雪がなくても大丈夫!オーストラリアの犬ぞりレース〜No snow, no problem!

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「犬ぞり」というと、真っ白な深い雪の上をふかふかのシベリアン・ハスキーやアラスカン・マラミュートたちがそりを引く、というイメージをお持ちではありませんか?

オーストラリアにくるまでは、私もそんなイメージを抱いていました。しかし!犬ぞりは雪上にとどまらない、いつでもどこでも、雪がなくても楽しめるアクティビティなのです。

今日は在豪13︎年で初めて知った、オーストラリアの犬ぞりレースの世界をご紹介します。

オーストラリアの犬ぞりレース

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犬ぞりのイメージって、こんな感じでしょ? image by Marcel Jancovic / Shutterstock

はじまりは、「7頭のシベリアン・ハスキーを診てほしい」という依頼の電話でした。

7頭!?しかもシベリアン・ハスキー?? とびっくりした私。かれこれ13年間オーストラリアに住んでいますが、ハスキーを一度も見たことがなかったのです。「きっと、ハスキー犬がとっても大好きなオーナーさんなんだろうなぁ」と思いつつ、会ってお話しを聞いてみることに。するとオーナーさん、「この子たちは、犬ぞりの選手なんです。オーストラリアの各地で開催されている犬ぞりレースに出場するため、何週間も旅をすることもあるんですよ」とさらにびっくりすることを教えてくれました。

オーストラリアでは、ニューサウスウエールス州(NSW)、ビクトリア州(VIC)、南オーストラリア州(SA)、西オーストラリア州(WA)、クイーンズランド州(QLD)、オーストラリア首都特別地域(ACT)に、合計11の犬ぞりレースクラブが設立されており、レースは4月から8月までオーストラリア各地で開催されています。驚くことに、レースの大半は森林のダートコースを疾走する陸上犬ぞりレースなのです。あの雪の上を疾走する「雪上犬ぞりレース」は、ビクトリア州の雪山で開催されますが、オーストラリアではむしろ「雪上」のほうが珍しいようです。ところ変われば犬ぞり変わるだなぁなんて思った次第です。

種別を選べば、出場だって夢じゃない!?

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ジュニアレースは付き添いと一緒に走る! ©ルール久枝

レースにより異なりますが、多くのレースでは、オープンクラスと初心者クラス、ジュニアクラス、ベテランクラスなど、いくつかの種別に分かれています。

通常オープンクラスには、1年以上のレース経験がある15歳以上の人が出場できます。オープンクラスはさらに、約2~3㎞の1頭引き、約4~5㎞の2~3頭引き、4~5㎞もしくは6~7㎞の4もしくは6頭引きのレースなどに分かれます。1年未満の人が参加できるのは、初心者クラス、ジュニアクラスです。初心者クラスは2~3㎞の1頭引きで、出場要件は15歳以上であることとなっています。一方、ジュニアクラスは同じく2~3㎞の1頭引きで、11~14歳の若者が出場できます。このほか、犬の年齢で分けられたクラスもあります。ベテランクラスでは、7歳以上の犬1~2頭とジュニアもしくは初心者が2~3㎞のレースを競います。

レースエントリー料金は、レースにより異なりますが、1チームあたりAU$25(オーストラリアドル)からAU$45です。賞金もレースにより異なりますが、1等はおよそAU$100、2等AU$50、3等AU$25になります。レースはオーストラリア各地で、そして4月から8月の終わりまで開催されているので、冒頭で登場したイヌ選手達はキャンピングカーなどで全国を転戦することになるんですね。

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2015年度犬ぞりレース開催日程 ASSAのWeb掲載情報よりthe WOOF作成

雪上で行われる犬ぞりには、専用の雪上用そりが使用されていますが、オーストラリアの陸上犬ぞりレースでは特別な犬そり用スクーター(バイク)と装具が使用されています。また、レースに参加できる犬種はシベリアン・ハスキーやアラスカン・マラミュートに限定されておらず、秋田犬やラブラドール・レトリバー、グレート・デーン、ゴールデン・レトリバー、ジャーマン・ショートヘア―ド・ポインター、ケルピー、ジャーマン・シェパード、ボーダーコリー、雑種など、さまざまな犬種の参加実績があります。

オーストラリアのビクトリア州にある雪山では、冬の間、雪上犬ぞりレースの他にも一般の人々が雪上犬ぞりを楽しめるツアーも開催されています。

Jarrahwood Jauntで犬ぞりレース観戦


ナイターレースの様子 video by Markus Israng / YouTube

2015年8月29日に西オーストラリア州のJarrahwood Jauntで開催された犬ぞりレースを観戦してきました。ちなみに、西オーストラリアは全く雪が降らない地域であり、観戦するのは当然、陸上犬ぞりです。

レースは、8月29日(土曜日)午後5時からのナイターレース、また30日(日曜日)は朝6時からの早朝レースの2つで構成され、2日間で合計11種目(5.2㎞3頭引き、4頭引き、3.9Km2頭引き、2.4㎞1頭引き、ジュニアレース2.4㎞1頭引きなど)のレースが行われました。

レース開場は、西オーストラリア州の首都パースから240㎞ほど南西部にあるバセルトンという町から約30㎞の内陸部。”Sled dog racing(犬ぞりレース)”と書かれたとてもとても小さな看板を頼りに、舗装されていないでこぼこ道を走ること30分。飛び出してくるカンガルーに注意しながら、ゆっくりと車を走らせてようやく会場に到着です。

生活の一部として犬ぞりレースを楽しむ

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キャンピングカーでオーストラリアを旅しながら犬ぞりレースに参加しているご家族のワンコたち。前の週は雪上犬ぞりレースに参戦しお疲れ気味の4頭とまだまだ元気な2頭の様子 ©ルール久枝

会場には、何台もの人用&犬用キャンピングカーが駐車されており、たくさんのテントが張ってありました。参加者の方によれば、参加者全員は深い森の中でキャンプを楽しみながらレースに参加するのだそうです。

お話を伺った中にも、オーストラリア各地の犬ぞりレースに参加している方がいらっしゃいました。前の週は、ビクトリア州で雪上犬ぞりレースに参加して、1週間かけて西オーストラリア州まで犬とやってきたそうです。寒い地域から温暖な地域にきたので、犬たちの毛がものすごいスピードで抜け始めたのだとか。6頭のシベリアン・ハスキーとアラスカン・マラミュートのうち、前の週の疲れがとれていない4頭は今回のレースには出場せず、1歳と4歳の若い子だけが参加するそうです。

このイベントには小さい子供から年配の方まで、幅広い年齢層の方が参加しており、リタイア後に、犬たちとキャンピングカーで旅をしながら犬ぞりレースに参加されている年配のご夫婦もいましたよ。一方、選手犬たちはといえば、こちらは犬種の幅は広くはなく、殆どがシベリアン・ハスキーとアラスカン・マラミュートでした。前述のとおり犬種の限定はないのですが、やはりレースとなると体格や適性で絞り込まれてしまうのでしょうか。

レース開始も大らかでゆったり!

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レース前のストレッチ。びよーん ©ルール久枝

レースの開始予定時刻は午後5時。しかし、この時間を過ぎても始まる気配はなし。参加者の方々はゆったり談笑を楽しんでいます。主催者の方に尋ねてみたところ、返ってきたのは「今日のレースは6時ごろから始めましょうかねぇ」という、これまたゆったりとした答え。オーストラリアはやっぱり大らかだ!

午後6時近くなると、人々は犬を散歩させトイレをさせ、一通りの「お仕事」を終えたところでようやくレースの準備を開始。すると、犬たちは「そろそろレースだ!」と気づいたようで、あちらこちらで鳴き声を響かせていました。オォーン!やるぞ!

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ジュニアレースの様子 ©ルール久枝

第一レースは子供のレースです。会場を走り回っていた子供たちは自分の犬ぞり用バイクを持って、お母さんお父さんは犬たちを連れて、コースに集結します。スタート地点で子供のバイクと犬のリードを繋ぐと準備が完了。スタート合図の数秒後(時には数分後)、お父さんもしくはお母さんが横に付き添いながら、一人の子供を乗せたバイクとそれを引く1頭の犬が直線コースを走ります。ゴールで参加者たちの拍手を受けたところで、子供たちの出番は終了。誇らしそうな笑顔で自分たちのテントへ戻っていきました。一方選手犬たちはといえば、距離が短いせいか息を切らすことなく、涼しげな表情で、リードをぐいぐい引っ張っていました。

残念ながら観戦はこの1レースのみ。2、3レース観戦できればと思って訪れたのですが、時間に関してはとてもルーズなところがあるオーストラリア、案の定、レースは1時間以上の遅れがでました。この日、午前中に集中豪雨があり、会場までの道がひどくぬかるんでいて、街灯など全くない真っ暗な森の中を運転することはとても危険なので、1レースを観戦しただけで断念しました。

一つのことをやり遂げることで深まる犬との絆

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今日はお休み。まったり〜と過ごす選手犬 ©ルール久枝

とても楽しく観戦したドライランドの犬ぞりですが、やってみたいかと問われれば答えはノー。雪上の犬ぞりと比べると転んだ時に痛そうで、ちょっと尻込みしてしまいます。子供も大人も、ドライランドの犬ぞりにチャレンジする人たちは、とても勇気があると思います。そして、練習と調教の成果もあるのでしょうが、人と犬との信頼関係が築かれているんだなあと思いました。

犬をペットとして飼っていると、散歩をしたり、ボール投げなどで遊んだり、家で一緒にくつろいだり、日常の生活が楽しくなることは多々あります。でも、犬と人が一生懸命になって一つのことをやり遂げる機会はなかなか無いように思います。

犬ぞりに参加するということは、週に何日も一緒に練習し、その練習は何カ月も何年も続き、犬も人も体力的に厳しい状況になることもあるでしょう。それを乗り越えて、レースで一緒に戦うことで、犬と人との絆は深まるのではないでしょうか。犬ぞりレースを観戦して、犬は人に対して本当に従順な動物で、一緒にスポーツ競技をしてくれる良きパートナーでもあるんだと感じました。

ゆったりと温かい雰囲気の中始まった犬ぞりレース。雪原を疾走する犬たちのイメージとは懸け離れたものでしたが、これも一つの犬ぞりの形。森林コースが暗くなり始めると照明が灯され、長い長いレースの始まりです。森に棲むカンガルーやポッサムたちは、今日は何事だ!?と眠れない夜を過ごしたのではないでしょうか。
 
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] ASSA Australian Sleddog Sports Association
[2] Western Australian Sleddog Sports Association
[3] Australian Sleddog Tours – Australian Sled Dog Tours

Featured image by Sergey Lavrentev / Shutterstock

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