犬の脳は、人間の言葉を理解しようとしている(研究)

サイエンス・リサーチ
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エモリー大学の研究者らは、対象と関連付けされた言葉を教えられたときに、犬の脳が言葉をどう処理するかをfMRIを使って調査しました。

結果、犬は知っている単語とそうでない単語を区別していることがわかりました。聞いたことのない単語を耳にすると、神経活動が活発になることも示されました。

研究はがFrontiers in Neuroscienceに掲載されています。


私たち飼い主は、愛犬たちが人間の言葉を理解することを”知って”いますが、実際にどの程度の言葉をどのようにして理解しているかは、まだよくわかっていません。

犬は、基本的なコマンドを学ぶことができることから、言葉のなんらかの側面を処理する能力があると考えられています。犬の中には、物体の名前を使ったコマンドに基づいて、その物体を持ってくることができますし、中には訓練を受けて1000を超える単語を学んだボーダー・コリーもいます。

しかし、仮に「リモコン持ってきて」というコマンドに反応できたからといって、人間と同じように言葉の意味を理解していることにはなりません。その犬が特別だったのかもしれませんし、他の手がかり(注視(gaze)、ジェスチャー、感情表現、イントネーションなど)に頼って行動したのかもしれません。

これまでの研究では、飼い主へのヒアリングや犬の行動観察といった方法がとられてきましたが、この方法では言葉以外の刺激の影響がどの程度あるのかがはっきりしませんでした。

論文の筆頭著者であるAshley Prichard氏(エモリー大学心理学部PhD Candidate)は、こうコメントしています。「所有者の報告だけではなく、犬からのデータを入手したかったのです」

そこで、今回の研究では脳の構造や機能活動を画像化する方法のひとつであるfMRI(functional magnetic resonance imaging)が使用されました。fMRIは、Berns が2012年に、犬の認知研究に使用して以降、報酬に対する犬の神経応答や、ヒトおよびイヌの臭気に対する嗅覚応答の観察などに使用されてきました。実験協力犬はスキャンする間、機械の中に横たわりじっとしているよう訓練されており、保定や束縛はされていません。

今回の実験に参加したのは、ボランティアで参加してくれた12匹のペットの犬で、全てfMRIのスキャン経験をもつ犬です。

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図1.実験参加犬と訓練に使用されたオブジェクト。© 2018 Prichard, Cook, Spivak, Chhibber and Berns. / Flickr

12匹はそれぞれ、2つのオモチャの名前を2〜6ヶ月かけて覚えるように訓練されました。犬たちは、それぞれの名前を正確に覚えることと、2つのオモチャを確実に区別できるようになるまで行われました。

そしてfMRIに横たわっての本番です。実験の設定は、機械の中に横たわる犬の前に飼い主が立ち、犬に2種類の言葉をかけて物体を手に持つ、というものでした。飼い主が①訓練で覚えたオモチャの名前を言いながらオモチャを握り、その後、②全く関係のない言葉(「ボブブ」や「ボドミク」)を言いながら犬がこれまでに見たことのない物体を持つ、といった具合です。

結果、訓練でおなじみとなった単語と、全く関係のない言葉では、脳の聴覚領域において別の反応を示しました。新しい単語を聞いた犬は、既知の単語を聞いたときに比べ、より大きな活性化を示したのです。

この結果を聞いて「アレ?私は、知ってる単語に反応するけどな」と思った人は、結構正しい。研究者によれば「人は典型的には、新しい単語よりもすでに知っている単語への活性化の方が大きい」ものだそう。犬が新しい単語に大きく反応するのとは全く逆ですよね。

この理由について研究者は、新しい単語を口にするときのほうが、飼い主が熱心だからではないかと推測しています。つまり、犬に新しい言葉を理解してもらおうと飼い主が熱心になるので、犬はその熱意に応えようとしているのではないかということです。「犬は結局は飼い主を喜ばせたいし、そうすることでご褒美ももらえるしね」

本研究でわかったのは、「犬も脳内で、知っている単語と知らない単語を区別する処理ができそうだ」という可能性のみです。活性化した脳の部位は、半分の犬では人間と類似した場所(頭頂側頭皮質)にみられ、残りの半分は別の場所(左側頭皮質、扁桃体、尾状核視床など)にみられており、「人と同じように理解している」とは言えない結果になったのです。

研究者は結果にこれだけの違いが出るのは、犬の品種やサイズが多様であること、そしてまた認知能力にも多様性があるからではないかと推測しています。


犬が人の言葉をどのように”理解”しているかは謎のままですが、犬の言葉への反応は、パブロフが唱えたような原始的な条件反射ではなさそうです。彼らの脳は人の言葉を認識して、そのうえで理解しようとしているようですよ。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Prichard, A., Cook, P. F., Spivak, M., Chhibber, R., & Berns, G. (2018). Awake fMRI Reveals Brain Regions for Novel Word Detection in Dogs. bioRxiv, 178186.
[2] Scientists chase mystery of how dogs process words | Emory University | Atlanta, GA

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