狼はギャンブラー、犬は慎重〜人間との生活が犬をリスク回避型に(オーストリア研究)
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オオカミは高いリスクを求め、食べ物の獲得について「乗るか反るか(all-or-nothing)」の戦略をとるが、犬は慎重な態度で臨むとする研究結果が発表されました。長い年月に及ぶ進化の過程において、こうした違いが育まれてきたとみられます。
オオカミは一攫千金を狙う
日本語に翻訳すると「ギャンブルに際して、狼は犬よりリスクを取る」という意味になるのかな。”Gambling’ wolves take more risks than dogs”という表題の論文が専門誌Frontiers in Psychology誌に発表されました。動物のリスク選好に関しての、数少ない研究の一つです。
7匹の狼と7匹の犬が参加しての実験は、オーストリアにあるウルフ・サイエンス・センター(the Wolf Science Centre)で行われました。いずれもこの研究所で、自然に近い環境で一緒に育てられた狼と犬です。彼らは、伏せられた2つのフードボウルから1つを選択するというテストにチャレンジし、脚先または鼻先で意思を表明しました。トライアルの数は80回、事前に「指し示す」練習が行われていたということです。
彼らは今回の実験の前に、「決まった一方を選べば、必ず食べ物を確保できる」ことも学習していました。2つのうちの片方が’安パイ’で、そのボウルの下には食べ物が必ず隠されていたのです。ただし、その味はがっかりするようなものだったということです。
一方、もう片方には’超美味しいもの’か’食べられないもの(石など)’のいずれかが隠されていました。超美味しいものが登場する確率は50%。’リスキー’なボウルという訳です。犬も狼も、’安パイ’と’リスキー’が存在すること、’安パイ’を選べば必ず食べ物にありつけるというルールを、しっかりと学んでいました。
結果、狼は犬に比べ、’リスキー’なボウルを多く選択しました。実施したトライアルの80%で、狼は’リスキー’なボウルを選択した一方、犬が’リスキー’を選択したのは58%にとどまりました。
犬は進化の過程で’慎重さ’を育んだ
狼は犬に比べて、リスキーな方を選択する。この結果について、論文の筆頭著者であるマーシャル・ペシーニ研究員(Sarah Marshall-Pescini)は、「生来のものと考えられるこの違いは、リスク選好が環境に応じて徐々に変化するという仮説と支持するものだ」と述べています[2]。
研究者たちは、犬が進化の過程で生活スタイルを変えたことにより慎重さを強くすることにつながったと考えています。人間が家畜化を進めたことで、狩猟型から現在の’清掃型(scavenger lifestyle)に生活スタイルが変わり、リスク選好も狼とは異なる発展を遂げたというわけです。先行研究では、食物の手に入れやすさ度合いがリスク選好に影響するという結果が示されており、今回の研究も先行研究の結果を支持するものとなっています。
「世界の約80%の犬は、人間の残り物を食べて暮らしています。食べ物は至るところにあり、豊富です。だから犬は、食物を得るためにリスクをとる必要がなくなり、安全な方を選択するようになったのかもしれません」
ディカプリオが株式仲買人を演じた映画”ウルフ・オブ・ウォールストリート”。’ドッグ’ではドラマにならない、ウルフで’正解’だったというわけです。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Frontiers | Exploring Differences in Dogs’ and Wolves’ Preference for Risk in a Foraging Task | Comparative Psychology
[2] ‘Gambling’ wolves take more risks than dogs | EurekAlert! Science News
Featured image credit Trevor Wintle / Flickr
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