知能と長寿の関係を解明する突破口に!?〜犬のIQ検査に関する報告(英国)

サイエンス・リサーチ
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犬のIQ検査というと、笑ってしまうかもしれません。しかし、これが人間の知能や健康寿命に関する研究の突破口になる可能性があるとしたらどうでしょう。

英国の研究チームが犬の知能を検査し、この研究結果についての報告が行われました。

英国で犬を対象とした知能検査が実施された

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image by ra2studio / Shutterstock

研究[1]を行ったのは、英ロンドン大学経済政策学院(London School of Economics and Political Science)と英エジンバラ大学(The University of Edinburgh )のチーム。68頭のボーダー・コリーを対象に、一般的知能因子(g因子)の存在について確認する目的で行われました。

一般知能因子とは、スピアマン(Spearman, C. E.)の知能の二因子説(two-factor theory of intelligence)で主張された因子の一つ。スピアマンは、知能はすべての知的活動に共通に働く一般的知能因子と、相互に独立し、個々の知的活動のみに特有な特殊因子(s因子)からなると主張しました[2]。g因子の存在については、知能そのものへの興味に加え、健康、身体的魅力知能、長寿などと知能とがどう関係するのかに興味が集まり、多くの研究が行われてきました。

ですが、対象を人間として研究しようとすると、他の要因が結果に及ぼす影響をどう排除するのか、という問題がでてきます。例えば「知能が高い人は健康寿命が長い」という結果が出たとしても、その結果は研究対象者が温暖な地域に住んでいた影響が大きいかもしれないし、生活習慣によるのかもしれないし、収入が高く予防医療にお金をかけられるからかもしれないわけです。他にいろいろと要因があるときは、因果関係があるということは難しい、となってしまいます。

そこでg因子の存在や、知能と健康等との関連を探ろうと、他の動物を対象とした研究が行われるようになってきます。まだその蓄積は多くはありませんが、知能や健康といった研究テーマにおいては、非常に注目が高くなってきている分野なのです。

農場で働くボーダーコリーたちって、どれだけ賢いの?


ここでようやく犬たちの登場です!

実験協力犬は、農場で働くボーダーコリー68頭。家庭犬と異なり、知能玩具などによる訓練や、おやつによる誘導などには慣れていないワンコ達ばかりが集められました。

犬たちに協力してもらう理由は、犬たちが研究に協力的であること(なんでも楽しんでやってくれる!)、お酒やタバコなど生活に大きく影響するような習慣がないことなど。さらにボーダー・コリーだけに犬種を絞ったのは、犬種の特性からの影響を排除する目的があったそうです。確かに、様々な犬種を対象とした混合チームを対象にすると、「あいつはそもそも作業犬だ!」とか「こいつはおやつに目がないんだ!」といった苦情が犬たちからも出て来そうですね。

協力犬たちは、4つの問題解決力を測るテストと、2つの判断力を試されるテストに参加しました。問題解決力は、様々な障害を乗り越えておやつをゲットできるかを試されます。また、二つの対象物のうちから人間が指差した方を選択できるかというテストと、二つのフードボウルから有利な方(たくさんのフードが入っている方)を選択できるかというテストで、判断力が測定されました。ワンコたち、大変。

結果、犬の知能が人間と同じく数値にして測定することができる(愛犬のIQもわかっちゃう!)ということ、それぞれの犬は知能が異なるということ(優秀なボーダーコリーだって、テストが苦手なコがいるんだよ)、一つのスキルに長けていれば他のことも上手にできるようだ(g因子が存在するんじゃないの?)ということがわかったそうです。

犬の知能研究が人間の健康や寿命研究の新たな道を拓く

今回の研究を主導してきたアーデン博士(Dr Rosalind Arden)は、「今回の調査で、犬の知性は私たち人間と似たような構造になっていることが示唆されました。タバコを吸わない、お酒も飲まない、薬の影響も受けていない犬を対象としたこの研究結果は、知性と健康との関連を理解する助けになることでしょう」としています。

また、このような研究が、人間の認知症などの病気への理解の一助となる可能性があることにも言及しています。「犬は、認知症の症状を呈する動物です。犬たちの認知能力を研究することは、人間の認知疾患の理解と対処法を考える上で役立つことでしょう」

認知症はどうして発症するのか、どうしたら食い止めることができるのか、どう治療していけば良いのか。それらが解明されるとしたら嬉しいことですが、さらにこれを協力してくれるのが犬たちだとしたら、これまた本当に嬉しいもの。やっぱりワンコたちは「人間の最良の友」なんですね。わお〜ん!

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Arden, R., & Adams, M. J. (2016). A general intelligence factor in dogs. Intelligence, 55, 79-85.
[2] 中島義明 (Ed.). (2011). 『心理学辞典』. 有斐閣.
[3] Dog IQ test could provide breakthrough in understanding link between human intelligence and health | Science | News | The Independent
[4] IQ test for dogs: Scientists say it could help humans, too – CNN.com

Featured image by Ksenia Raykova / Shutterstock

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