犬は人間同士のやりとりを観察している〜おいしいやつを持ってるかどうかもわかる(アルゼンチンの研究)

サイエンス・リサーチ
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見られている・・・。

ひとたびワンコ家族との暮らしをはじめたら、視線のない生活はもう過去のもの。食事を作りはじめれば期待の眼差しで、電話をしはじめれば懐疑的な眼差しで、ひたすら観察され続けるものです。

ニンゲンが複数いる場合はどうでしょう。人間同士のやりとりも観察されているのでしょうか。そしてそこから得た情報を意思決定に利用しているのでしょうか?

イヌだって「盗聴」する?

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おはなし、きいてます © Brian Goodman / Shutterstock

イヌは、人間がイヌ対して行うコミュニケーション行為だけでなく、人間同士のやりとりを観察し、物事を判断しているという研究結果が発表されました[1]。論文タイトルを日本語にすると「イヌは人同士のやりとりを盗聴している(”Dogs’ Eavesdropping from People’s Reactions in Third Party Interactions”)」といったところでしょうか。なかなか興味深いですね。

この研究の面白いところは、異種間でも「盗聴(eavesdropping)」、すなわち情報の発信者と受信者のやりとりから第三者が情報を得ることがあるかということを実験により確認したというところでしょう。動物のコミュニケーション研究の多くは二者間の相互作用を対象としていることが多く、盗聴、とりわけ異種間での盗聴研究というのは限られているそうです[2]

ワンコさんは、人間同士のやりとりをどのように見ているのでしょうか。

「おいしいもの」を持っている人を判断できる

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© 2013 Freidin et al. Image appeared in PLOS One. / PLOSONE

実験の設定は、男性が二人の女性に、彼女たちが持っているコーンフレークをくれないかと頼み、イヌがそれを見ているというものです。どちらの女性もコーンフレークを差し出すのですが、一方の女性に対しては大げさに「おいし~い!」と伝え、もう一方の女性に対しては「まずい」と付き返すのです(失礼な男ですが、これは実験なので許しましょう)。男性が立ち去ったあと、抑えられていたイヌを自由にすると、「おいしい」シリアルを持っていた女性の方へと向かう傾向が見られました。

この実験では、男性のリアクションを①ジェスチャーと言葉、②ジェスチャーのみ、③言葉のみで表現する差別化を図っており、15匹のイヌが実験に参加しています。予想はつくことですが、①ジェスチャーと言葉で肯定的表現をしたときには、13匹が「おいしいやつ」をもっている女性を選びました。②ジェスチャーのみのときは10匹、③言葉のみのときは8匹だけ選択しています。

人間を見ているのか、相互作用を見ているのか

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なに?けんか? © Falcona / Shutterstock

ここで、イヌはやりとりを見ているのか、それとも男性のリアクションのみを見ているのか、という疑問が残ります。もし、イヌたちが「おいし〜」とかニッコリとかしている男性だけを見ているのであれば、人間が直接的に発する情報のみに基づいて判断していることになり、人間同士の「相互作用」を見ていることにはつながりません。となると、イヌたちは盗聴していないという結論も導き出せちゃいます。

そこで実験者が女性の代わりに使ったのが脚立。なぜ脚立、と突っ込みを入れたいところですが、高さがあり、細身で、温度もなく肉もついていないうえリアクションも出来ない脚立は、人間との対比をみるうえでは妥当な選択なのかもしれません。とにかく脚立にコーンフレークを置いて、男性にリアクションをとってもらいました(脚立に向かって演技するとは、罰ゲーム感が漂いますね・・・)。

すると、犬は「おいしいコンフレーク」に優先的には近寄りませんでした。男性の努力はどうなるんだ!とか、この男性の演技力に問題があったのでは!と言いたい気持ちはわかりますが、イヌたちは男性のリアクションだけでは「おいしいやつ」かどうか判断なかったようなのです。

この実験だけをみると、イヌはリアクションではなく相互作用を見ていると結論づけられそうですが、一方で先行研究では、人間が喜んだリアクションを見せながら選んだ箱と、不快そうなリアクションと共に選択した箱があったとき、イヌは前者を選ぶという結果も出ています。とにかく、乱暴に言っちゃうと、いろいろ見ているんですイヌたちは。


イヌたちが「どういった情報を重視するのか」という判断はつけられませんが、ワンコたちは人間のことをいつも全力で見ているということはわかりますよね。

ワンコたちの前では喧嘩などせず、穏やかでハッピーな言動を心がけるようにするというのがオススメです♡


[1] Freidin, E., Putrino, N., D’Orazio, M., & Bentosela, M. (2013). Dogs’ eavesdropping from people’s reactions in third party interactions. Retrieved from http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0079198
[2] 坂本信介・宮澤絵里・鈴木惟司(2009)『Eavesdropping:鳥類における盗聴を介した他者なわばりの利用』日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨

 
Featured image by Arman Zhenikeyev via shutterstock

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