ワンコのキスは危険な香り(4)〜愛犬のキスが70歳女性にもたらした命の危機

サイエンス・リサーチ
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極めて稀なケースながら、犬との”キス”が重篤な病をもたらすことがあるようです。敗血症などのために命を落としかけたという70歳女性について、その原因を”愛犬に顔を舐めさせたためではないか”とするケースレポートが、医学ジャーナルのBMJ Case Reportsに掲載されました。

頭痛、吐き気、倦怠感、そして昏睡状態に陥った70歳女性

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愛してはいるけれど… image by Michael Dorausch / Flickr

著者も”極めて稀である”と言うこの症例が発表されたのは、2016年6月30日発表のBMJ Case Repoprts。レポートは、英国に住む70歳女性の重篤な症状の原因が、愛犬との過剰な接触にあったのではないかと伝えています。

70歳女性は当初、言語及び運動発現に不調和が見られ病院に救急車で運ばれました。治療の後に退院しますが、4日後に意識障害、頭痛、下痢、高熱を発症し、肝臓にダメージを与えるほどの重篤な症状を呈します。血液検査により判明した病名は敗血症。そしてさらなる検査により、重篤な症状を引き起こした犯人が、犬猫の口腔内に常在する細菌であるカプノサイトファーガ・カニモルサスであることがわかりました。

日本でも咬傷による感染例はあり〜唾液交換による感染は稀有

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可愛らしいのだが… image by Ralph Daily / Flickr

カプノサイトファーガ・カニモルサスとは、動物(犬や猫)の口腔内に常在している細菌で、カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症を引き起こすことがある菌です。

発症すると、発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛が引き起こされ、重症になると敗血症や髄膜炎を起こし、播種性血管内凝固症候群(DIC)や敗血性ショック、多臓器不全に進行して死に至ることがあるといいます。敗血症になった場合は約30%が、髄膜炎になった場合は約5%が亡くなるといわれています。

厚生労働省によれば、これまでに感染・発症し重症化した患者の文献報告例は14例(日本での敗血症・多臓器不全発症のケース)であり、世界中で約250人の患者が報告されています。

カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症は通常、犬や猫に噛まれたり引っかかれたりすることで感染・発症しますが’、今回のケースでは咬傷・掻傷はありませんでした。女性とのヒアリングで見えてきたのは、女性が飼っているグレイハウンドを非常に可愛がってきたということのみ。医師たちはそこから、おそらくは感染源は唾液で、舐めるがままにさせていたことが原因ではないかと推定したようです。

治療・療養中の方や乳幼児・お年寄りは、特に気をつけて

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ペロリはやめてね♡ image by Jim / Flickr

愛情表現だからと喜んでワンコ達にペロリさせ放題にするのは、やっぱりNG。敗血症になる可能性はあまりないようですが、白癬・疥癬・寄生虫を頂戴するのは割と一般的なようです。できることなら避けたいところですよね。

犬に悪気はないのですから、人間側で上手に防御や衛生対策をするように心がけないといけません。厚生労働省が「日頃から、動物との過度のふれあいは避け、動物と触れあった後は手洗いなどを確実に実行してください。本病だけでなく、一般的な感染症予防のためにも、重要です」と呼びかけるとおり、衛生には十分に気をつけた方が良さそうです。

抗がん剤やAIDS治療を受けている方、妊娠中の女性や乳幼児、お年寄りは、ワンコとのキスは避けた方が良いでしょう。愛情表現はキス以外の形で。例えば一緒にたくさん遊ぶこと、美味しいゴハンをあげること、マッサージをしてあげることなどなど、他の方法がたくさんあります。できるだけプラトニックな関係をキープできるもので表現しましょうね!

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Lick of death: Capnocytophaga canimorsus is an important cause of sepsis in the elderly — Wilson et al. 2016 — BMJ Case Reports
[2] Woman’s pet dog gave her life-threatening infection – CBS News

Featured image credit Tony Webster / Flickr

ワンコのキスは危険な香り(3)〜サルモネラ、大腸菌、カンピロバクター… 犬のマズルは菌のデパート | the WOOF

イヌが飼い主のことを舐めるのは、愛情表現の一つであるとも言われています。幸せそうにべ〜ロベロする犬の姿を見ていると、「ヤメテ」とは言いづらいもの。でも、お顔をベロベロさせるのは本当に止めた方が良いようです。 ウィルス学及び細菌学の権威であるジョン・オクスフォード教授は、どんなに清潔に見える犬でも絶対に顔を舐めさせることはないと語り、その内容が話題になっています。 …

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