私たちが病気や怪我をしたら、まずは近所のかかりつけの病院で診療を受けますよね。さらに詳しい検査や高度な治療が必要な場合には、大学病院などの高度獣医療機関を紹介してもらうことがあるかもしれません。
ワンコたちも同じこと。調子が悪い時には、まず一般の動物病院で診察してもらってから、必要に応じて獣医スペシャリストと呼ばれる獣医師専門医の病院で診療を受けられるシステムがあります。この獣医師専門医制度と呼ばれるシステムは、欧米やオーストラリアで確立され、既に広い認知を受けているものです。日本でも徐々に広まりつつあるようですね。
今回は、オーストラリアの獣医師専門医についてご紹介させていただきます。オーストラリアの公的資格である獣医師専門医とは、どのような資格で、患畜たちはどんな治療がうけられるのでしょうか?
獣医師専門医とは
・どんな獣医師が獣医師専門医になれるの?
オーストラリアで獣医師になるには、大学で5年間獣医学を学ばなくてはなりません。そして無事に卒業できれば獣医師資格を取得することができます。専門医になるためには、臨床獣医師として最低5年以上勤務した後に、指定の大学付属病院や認可を受けた一般病院の専門診療科で3年以上勤務しながら特別なトレーニングプログラム(レジデント)を修了しなくてはなりません。
このトレーニングを終えて初めて、スペシャリストの試験の受験要件を満たすことになります。専門医資格を取得するための審査では、試験の成績のほか、獣医学会での発表や論文の業績、トレーニングを受けた病院や大学での評価などが考慮されます。
・どんな獣医師専門医がいるの?
オーストラリアでは現在、23科の獣医師専門医が認可されています(原稿執筆時)。犬などの小動物を対象とした科には、小動物内科や小動物外科、獣医心臓科、獣医歯科、獣医皮膚科、獣医神経科、獣医腫瘍科、獣医眼科、猫内科、救急科、動物行動科、獣医画像診断科(デジタルレントゲン検査や超音波検査の他、MRIやCTの検査を行っています)、獣医麻酔科などがあります。
獣医師専門医病院について
・獣医師専門医の病院
オーストラリアの大きな都市(シドニーやメルボルン、パースなど)には、スペシャリストセンターと呼ばれる獣医師専門医動物病院があります。しかしその数は少なく、各大都市にはたいてい1~2つのセンターがあるのみです。センターで診察を受けるには、一般の動物病院からの紹介状が必要になります。
各専門医動物病院により、設けられている診療科は異なります。多くのスペシャリストセンターには、内科、外科、皮膚科、画像診断科、腫瘍科、救急科などがあり、眼科や心臓科、行動科などの科が設けられているセンターもあります。
・獣医師専門医病院ではどんなことができるの?
画像診断科を設けているスペシャリストセンターには、CTやMRIが設置されています。このような高度画像診断装置を用いることにより、いろいろな病気を診断することが可能になります。その他にも、最新もしくは高度な機器と技術、知識を駆使して、とても難しい整形外科手術や神経疾患の手術、白内障の手術、胃腸の内視鏡検査、抗ガン治療など、一般の動物病院では実施することが難しい検査や治療を行っています。
・日本の獣医師専門医
日本では、公的な獣医師専門医資格はありませんが、各獣医協会や獣医師団体で認定医などの制度が設けられています。例として、日本動物病院協会(JAHA)では、外科と内科の認定医制度が、日本獣医がん学会(JVCS)では、獣医腫瘍科認定医制度が、比較眼科学会では、獣医眼科学専門医制度が設けられています。
また、海外で専門医の資格を取得し、日本で活躍している獣医師の方々もいらっしゃいます。このような制度や獣医師の方々のおかげで、日本の高度獣医療はますます発展しているようです。
獣医師専門医や認定医になるためには、長い時間がかかるだけでなく、とてつもない苦労が要求されると思います。それでも、より高度な、よりよい動物診療を提供するために、努力を惜しまない獣医師の方々がいらっしゃることに敬服いたします。
日本でも近い将来には、いろいろな専門獣医師のシステムが確立されていくと思います。大切なワンコが難しい病気にかかってしまった場合に、日本や海外で認可を受けた専門の獣医師からセカンドオピニオンが聞きたいときには、まずはかかりつけの獣医師に相談してみるといいと思います。きっと、快く受け入れてもらえると思います。獣医師の一番の目標は、ワンコがハッピーライフを取り戻すことですから。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] オーストラリア獣医委員会獣医師専門医インフォメーション冊子
[2] 日本獣医師会;獣医師専門医制のあり方
[3] 日本動物病院協会
[4] 日本獣医がん学会
[5] 比較眼科学会
[6] パース獣医スペシャリストセンター
[7] ブリスベン獣医スペシャリストセンター
[8] ノースショア獣医スペシャリストセンター(シドニー)
[9] 獣医スペシャリストセンター(シドニー)
[10] アデレード獣医スペシャリストセンター
トップの写真は、シドニー獣医スペシャリストセンターの入院施設と治療室の様子 ルール久枝さん撮影
ぽっこりお腹の原因は巨大な腫瘍〜ダイエット相談が緊急手術になったワンコのお話 | the WOOF
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