犬はストレスの多い人を特定するのが苦手(研究)

サイエンス・リサーチ
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遺伝学者Francesco Sessaは2月22日、訓練を受けた警察犬でもストレス下にある特定の遺伝子を持つ人を認識することができなかったことを発表しました[1]

警察犬は、ストレスを感じていない人の匂いを問題なく特定できましたが、ストレス環境にあった人のうち短いタイプのSLC6A4をもつ人の匂いは特定できなかったというのです。

米国科学捜査学会の年次総会で発表されました。

ストレスへの強さ弱さも遺伝子が関係している

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SLC6A4遺伝子の長い/短い変異体の表現および放出、受容 Neve, Jan-Emmanuel & H. Fowler, James & S. Frey, Bruno. (2010). Genes, Economics, and Happiness. CESifo Group Munich, CESifo Working Paper Series.

私たちの中には、ストレスに強い人もいれば弱い人もいます。普通以上に緊張したり不安になる人は、その原因が遺伝子にあるのかもしれません。

鍵を握っていそうなのは、SLC6A4という遺伝子です。

SLC6A4は、セロトニンの伝達に関連する遺伝情報が書き込まれた遺伝子で、脳の神経細胞がセロトニンをシナプス中に放出した後にセロトニンを搬送する役割をします。

SLC6A4には短いタイプ(S型)と長いタイプ(L型)に大別されるのですが、この違いがストレス耐性に影響するということがわかっています。2002年、国立アルコール依存症研究所の神経遺伝子学者であるデイビッド・ゴールドマン氏とチームは、短いタイプのSLC6A4をもつ人は不安を敏感に感じるようだと発表しました[2]。今回の報告でSessaは、「長いタイプのSLC6A4をもつ人は短いタイプをもつ人に比べて、ストレスをうまく処理する傾向がある」と述べています。

犬はストレス環境にある人の匂いを特定できない

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image by Jeremiah Higgins / unsplash

さて、「人のストレス耐性も、遺伝子によって異なるようだ」ということがわかったところで、今回の研究報告の内容に戻ります。

研究を行ったのは、イタリアのフォッジャ大学のSessaら。恐怖が人の通常時の匂いを変えるのか、そしてそれは行方不明者を捜索する犬の能力に影響するのか、またそれはSLC6A4のタイプによっても異なるのか、という点に興味をもち、実験を行いました。

Sessaらはボランティアを募り遺伝子調査を実施します。その結果から、参加者となる長いタイプのSLC6A4を持つ人と短いタイプをもつ人を男女1名ずつ選びだします(合計4名)。

参加者は事前に、数時間スカーフを巻いてもらい匂いをつけるよう依頼されます。犬はこのスカーフの匂いを嗅いだあとに、実験当日に着用した同一人物のTシャツを見つけられるのかが試されるのです。

参加者には2つのシチュエーションが準備されます。一つはストレスフリーの環境(①)、二つめはストレス環境(②)です。

①の場合警察犬は、3回のトライアルを3回成功させました。スカーフの匂いからTシャツを完璧に探し当てたのです(Tシャツは合計10枚準備された)。

次に参加者は、人前で話をするというストレス状況に対峙します(②)。この時参加者は、呼吸は浅く心拍数は早くなるという「怖がっている兆候」をみせていたそうです。

この②の状況において犬は、長いタイプのSLC6A4をもつ人のTシャツ探索については3回のうちの2回成功しました。しかし、短いタイプをもつ人のTシャツ探索においては、全ての犬が全ての試行において失敗してしまったのです。

研究者らはこの結果は、特定の遺伝子をもつ人はストレスによって匂いが変化する可能性があることを示唆ものだとしています。しかし、そのことを明らかにするためにはより規模の大きな実験を行うことが必要であるとも述べています。

ScienceNewsはこの研究は、訓練の場で完璧な犬が実践の場で失敗する理由の説明となりえるとしています。犯罪学者兼法医学者のCliff Akiyama氏は「犬にとって見つけやすい人と見つけにくい人がいるという事象の説明になるかもしれない」という見解を述べています。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Genes may explain why dogs can’t track some people under stress | Science News
[2] Hariri, A. R., Mattay, V. S., Tessitore, A., Kolachana, B., Fera, F., Goldman, D., … & Weinberger, D. R. (2002). Serotonin transporter genetic variation and the response of the human amygdala. Science, 297(5580), 400-403.

Featured image creditDefence Images/ Flickr

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