犬の嫉妬〜愛犬が守りたいのは”繋がり”かもしれない

サイエンス・リサーチ
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多くの飼い主は、愛犬の嫉妬に関するストーリーを持っているものです。

「他の犬を抱っこしようとすると嫉妬して阻止する」とか「赤ちゃんが家族に加わってからというもの、犬の嫉妬がすごい」などのお話は微笑ましいものですが、実際に犬が嫉妬という感情をもつのかどうかは、今のところはっきりとはわかっていません。

それは「嫉妬」か「妬み」か

普段の生活で私たちは、「嫉妬(jealousy)」と「妬み(envy)」を厳密な区別をせずに使用しますが、心理学に全く異なる感情として区別して認識されます。

嫉妬は、特定の他者と自己との関係が第三者によって失われる、または失われると考えることによる否定的な感情です。一方妬みは、「他者がもっている属性や関係を自らも所有したいという欲求[2]」のことで、関係の喪失に対する恐れである嫉妬とは異なります。

犬には「嫉妬のような行動」がみられますが、これは厳密にいえば嫉妬ではなく、単に所有したいという欲求や、所有を脅かされることに対する恐怖の感情ではないかと考えられていました。

犬が社会的繋がりを守ろうとして「嫉妬のような行動」をするのか、あるいは単に所有欲に基づくものかを探索した研究があります。カリフォルニア大学サンディエゴ校のChristine Harris博士らが行ったもので、人間の子供に用いられる手法を修正して、犬が本当に嫉妬しているのかを実験により確認しました。

ワンちゃんだって嫉妬する〜大好きな飼い主さんをライバルに取られるなんて許せない!(米研究) | the WOOF イヌメディア

36匹の犬と飼い主が参加した実験では、「飼い主ー他のもの(犬のオモチャ、本、提灯)」関係が作られたときの犬の行動が観察されました。飼い主が犬のオモチャで遊んでいる時、犬の78%は飼い主にちょっかいを出し、30%は間に入ろうとし、25%はオモチャを攻撃しました。

この結果について博士らは「この結果からは、犬が嫉妬のような行動をするだけではなく、飼い主と相手の仲を裂こうと試みていることが示唆される」、「人間は犬の主観的経験について語ることはできないが、犬にとって重要な社会的繋がりを守ろうと行動しているようにみえる」とコメントしています。

「嫉妬する犬」の脳の活動

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image by Phaedra / Flickr

2018年に発表された”Jealousy in dogs? Evidence from brain imaging”という研究では、13匹の犬について異なる状況での脳の活動の様子がfMRIによりスキャンされました。

犬はすでにfMRIの機械で自発的にじっとしているよう訓練された犬で、拘束はなく、嫌になったらすぐにやめることができる状態にありました。

fMRIに伏せている間に犬は、(1)飼い主から食べ物をもらえる、(2)飼い主が目の前にいる偽の犬(セラミック製、犬の匂い付き)に食べ物を与える、(3)飼い主が目の前にあるバケツに食べ物を入れる、という3つの異なる状況を経験します。このときの脳の活動の様子が観察された結果、(2)の「偽の犬だけに食べ物が与えられる」という状況において扁桃体の動きが活発になることがわかりました。一方、(1)と(3)では大きな違いはみられませんでした。

扁桃体とは、側頭葉内側の奥にある神経細胞の集まりで、情動(怒り、恐れ、喜び、悲しみなど比較的急速に引き起こされた一時的で急激な感情のこと)処理に重要な役割をもつとされている場所です。

飼い主が偽の犬にだけ食べ物を与えるという状況は、犬に一時的な怒りや悲しみを与えているのかもしれず、研究者はこの結果について「犬が嫉妬している可能性がある」と説明しています。


嫉妬はこれまで、恐怖や怒りのような原始的感情とは異なる、ヒトだけがもつ感情だと考えられていました。

しかし「嫉妬のような行動」は、野生のコヨーテやオオカミ、そしてティティ・モンキーなどにも観察されていることから、最近ではヒト以外にもあるのではないかと考えられるようになっています。

飼い主目線では、愛犬が所有欲からではなく飼い主との繋がりを守りたいと思ってくれていると考えたいところですが…。どうなんでしょうね。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Cook, P., Prichard, A., Spivak, M., & Berns, G. S. (2018). Jealousy in dogs? Evidence from brain imaging. Animal Sentience: An Interdisciplinary Journal on Animal Feeling, 3(22), 1.
心理学辞典(1999)中島 義明 (編集), 子安 増生 (編集), 繁桝 算男 (編集), 有斐閣
[3] Harris CR, Prouvost C (2014) Jealousy in Dogs. PLoS ONE 9(7): e94597. doi:10.1371/journal.pone.0094597
[4] Jealousy in Dogs: Brain Imaging Shows They’re Similar to Us | Psychology Today
[5] Do Animals Get Jealous?

Featured image creditLinh Nguyen/ Flickr

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グレート・デーンは大きくて美しい犬ですが、飼い主さんの愛情を分け合うことに関しては、少々心が狭いようです。 家族が大好きすぎる犬のディンキー。

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