犬は鮭を食べると中毒を起こすの?~ワンコのサケ中毒・新知識~

健康管理
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日本では“犬のサケ中毒”はあまり知られていないかもしれません。これまで、サケ中毒の主な原因菌は日本では確認されておらず、日本でサケ中毒の発生は報告されていないので、あまり話題になることはなかったためでしょう。

しかし2016年に米国で、サケ中毒を発生させる病原体ネオリケッチア属に新種が発見されたという報告がなされました。これでサケ中毒に関連するネオリケッチア属は、ヘルミンテカ、エロコミン及び新しく発見されたSF agentの3種となります。”SF agentについては世界中に生息する可能性があるため、日本在住ワンコもちょっと注意が必要です。

ということで今回は、ワンコのサケ中毒と3種の病原体についてお話しします。

ヘルミンテカ〜今のところ日本では報告なし

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© Salmon Poisoning in Dogs – Orchard Hills Animal Hospital

サケ中毒は、ネオリケッチア・ヘルミンテカ(Neorickettsia helminthoeca)という微生物に感染したサケや淡水魚を生で、もしくは加熱不十分な状態で食べることにより発生する致死率の高い病気です。犬やキツネ、コヨーテなどのイヌ科動物に発生します。

感染すると、6~10日間の潜伏期を経て、40~41度の高熱を発症します。その他、嘔吐や下痢、粘血便などの症状を示し、適切な治療を早急に受けないと、約90%のワンコは感染してから約2週間以内に死亡してしまいます。

ヘルミンテカは、サケ中毒吸虫(Nanophyetus salmincola サケ住血吸虫もしくはサケ住胞吸虫ともいう。成虫の大きさは0.8~1.1X0.3~0.5㎜)という寄生虫を介して、イヌ科動物へと伝播されていきます。まず、ヘルミンテカに感染したイヌ科動物の糞中にへルミンテカ感染サケ中毒吸虫の卵が排出されます。この卵は、水中で孵化し、ミラシジウムと呼ばれる幼生となってJuga pliciferaやJuga siliculaという巻貝に取り込まれます。巻貝の体内でミラシジウムはセルカリアと呼ばれるステージまで成長し、水中に遊出します。セルカリアはサケやマスなどの魚類に侵入し、メタセルカリアというステージまで成長します。そして、ヘルミンテカに感染したメタセルカリアが生息するサケやマスを、イヌ科動物が捕食すると、その動物はヘルミンテカに感染し、サケ中毒を発症してしまうのです。

あまり聞き慣れない名称がたくさん出てきましたね。簡単にいうと、イヌ科動物は、ヘルミンテカに感染した吸虫のいるサケやマスなどの淡水魚を生もしくは生に近い状態で食べると、サケ中毒を起こしてしまうのです。

ただ、ヘルミンテカ感染吸虫を媒介する巻貝は、アメリカ西海岸にだけ生息しているため、サケ中毒はカリフォルニア北部からワシントンの太平洋北西部でのみ発生が報告されています。これは、日本のワンコにとって朗報ですね。

エロコミン〜西海岸でのみ発生

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image by Marc Tarlock / Flickr

ヘルミンテカが属するネオリケッチア属とは、通常の細菌よりも小さく、ウィルスよりも大きい微生物で、人や動物に病害をもたらします。ネオリケッチア属は、まず吸虫に感染し、感染した吸虫を介して、巻貝や水生昆虫、魚類などを経て、哺乳類へと病気が伝播されると考えられています。

イヌ科動物に病害を起こすネオリケッチア属には、ヘルミンテカの他にネオリケッチア・エロコミン(Neorickettsia elokominica)があります。エロコミンは、イヌ科動物やフェレット、クマ、アライグマにエロコミン吸虫熱(Elokomin fluke fever)を発症させることが知られていますが、クマではサケ中毒のような重篤な病害を起こすといわれていますが、ワンコへの病害は軽度です。しかし、適切な治療を行わないと死亡することもあります(死亡率は10%以下)。

ネオリケッチア・エロコミンも、媒介生物の生息地域が特定されるため、アメリカ西海岸でのみ発生が報告されています。

新種のネオリケッチア〜日本在住ワンコも要注意

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image by Mills Baker / Flickr

2016年、オレゴン州立大学の研究者は、ネオリケッチア属に新たな仲間(新種の微生物)が加わったとする報告書を発表しました。

これまで、サケ中毒吸虫を媒介生物とするネオリケッチアは、ヘルミンテカとエロコミンの2種とされていました。しかし、オレゴン州立大学の研究者が、サケ中毒吸虫の寄生したサケからSF(Stellanchasmus falcatu) agentと呼ばれる微生物を分離することに成功。DNA塩基配列の結果から、SF agentはネオリケッチアの新種であると結論づける報告を行ったのです。

SF agent は、通常Stellanchasmus falcatu という吸虫を媒介生物とし、日本では1962年にボラから分離されたことがあります。

致死率が高いヘルミンテカとは異なり新種の微生物は、サケ中毒の原因菌に比べると、病害はとても軽く、感染しても無症状だったり、軽度の発熱や腹痛を起こす程度といわれています。適切な抗菌剤による治療を受ければ、回復する感染症です。ただ、この病原体は前述のとおり日本でも分離が確認されていることから、ヘルミンテカやエロコミンより”身近な”病原体と言えるでしょう。

ワンコはサケを食べても大丈夫?

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image by Guillermo Salinas / Flickr

全く関係がない言い切ることのできないSF agentによる病害。しかし、以下の注意事項に気をつければ、それほど心配しなくても良いものでもあります。

まず、サケを生もしくは生に近い状態でワンコに食べさせるのは控えたほうがよいという点です。どうしても、生のサケをあげたい!という場合には、寄生虫を死滅させるため、サケを最低2週間は冷凍するとよいそうです。

また、ワンコと一緒に川釣りに出かけたときや、川沿いをお散歩するときには、ワンコが釣った魚や川辺の死んだ魚を食べないように注意しましょう

もし、ワンコが生のサケを食べてしまった!というときには、その後、特に大きな変化がみられなくても、1週間~10日間はワンコの様子を慎重に観察しましょう。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Discovery of new bacteria complicates problem with salmon poisoning in dogs | News and Research Communications | Oregon State University
[2] Greiman, S. E., Kent, M. L., Betts, J., Cochell, D., Sigler, T., & Tkach, V. V. (2016). Nanophyetus salmincola, vector of the salmon poisoning disease agent Neorickettsia helminthoeca, harbors a second pathogenic Neorickettsia species. Veterinary Parasitology, 229, 107-109.
[3] Wen, B., Rikihisa, Y., Yamamoto, S., Kawabata, N., & Fuerst, P. A. (1996). Characterization of the SF agent, an Ehrlichia sp. isolated from the fluke Stellantchasmus falcatus, by 16S rRNA base sequence, serological, and morphological analyses. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, 46(1), 149-154.
[4] Salmon Poisoning Disease and Elokomin Fluke Fever – Generalized Conditions – Veterinary Manual
[5] Salmon Poisoning Disease (“Fish Disease”) | Oregon Veterinary Medical Association
[6] 家畜寄生虫病学(2007), 大石 勇 (監修), 今井 壯一 (編集), 藤崎 幸藏 (編集), 板垣 匡 (編集), 朝倉書院
[7] 標準微生物学, 中込 治 (編集), 神谷 茂 (編集), 医学書院

Featured image credit TheGiantVermin / Flickr

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