犬は家族がわかるのか?兄弟姉妹の間に特別な絆はあるの?

サイエンス・リサーチ
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立派に成長した愛犬を、生き別れの兄弟姉妹に引き合わせる…というのは、なかなか興味深い瞬間ですよね。楽しそうな愛犬の姿をみて、あなたはきっと思うでしょう「やっぱり家族だってこと、わかるんだねぇ」

犬は兄弟姉妹、あるいは父犬や母犬のことを認識するのでしょうか。

「犬は家族がわかるのか?」に対する2つの説

「犬が家族を認識するか」に対する明確な答えは、残念ながらありません。犬をよく観察する専門家の間でも、両方の意見があるようです。

「家族だと認識する」説の理由としてあげられるのはDNAおよび刷り込みです。動物は種の保存のために近親者(近いDNAを持つ個体)を認識できるようになっている、というのがDNAを根拠とした理由です。また犬は、4週から7週ごろのいわゆる”刷り込み期”に共に育った存在を同じ種と認識することを根拠に、この時期に一緒にいた兄弟姉妹は特別な存在だと”刷り込まれる”という考え方です。

「家族だと認識できない」説の理由として挙げられるのは、行動の観察からの推察です。とりわけ非道徳的行動(ここでは性行動)を理由にする人が多いようです。血を分けた両親や兄弟姉妹だからといって特別に扱っているようには見えないことや、母犬や姉妹にも”子作り”を誘う行動が「進化の観点からみておかしい」というのです。

どちらの説も科学的な研究はほとんどなく、証拠には乏しいため、認識できるともできるとも断言はし難いところです。しかしそれじゃあ面白くない!ということで、ここでは1994年に発表された「犬は成犬になっても母犬を匂いによって認識する」ことを示した研究をご紹介します。

子犬は母犬や兄弟姉妹の匂いを認識する

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image by Kenny Alexander / Flickr

北アイルランドのクイーンズ・ベルファスト大学心理学部のピーター・ペッパー(Peter Hepper)は、犬が自分の母親を認識するかを評価するため実験を行いました。この実験は子犬を対象としたもの(実験①)と、成犬を対象としたもの(実験②)と2回に分けて行われ、それぞれは3つのテストで構成されていました。

実験①での、実験協力犬はラブラドール・レトリバー、ゴールデン・レトリバー、ジャーマン・シェパードの子犬で、実験時の年齢は4〜5.5週齢でした。

実験①の1つ目のテストでは、部屋の隅に2つのケージを用意し、一つには母犬を、もう一つには母犬と同年齢同犬種の雌犬が入れられました。研究者は、部屋に入った子犬の行動を観察し、どちらに最初に近づいたか、どちらと長く時間を過ごしたかを記録しました。結果、子犬の84%が自分の母親を好み、先に接近し長く時間を過ごしていました

2つ目のテストでは、実験設定は同じで母犬が兄弟姉妹犬に変更され、もう一つのケージには兄弟姉妹と同年齢同犬種の犬が配置されました。結果、子犬たちの67%は兄弟姉妹を好むことがわかりました

3つ目のテストでは、一つのケージに母犬の匂いのついた毛布を入れ、もう片方のケージには別の犬の匂いのついた布を置いたところ、1回目の結果と同様に82%が母犬の匂いを好みました。兄弟についても、70%は同腹子の匂いを好むことがわかりました

総合すると、実験①の子犬を対象とした実験では、犬たちは母犬や兄弟姉妹を認識していることがわかりました。しかし問題は、子犬時代ではなく成犬になってからも家族をそれと認識するか否かです。そこでペッパーは、成犬を対象とした実験②を実施しました。

犬は成犬になっても母犬の匂いを認識する

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image by Malcolm Slaney / Flickr

実験②ではペッパーは、別に2歳の犬およびその母犬を招集し、上記の3つのテストを実験①と同じ設定で実施しました。実験②の協力犬は、約8週齢のときに母親と別れ、その後は一度も母犬と合っていない犬たちでした。

結果、母犬の78%は、自分のお腹を痛めた犬の匂いを好み、より長い時間嗅ぎ続けることがわかりました。ママたちは明らかに、子供と長く別れていても、自分の子供だと認識するようです。

一方の子供の側も、母犬のことを認識できるようです。犬の76%が母犬の香りのする布を好みました。約2年の別離の期間も、匂いによる認識を妨げるものではなかったのです。

この研究のみに基づくと、犬たちは母犬や兄弟姉妹を特別だと感じる可能性は十分にありそうです。「母犬との再会を喜んでいる」「お兄さんに会えて嬉しそう」というのは、私たちの想像の産物ではないのかもしれません。

とはいえ覚えておきたいのは、犬は母犬や姉妹に対しても性的行動に及ぼうとすることがあるという点です。近親相姦の概念は犬にはないのですから、倫理的な行動を求めるのは無理というものです。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Hepper, P. G. (1994). Long-term retention of kinship recognition established during infancy in the domestic dog. Behavioural processes, 33(1-2), 3-14.
[2] Do Adult Dogs Still Recognize Their Mothers? | Psychology Today

Featured image creditotsphoto/ shutterstock

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