騒々しいパーティの場でも自分の名前や興味ある単語は、なぜだかはっきり聞き取る…。「カクテルパーティ効果」と呼ばれるこの現象が犬にもあるらしいということが、最近発表された研究により示されました。
メリーランド大学の研究者らは、犬は騒々しい部屋の中でも、雑音と同等またはそれ以上の音量で発話された自分の名前を聞き取れることを確認しました。
研究はAnimal Cognition誌に掲載されています。
私たちは、パーティ会場のように何人もの声が同時に聞こえてくる騒然とした場面であっても、特定の人との会話に加わりその内容を理解することができます。このように特定の情報に選択的な注意を向け、他の情報を無視することができる現象は「カクテルパーティ効果(あるいは現象)」と呼ばれます。
犬は人間同様、騒がしい場所にあっても人間の発話に反応することが期待されます。この能力があるのかないのか、あるいは名前にどう反応するかを確認することは、作業犬や介助犬だけでなく犬をトレーニングしようとする人にとっては非常に貴重な洞察となります。もし、犬の名前を呼ぶことが注意をひきつけることに繋がるのなら、「ポチ、伏せ」と言った方が効果が高くなりそうですが、名前に特別な反応を見せないのなら「伏せ」と言うだけで事足りそうです。
さて、メリーランド大学のAmritha Mallikarjunらは、犬の名前に注目を集める力があるのかどうかを実験によりテストすることにしました。実験協力犬はメリーランド州周辺の家庭犬、介助犬、セラピードッグ、捜索救助犬など。様々な犬種の4歳以上の犬でした。
実験に先立ち、研究者らは3つの音声を録音しました。一つは犬の名前(あるいは最も頻繁に使われるニックネーム)を15回繰り返した音声(飼い主とは異なるペンシルベニア州東部出身の英語を母国語とする女性による)。もう一つは、犬の名前と同じ音節とイントネーションをもつ別の犬の名前。さらにもう一つは9人の女性が異なるテキストを読み上げたもの、すなわち背景音でした。
実験環境は、両サイドにスピーカーを埋め込んだブースを作り、中に飼い主と犬を座らせるというもの。どちらからも背景音を流しますが、ときどき片方から犬の名前、あるいは別の犬の名前の録音が再生されるというものです。もし犬が特定の音にとらわれた場合、その方向に頭を向けるだろいうと考えたのです。
研究者らは、犬がどの音声に注意を払ったか(自分の名前が聞こえてくる方を向いたか)、どのくらい注意を払ったかを観察しました。
結果、犬は自分の名前にもっとも注意を払うことがわかりました。また、自分の名前が背景音と同じ程度の音量か、あるいはそれ以上の音量で聞こえてきたときに、選択的に聞き取ることができることもわかりました。ちなみにこの結果は13ヶ月齢の赤ちゃんより好成績だということです。
また、この選択的な聞き取りの能力は、介助犬や作業犬など仕事をする犬の方が家庭犬よりやや優れていたそうです。論文の共著者であるRochelle Newmanは「働く犬は一つの名前を一貫して使う傾向があるからではないか」と推察しています。
犬のトレーナーの中には、犬の名前は「ハンドラーによって作られたちょっとした雑音」であり、名前を呼んで反応するのは名前に対して反応しているのではなくハンドラーの声に反応しているのだ」と言う人がいるそうです。しかし、今回の研究では、飼い主以外が呼んだ犬の名前に犬が特別な注意を向けていることがわかります。犬の名前は彼らにとって”ちょっとした雑音”ではなく、注意を喚起する特別な音声である可能性が十分にありそうです。
そうはいっても、犬は私たち人間ほどには自分の名前に敏感に反応する訳ではないのだそう。Mallikarjunは「賑やかな街や公園などの騒々しい環境で犬が名前に反応しなくても、飼い主はイライラしないで欲しい」とコメントしています。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Mallikarjun, A., Shroads, E., & Newman, R. S. (2019). The cocktail party effect in the domestic dog (Canis familiaris). Animal cognition, 1-10.
[2] What Is the Psychological Power of a Dog’s Name? | Psychology Today
[3] Dogs can tune out noise, just like people at cocktail parties
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