 犬(脚をあげる、ストレス)
  • p.260 オオカミ(能動的な服従、相互作用を求める)
  • p.263 犬(服従のニヤニヤ笑いとプレイバウ)

他の専門家の中には、服従のニヤニヤ笑いを能動的服従ではなく受動的服従として分類している人もあります。Michael Fox博士は、この子犬のニヤリを「あいさつのニヤリ」として分類するかもしれません。あるいは、口が閉じていることから、なだめ(appeasement)または服従(submission)のサインととらえるかもしれません(Fox、1972)。

獣医行動学者Karen Overallは、彼女の著書 ”Manual of Clinical Behavioral Medicine for Dogs and Cats”の中でニヤリとする行動について論じています。彼女はそれを恭順行動(an act of deference)と表現し、犬は通常は、自分が脅威ではないことを示そうとしていると言います。

追加3/8/19:所有者からの返事

子犬の里親は、子犬が元気であるとコメントしています。彼女は別の場所に子犬の素敵な写真を投稿しています。あなたは彼女の発言と私の反応をこの記事のコメントで見ることができます。

WOOFOO編集部より追記

上記は、所有者のニコールさんからブログへのコメント(「私たちは彼女の里親になりました。彼女は元気です」)があった件についての記述です。Eileenはこれに「子犬は新しい家族と共にきっと幸せになれる」と返信しています。また同時に「犬についての誤った情報は彼らに害を及ぼすというのが、このブログ記事の大きなメッセージです」ともコメントしています。

結論

このビデオは、笑顔で幸せな子犬の一例として共有されています。キャプションには、子犬が養子にされたことに満足しているとあります。これは有害な形態の擬人化であり、「気分がよくなる」ストーリーに仕立てようとするものです。私は子犬が(親切で優しい人々によって)養子にされたことを願っています、そして私は彼女が幸せであることを願います。しかし、ビデオの行動はストレスと不安を示しています。彼女の里親が、子犬にストレスがみられることを認識すれば、子犬はもっと幸せになるでしょう。

犬のボディーランゲージについて学ぶほど、私たちの親友をよりよく育てることができます。

◼︎記事に掲載されている参考文献
Dogs Don’t Smile, from the blog Border-Wars.
Fox MW: A comparative study of the development of facial expressions in canids; wolf, coyote and foxes. Behavior 1970; 36:49.
Fox MW: Understanding Your Dog. New York: Coward, McCann and Geoghegan Inc, 1972.
Fox MW: Inter-species interaction differences in play actions in canids. Appl Anim Ethol 1976; 2(2):181.
Fox MW, Cohen JA: Canid communication. In Sebeok TA (ed): How Animals Communicate. Bloomington: Indiana University Press, 1977, p. 728.
Handleman, B. Canine Behavior: A Photo Illustrated Handbook. Wolf and Word Press, 2008.
Overall, K. L. (1997). Clinical behavioral medicine for small animals. Mosby-Year Book, Inc.

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