犬のトレーニングは集中とタイミングが命〜オヤツは注意を散漫にする(研究)
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犬の問題行動を改善するには、飼い主やトレーニングをする人間を訓練することが大切だとよく言われます。
犬たちは、ほんの些細な刺激にも敏感ですから、人間が見過ごすような些細な刺激で集中が高まることもあれば、注意が散漫になることもあるのです。そうした犬の性質をよく知り、関係の改善・向上とトレーニングの有効性を高めようとする研究プロジェクトに、シドニー大学の”Dogmanship”があります。Dogmanshipの定義は「個人が犬とやりとりする能力」のこと[1]で、同プロジェクトではこの能力を高めるための、様々な研究が行われています。
犬の注意を引きつけること、タイミングが重要
同プロジェクトは今年1月、”伏せ(lie down)”のトレーニングを記録した動画を分析した結果を論文として発表しました。43のYouTube動画を分析した結果、以下のことがわかったそうです。
- 人間の行動(コマンド等)から犬が行動に移すまでの時間の長さによって、犬の行動の内容が変わる
- コマンドを発する際の人間の姿勢により、犬の行動の内容が変わる
- コマンドを非言語ノイズ(キス音や口笛、舌打ちなど)と併用するのは注意を向けさせるのに有効
- オヤツなどの食料報酬は、人間への注意を一時的に損なう可能性がある
- 人間も犬の行動から影響を受けている
この分析のために研究者たちが行った手法は、行動の時差的連関分析(event and time-based lag sequential analyses)というもの。事象の連続した順序(人はXを行い、次に犬はYを行い、次に人は…)を調べ、行動から次の行動へのタイムラグ(人が行動した1秒後に犬がYをした、など)を確認し統計的な分析を行っています。
オヤツはトレーニングの目標に合わせて上手に使う
上に示した結果について、もう少し詳しく見てみましょう。
まず、1.の人間の行動から犬の行動が現れる時間の長さによって犬の行動の内容が変わるという点です。人間の指示から1秒後に従った場合、犬は上手く指示に従えていましたが、これが3秒後になると不完全な伏せ(プレイバウに似たような形)になる傾向が見られたそうです。
また、人間の姿勢も犬の行動に影響を与えるようです。前かがみ、跪坐く、あるいはしゃがみこんでの指示をした場合、犬は上手く指示に従えました。一方、人間側がその姿勢を維持し続けない時(すぐに起き上がるなど)には、不完全な伏せになったそうです。
3.にあるように、非言語音(クリッカー、口笛、キス音など)使用することは、犬の注意を引きつけることにおいて有効でした。一方で、オヤツなどの食料報酬については、これを持っている人間には注意が向けられるものの、与えられた後には人間を見なくなるという傾向が見られました。与えられたオヤツに夢中になるか、地面のニオイ嗅ぎに夢中になることが多いそうです。
面白いのが5つめの、人も犬から影響を受けているという点。犬の集中度合いに人間が反応するのだそうです。相互作用が行われているんですね。
この結果を受けて研究者らは、トレーニングを成功させるためには報酬のタイミングが重要であること、そして犬の集中・注目を引きつけるメカニズムへの理解が重要だと主張しています。「訓練困難とされる犬は、’犬とやりとりする能力’に欠けた人間にトレーニングを受けている可能性もある」ということです。
良いニュースは、犬を変えるより自分が変わる方がよっぽど簡単だということ。口笛やクリッカーを導入したり、姿勢を少し長い時間維持することは、私たちの努力次第でできることです。
報酬タイミングや体の姿勢を変えるというほんの少しの変化が、愛犬との関係に大きな変化をもたらすかもしれないというのは、嬉しいニュースではないでしょうか。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[2] Companion Animal Psychology: Timing and Attention Matter in Dog Training, New Study Shows
[2] Payne, E. M., Bennett, P. C., & McGreevy, P. D. (2017). DogTube: An examination of dogmanship online. Journal of Veterinary Behavior: Clinical Applications and Research, 17, 50-61.
Featured image credit https://flic.kr/p/e3fKZh / Flickr