ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は1月、米交通安全保障局(TSA)が、人の目にふれる場所の犬として”垂れ耳”の犬を好んで採用することを表明したと報じています。
NYTによれば同局は、「旅行者と対面することが必要な職務に就く犬については特に、立ち耳の犬より垂れ耳の犬を優先する」と語ったそう。理由は、「垂れ耳の犬はよりフレンドリーで、攻撃的ではないように見えるからだ」ということです。
TSAには、約1200のお仕事犬がいて、爆弾探知犬が属するチームは900以上を数えます。犬種は数種類におよびますが、70%以上がラブラドール・レトリバー、ジャーマン・ショートヘアード・ポインター、ビズラなどの垂れ耳の犬(floppy-eared dog)で、立ち耳の犬はベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノアとジャーマン・シェパードの2犬種のみ。とりわけ人前にでる犬のほとんどは、垂れ耳の犬だといいます。
NYTによれば、”垂れ耳優先採用”はTSAが意識的に行う施策とのことです。「立ち耳の犬でも(人前にでる)仕事ができると確信している」としながらも、乗客の受け入れ具合や子供を怖がらせないという理由で、垂れ耳犬を優先するのだそうです。
訓練施設の管理者であるクリス・シェルトンは、垂れ耳の犬は「フレンドリー」で、「あらゆる年齢の人間に向いている」からだと述べています。
「耳の形で差別するなんて、ひどい」と思ってしまう話ですが、そもそも人類は身体的特徴で選別し、家畜化してきたのだと米ルイビル大学の進化生物学者Lee Dugatkin博士はいいます。博士によればヒトは「子供っぽい顔立ち」や「くるんと丸くなった尻尾」などの共通した特徴をもつ動物を家畜化してきたという傾向があるとのことで、”垂れ耳”もこの共通する特徴に含まれるのだそうです。
家畜化のプロセスを研究するDugatkin博士は、より穏やかで親しみやすい動物は、神経堤細胞(neural crest cell)や、自己複製能力や別の細胞に分化する能力をもつ幹細胞(stem cell)の種類が少ないことを発見しています。幹細胞は軟骨に分化する能力がありますが、これが少ない動物では耳を支える軟骨が少なく、まっすぐに立ち上がずに垂れてしまのだとか。
NYTはこのことを受け「進化論的な意味では、TSAは正しい」とコメント。Dugatkin博士による「人は生得的に、たれさがった耳をより幼くて友好的なものの特徴として考える傾向にあります」というコメントも添えています。
しかし実際には、身体的特徴が犬の性格や行動を規定するわけではありません。垂れ耳の犬はフレンドリーに見えるし、実際に人懐っこいことも多いですが、キリリと立ち上がる耳をもつ犬が攻撃的だというわけでもありません。
さらにいえば、犬種だけで犬の気質や性格が決まるわけではなく、どんな犬であるかは個体をみなければわかりません。耳の形だけで採用を決めるなら、知的で働く意欲旺盛なジャーマン・シェパードのような犬を除外しなければならなくなってしまいます。
この点にはTSAも同意しており、「耳のためだけに犬を除外することは決してない」とのコメントを発表。「犬を採用するときは、健康状態、俊敏性、匂いを探索する意欲、そして人々や社会に対する影響の全てを考慮します」としています。
「もっとも大事なのは安全維持。使命を果たすためにベストな犬を選ぶのみです」
h/t to Do Floppy-Eared Dogs Look Friendlier? The T.S.A. Thinks So – The New York Times
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