子犬の社会化〜適応力のある犬に育てるための2つのポイント

しつけ・トレーニング
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犬の成長の過程において「社会化期(あるいは「感受期」)」と呼ばれる生後3週齢から12週齢ごろまでは、文字どおり「社会に慣れる」大事な時期です。

離乳期を終えた子犬たちが兄妹犬との遊びを通して犬社会のルールを身に着けたり、人間との絆を構築しながら、人間社会での生活に慣れていく時期です。この時期は様々なものやことに好奇心を持って向かっていけるため、暮らしの中で出会う可能性のある様々な刺激にも慣れやすいと言われます。

様々なものを受け入れやすいこの時期に多くの経験をさせることは、子犬にとって怖いものを減らしてやることにもつながります。この時期にさまざまな刺激を受けた犬は、不安や恐怖に固まったり、逆上したり興奮したりすることなく、ものごとに柔軟に適切に対応できるようになるのです。

社会化不足の犬は普段の生活にも苦労する

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image by 三井 惇 CPDT-KA, WanByWan


社会化期は、犬の成長段階における非常に重要な時期ですが、残念なことにずっと続くわけではありません。多少の個体差はあるものの、16週齢ごろようになると恐怖心や警戒心が好奇心をうわまるようになり、それまでのようにものごとを広く受け入れられなくなります。


社会化が十分に行われないまま成長するとどうなるかと言えば、人間でいえば「人見知り」になるといった感じでしょうか。

社会化期はブリーダーさんの元にいるときから始まっています。ブリーダーさんのところで母犬や同胎犬と過ごしていれば、犬とのコミュニケーションはうまくできるようになっていることでしょう。しかし、そのほかのものやことに対する接触が少なければ社会との接触が限られることにより、「社会化できていない犬」が誕生する可能性もあります。

子犬たるもの、外に連れ出せば大喜びで、リードを引っ張り飼い主を先導するものだと思っている方は多いと思います。しかしそれができない犬もいます。社会化がまったくできていないために、普通に道路を歩けない犬も沢山いるのです。


道路を走る車の音、トラックの荷室の扉を閉める音、工事現場の音などなど。通常の生活音に慣れていないために、犬は外を歩けません。玄関から門にたどり着くまでで数日、門から道路に出られるようになるまででまた数日、10メートル歩けるようになるまででさらに数日といった具合に、何週間もかかるのです。犬が自信をもって自分の足で歩けるようになるまで、何か月もかかったケースもあります。

知り合いのブリーダーさんは、生後一か月ぐらいなると、子犬たちを車に乗せて出かけるそうです。車に乗せることひとつとっても、子犬には重要な経験のひとつになりますが、これに加えて安全な場所にペン(囲い)を広げて子犬たちを中に入れ、通りかかる人、車など、これから出会うであろう様々な刺激を兄妹みんなで受けられるようにするそうです。

このように社会化のサポートを行っているブリーダーさんもいらっしゃいますが、そこまでサポートしてくれていない場合は、家族に迎える飼い主さんが社会化を手伝ってあげなくてはいけません。


適切な社会化が出来ていなければ、散歩に出られないだけでなく、怖いと思えば逃げたり、逃げられなければ唸ったり吠えたりして自分のそばに寄って来ないように威嚇するという行動に出る可能性もあります。このような行動は、犬としては特に異常なものではありません。しかし犬社会の中では問題なくても、大きな音がすればパニックになり、人や犬が近付けば唸ったり吠えたりするのでは、人間社会でより良い共存ができているとは言えません。

犬の社会化で大事なのは、「社会化期という様々なものを受け入れやすい時期に、できるだけ多くの刺激に慣れさせること」です。このために、2つの誤りを犯さないようにすることが大切です。

ワクチン完了前も多くの刺激に触れさせよう


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社会化に適した時期に社会化を行おうとしないことは、よくありがちな間違いです。


社会化に適した時期は、ワクチンの接種が完了していない時期でもあります。一回目と二回目のワクチンの時期がちょうど8週目から12週目にあたることから、病気のリスクを考えて子犬を外に連れ出すことに抵抗感をもつ飼い主さん(や獣医師さん)がいます。そうすると、子犬が受けられる刺激は限定的なものになってしまいます。


確かに、健康な成犬においては発症しない感染症でも、体力の無い子犬では死に至る場合があり、感染症を軽んじることはできません。


しかし、小型犬であれば抱いて散歩に出ることもできますし、中・大型犬であればカートに乗せて外に連れ出すこともできます。直接地面を歩かせなくても、外気を感じ、様々な匂いを嗅ぐことは十分な刺激になります。家族以外の人や犬を見たり、空を飛ぶ鳥を見たり、人間社会の生活音を肌で感じることで、犬たちの脳は確実に刺激されます。それを日々繰り返すことで、犬を社会に慣らしていくことが出来るのです。






「小型犬は散歩しなくていい」ということはありません。どの犬も散歩や運動は必要です。家以外の場所を知らない子犬を急に見知らぬカフェに連れていったり、ドッグランに連れていくというのはあまりにもかわいそうです。

外に出るのが難しい場合は、せめて窓を開けて匂いを嗅がせたり音を聞かせたりしましょう。高層マンションで窓が開けられないのであれば、是非抱っこやカートで外に連れて行ってあげてください。

犬の様子を確認しながら刺激に慣れさせよう

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犬のペースを無視して過剰な刺激をあたえることは、もう一つの犯しがちな間違いです。

それによって、トラウマを作ってしまい、逆に犬に恐怖心を植え付けてしまう結果になることがあります。


ここで翻って、「適切な社会化のやり方」とはどういうことか、「慣らす」というのはどういうことかを考えてみたいと思います。

様々なものに慣らしていくということは、その環境に子犬をおいても大丈夫な状況にしてあげるということです。いくら多くのものを受け入れやすい時期だと言っても、洪水のように浴びせてしまっては犬も対処できません。

・刺激に段階的に慣らしていこう

外の世界に不慣れな段階では、抱っこやカートから眺める周囲の風景を見せるだけで十分です。家の中とは違った環境があることを教えていきます。急に車通りの多い場所を歩かせるようなことをするのは行き過ぎです。


人好きにさせようと、人に会うごとに抱っこさせたり、触らせたりというのも早すぎということがあります。犬にとってはストレスになりかねません。少し距離をとったところから、犬に近づいてもらい、犬がその人に興味を示したら匂いをかがせてもらったり、そっとあごの下を撫でてもらってまた離れてもらうといったステップが必要です。

我が家の初代ボーダー・コリーも、ワクチン未接種のときは抱っこで散歩をしていました。


家の前の私道を出れば、バスが通る交通量の多い道になり、散歩に行くにはそこを通らなければなりません。


そこで、バス通りを抱っこして歩いたり、小学校の登下校時間に合わせて子供の声を聞かせたり、知人に会えば、声をかけてもらったり、撫でてもらったりしながら、人間は怖くないこと、日常の生活音はあたりまえにあることを感じてもらいました。

外に出られない日は、窓を開けて鳥の声が聞こえれば、「鳥が鳴いてる」と話しかけ、雨が降れば、「今日は雨だから散歩に行かれないわねぇ」と人間の子供と同じように声をかけていました。

・ストレスサインに敏感になろう




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子犬は自分から子どもの方に寄っていきますが、リードは緩んでいるのでいつでも逃げて戻って来られます。



子犬を抱いて歩いていれば、すかさず「きゃぁ、かわいい!」と黄色い声を上げながら近づいてくる子供たちもいるでしょう。
「抱っこさせて!」と取り上げようとするおばさんもいるかもしれません。

しかし、その時の子犬の様子をきちんと見てあげましょう。もしあなたが「犬にとって過剰な刺激だ」と感じたら、あるいは犬がストレスサインを出していたら、すかさず助けの手を差し伸べましょう。



ようやく散歩に出られたからと、リードを引っ張りよその犬に無理に近づけようとしたり、腰の引けている子犬に「そんなじゃダメだ」と叱りつけてしまっては、飼い主への信頼感も薄れてしまうでしょう。



以前お散歩初めの小型犬を連れたご夫婦と公園で出会ったときのこと。
飼い主さんとしては愛犬に早く犬友達を作って欲しかったのかもしれませんが、近くにいた大型犬の子犬に、月齢が近いからと無理矢理近づけようとリードを引っ張っていました。いくら子犬同士とは言え、自分より何倍も大きい子犬を見て、その小型犬が自分から近づくとは思えません。


案の定大型犬の子犬が突進してきたところで、悲鳴を上げて逃げようとしてパニックになりました。


これでは適切な社会化どころか子犬にとっては一生のトラウマになってしまいます。



ちょっと様子を見ているような仕草を見たら、犬が自分から歩き出すのを待って、上手に確認できたことを褒めたり、あるいは怖がらずにいられることを褒めることで、子犬は少しずつ自信を付けて行くことができます。


新しい環境で落ち着かない様子であれば、いつもよりレベルの高い(美味しい)オヤツをあげて、食べられるようであれば、興奮しないでその場にいることを褒めながらご褒美としてオヤツをあげます。

オヤツすら食べられないようであれば、子犬の頭はいっぱいなので、その場所から少し離れて落ち着かせてあげるという配慮も必要になります。

・家の中に慣れさせることもお忘れなく



また、慣らさなければいけないものは外の環境だけではありません、おうちの中でも、テレビ、ラジオ、ドライヤー、掃除機など音が出るものだったり、足ふきやシャンプーなど、人間には当たり前のものやことであっても、子犬にとっては初めてづくしです。これらのことに対しても、急にではなく、少しずつ慣らしてあげて、平気なものにしてあげることが大事なのです。



「かわいい子には旅を」とついつい飼主さんに力が入ってしまいがちですが、要は子犬のペースでゆっくり様々なものに慣らしていくプロセスが重要なのです。

子犬を迎えたら、是非適切な社会化で子犬をサポートしてあげてくださいね。


そして社会化期が終わったからと安心してしまうのではなく、愛犬の成長は日々続くのですから、さらに多くのことを経験させて、ストレスを軽減させてあげられるようにサポートを続けていってください。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] 鹿野正顕、中村広基 (著), 森 裕司 (監修),(2008)『犬の行動学入門 [アニマルサイエンスシリーズ] IBS出版
[2] Martin, K. M., & Martin, D. (2011). Puppy Start Right: Foundation Training for the Companion Dog. Karen Pryor Clickertraining.




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