夏。ワンコと一緒にアウトドア!高原や森を散策!という機会が多くなる季節です。遠出をしなくても、近所の公園や河原をお散歩することは多いのではないでしょうか?
草が生い茂る場所、そこには、ワンコや人、他の動物に病害をもたらす可能性のあるマダニが潜んでいるかもしれません。
マダニは、ワンコの血液を吸って貧血やアレルギーを起こすだけでなく、ウイルスや細菌などを媒介して、寄生した動物や人に病害を起こすことがあります。今回は、マダニが媒介する感染症の一つであるライム病についてお話しさせていただきます。
ビーン君のライム病ストーリー in オーストラリア
数年前、オーストラリアでライム病に罹患していると思われたワンコ、ビーン君に遭遇しました。
ビーン君は、食欲不振と発熱、関節腫脹のため、動物病院で診察を受けていました。いくつかの検査が実施されましたが、残念ながら原因は確定できず、消炎剤や一般的な抗生物質の投与などの治療が続けられるも、症状は改善されなかったそうです。2回目の検査でも原因は特定できないまま、1ヶ月近くが経過。その後も改善がみられないため、代替治療をしてみようということになり、レーザー鍼灸を行うことになりました。
レーザー鍼灸治療の2回目に、ようやく違う関節が腫れていることを確認。さらに次の治療ではまた違う関節が腫れてい流ことがわかりました。担当獣医師とライム病ではないかと推定し、ライム病の治療を実施。ビーン君はようやく回復し、「あれはきっとライム病だったんだろう」という結果になりました。
ライム病は、不顕性感染(感染しても症状を示さない)の多い感染症であり、一旦発症するとビーン君のように確定診断することが難しい病気です。ただ、早期に発見し対処することで、ワンコ達の苦しむ時間を短くすることはできます。マダニの成虫が活発になる夏前に、マダニ及びライム病に関して知っておきたい事項をまとめました。
マダニって、何だ?
マダニは、節足動物門鋏角亜門クモ綱ダニ目マダニ亜目マダニ科 (Ixodidae) に属するダニの総称です。世界中に生息し、これまでに899種のマダニが確認されています。日本でも、全国に生息する47種が確認されており[1]、そのうちの16種がワンコに寄生すると考えられています。また、このなかの特定のマダニは、感染症を媒介すると考えられています。
マダニは卵から幼ダニ(幼虫)、若ダニ(若虫)、成ダニ(成虫)になるまで、いろいろな動物、時には人の血液を吸って成長します。体は楕円形状で、幼虫期には6本の足、若虫、成虫期には8本の足をもちます。体の色は種により異なりますが、黄色や黄褐色、茶色などをしており、大きさも種により異なりますが、幼ダニは約1㎜、若ダニは1.6㎜、成ダニは3~4㎜(吸血前)になります。
種によって異なりますが、雌の成ダニは吸血すると、1㎝以上になることもあります。幼ダニは、地表に住む野ネズミなどに寄生して3~4日間吸血し、地上に戻って脱皮します。若ダニは、中型哺乳類や鳥類に寄生して4~5日間吸血し、地上に戻って脱皮します。成ダニは、ワンコや大型哺乳類(牛や馬など)に寄生して約1週間吸血し、雌は地上に戻って産卵し、生涯を終えます。人に寄生して吸血することもあります。
マダニは、特に草木の生い茂る場所に住んでおり、ワンコや他の動物、人が近くを歩いていると、その体温や二酸化炭素、振動などに反応して飛びついて寄生します。マダニが寄生しても、痛みを感じることがほとんどないため、人や動物は気がつかないことが多いようです。
マダニを見つけたらどうしたらいいの?
初夏から秋にかけのお散歩後には、泥跳ねなどの確認と共に、マダニが飛びついていないかも確認しましょう。マダニは、ワンコの耳の周りや内股、お腹の部分に寄生することが多いようです。ワンコにマダニが寄生しているのを見つけたら、次のように行動しましょう。
- マダニがたくさん寄生している場合や、マダニの除去が不安な方は動物病院でマダニを取り除いてもらいましょう
- 素手で無理やり除去しようとしたりせず、ラテックス製の手袋をはめ、専用のピンセット(※1)で慎重に取り除きましょう
- マダニの口器をピンセット先端部でつかみ、真上にゆっくり引き上げます(頑張って!)。この時、マダニの口器がワンコの皮膚内に残らないよう注意します。残ってしまうと、化膿してしまうことがあります
- マダニの体内には病原体が潜んでいるかもしれないので、つぶさないように気を付けましょう
- 他にもマダニが寄生していないかを全身隈なくチェックしたら、マダニの処分です。取り除いたマダニは、密封容器に入れて動物病院に持っていく(※2)か、密封容器のまま処分しましょう
※1 家庭にある、挟むところがフラットなタイプのピンセットだと、マダニの口器のところで切れてしまい、一部が残ってしまった症例があります。その場合、全身麻酔の上で切開しなくてはならなくなります。
※2 種の判定をしてもらい、感染症を媒介するマダニかどうか確認してもらうことをおすすめします
マダニが媒介するライム病
ライム病とは、ボレリア菌という細菌がマダニを媒介してワンコや人に感染する病気です。ライム病は、罹患したワンコから人に感染することはありません。
日本でワンコのライム病を媒介するマダニは、シュルツェマダニ(写真左)やヤマトマダニ(写真右)と考えられています。この2種のマダニは日本全国に生息していますが、ボレリア菌を保有するシュルツェマダニとヤマトマダニが確認された地域は、北海道と青森、福島、静岡、長野です。ちなみに、日本でのシュルツェマダニのボレリア菌保有率は17%、ヤマトマダニのボレリア菌保有率は10.5%と報告されています。
マダニが寄生してボレリア菌に感染しても、症状を示すワンコの数はとても少数です。時間をおいて発症することもあり、マダニ寄生から24~48時間後、または数週間もしくは数ヶ月後に症状を示すこともあり、注意が必要です。
ライム病が発症した場合の症状は、食欲不振や発熱、多関節炎(特に、腫脹する関節は日によって変化します)による跛行、リンパ節腫脹が主です。ライム病の診断は、マダニ寄生歴や症状から判断する他、血液検査で判定することも可能です。ただし、血液検査は抗体検査なので、感染したワンコの体内で抗体が十分に産生されていない場合など、確実に診断することが難しい場合もあります。
ライム病の感染が疑われたら、適切な抗生物質で治療することはできますが、感染していた期間が長い場合には、1種類の抗生物質だけでは、完治しないこともあります。そして、重篤な症例では、感染が腎臓まで波及したり、関節炎が長引くこともあります。そのようなワンコには、長い長いケアが必要となります。
ライム病の発生は決して多くはありませんが、軽視できる病気ではありません。ワンコと一緒に草むらや森林、山を散策する際にはマダニ対策を、そして散策後には人もワンコも全身を隈なくチェックして、マダニが寄生していないか確認することをおすすめします。吸血前のマダニは小さくて発見することが難しい場合があるので、吸血して大きくなったマダニ寄生を確認するために、散策した次の日にも全身をチェックすると良いかもしれません。
ワンコと共に、楽しい夏をお過ごしください。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] マダニ対策、今できること
[2] Stephanie Duncan, Weather warming up? Time to talk about Ticks. Veterinary Practice News.
[3] 家畜寄生虫病学 第7版
[4] 佐伯英治、マダニの生物学、動薬研究
[5] 佐伯英治、ペット動物および人のマダニ咬傷と媒介性疾患、動薬研究
[6] Lyme disease in dogs, VCA Animal hospital,
[7] 佐藤七七郎、ライム病、動薬研究、
[8] Richard W.Nelson.,C.Guillermo Couto et .Small Animal Internal Medicine. 3th ed. Mosby. 2003.1018
Featured image credit wassiliy-architect / Shutterstock
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