シングルコートとダブルコート~抜け毛の多さは何で決まるの?

犬のカラダ
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犬の飼い主さんなら、「シングルコート」「ダブルコート」という言葉はご存知だと思います。ざっくり言うとタイプの違う毛が二重構造になっているのがダブルコートで、一種類の毛でおおわれているのがシングルコート。よく「ダブルコートの犬は抜け毛が多い」などと言われますが、抜け毛の多さはタイプの違いだけでは決まりません。健康状態や生活環境、そして遺伝子が関与しているのです。

シングルコートとダブルコート

  • Siberian husky - Konstantin Zaykov / Shutterstock

犬の毛質は直毛か癖毛か、短毛か長毛かといった形状だけでなく、シングルコート(一種類の毛からなる)かダブルコート(オーバーコートとアンダーコートの二層からなる)かという違いもあります。犬の祖先のオオカミはダブルコートを持っていますが、犬は進化の過程でそれぞれの犬種に好ましい特徴を備えるように人による選択繁殖を受けてきたため、それに伴い毛のタイプも変化してきました。

たとえば、極寒の地で誕生したシベリアン・ハスキーは豊富なアンダーコートを持ち、それが寒さから身を守る働きをしています。ただしシベリア地方とはいえ一年中極寒続きではありません。ハスキーは季節に合わせてアンダーコートの量を調整することで体温調節がしやすいような被毛生成のメカニズムを持っています。いわゆる冬毛と夏毛と呼ばれる被毛です。

ダブルコートを持つ犬種にはシベリアン・ハスキーのほか、秋田犬や柴犬、アラスカン・マラミュート、サモエド、ジャーマン・シェパード、ニューファンドランド、ボーダー・コリー、コーギー(カーディガン、ペンブローグ)、ラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバーなどが挙げられます。夏毛の時期には毛のボリュームがダウンし、少しほっそりするような犬種で、抜け毛が多いタイプです。

一方、シングルコートの犬はアンダーコートを持たない、もしくはほぼ持たないため、ダブルコートの犬に比べると抜け毛は多くありません。いわゆるスムースコートといわれるイタリアン・グレイハウンドやフレンチ・ブルドッグ、ボクサーなど、長毛犬種ではヨークシャー・テリアやマルチーズ、そして巻き毛のプードルもシングルコートで、いずれも抜け毛が少ないタイプです。また、チワワはシングルコート(スムース)とダブルコート(ロング)の両方のタイプが併存する珍しい犬種です。

一般的に、抜け毛はダブルコートが多くシングルコートは少ないといわれますが、抜け毛が多いか少ないかはコートタイプだけで決まるものではありません。コートタイプの違いのほかに、毛周期や毛質の違いなどを作りだす遺伝要因、病気や栄養状態、季節や生活環境などの環境要因にも影響されます。

生活環境がガラリと変わったことにより、皮膚関連のトラブルを抱えてしまう犬もいます。外で大いに作業してきた犬種や外飼いが一般的だった犬種が室内で暮らすことで、季節や気温の変化を受け入れきれず、生え変わるべき下毛が抜け落ちないために皮膚病を発症することもままあります。また、寒さに弱い傾向のスムースコート犬種がより寒さへの耐性がなくなり、耳先がしもやけになりやすくなるケースもあるようです。毛の問題は犬も人間も、なかなか悩ましいものがありますね。

抜け毛の量に関係する遺伝子MC5R

犬の抜け毛の量に関係しているのはMC5R(Melanocortin 5 receptor)という遺伝子で、皮脂産生に関わる働きを持つことが知られています。皮膚内部にある皮脂腺から分泌される皮脂は、皮膚や被毛を保護したり保湿したりする働きを持つほか、体温を保ったり水をはじいたりする役割も果たしています。

MC5Rに変異が起きていない場合は、オオカミと同様にアンダーコートが抜けかわるダブルコートで、もれなく毛がよく抜けます。一方変異が起きている場合には、シングルコートで抜け毛が少なくなります。最近の研究結果によれば、MC5R遺伝子の組み合わせは抜け毛の多い順に、「変異ナシ/変異ナシ」「変異ナシ/変異アリ」「変異アリ/変異アリ」となるそうです。スムースコートの犬はMC5R変異が原因となり下毛そのものがない(または少ない)うえに、皮脂の量も少なくなる傾向にあるため、遺伝的な体質として寒さにはあまり耐性を持たないということになります。

さらに、ワイアーヘアを決定するRSPO2遺伝子も抜け毛量と関連することが明らかとなっています。MC5RとRSPO2遺伝子をどのような組み合わせで持っているかにより、抜け毛量を3段階から5段階にランク分けすることもできるようになりました。


Shiba Inu – image by Grisha Bruev / Flickr

5段階のうち、もっとも抜け毛が多いランクに入っている犬種のひとつが柴犬です。柴犬は短毛でワイアーナシ、MC5Rの変異遺伝子も持ちません。いわゆる野生型(オオカミの持つ遺伝子から変異していないタイプ)の、短毛でダブルコートの組み合わせの犬です。


Boxer – image by Jana Behr / Shutterstock

ここで「短毛=抜け毛が多い」ではないことに注意してください。同じ短毛でもMC5Rの変異タイプを持つシングルコート×ワイアーなしの犬(ボクサーなど)では、これまた抜け毛は大きく減少します。この組み合わせだと、柴犬のような短毛タイプよりもさらに毛が短めになるうえ、アンダーコートがほとんどなくなるために抜け毛も減るということです。毛の長さは別の遺伝子(FGF5)により決められているのですが、短毛のFGF5遺伝子を持つ上でMC5Rの変異タイプも持つ場合には、毛の長さが本来想定されるよりも短くなる傾向にあるそうです。


Poodoe – image by DuxX / Shutterstock

では、抜け毛が最少ランクである犬種はというと、プードルがその代表になります。MC5R遺伝子両方が変異アリのシングルコート、かつワイアーアリ/アリの場合になります。ラブラドールとプードルのミックス犬種であるラブラドゥードゥルや、コッカースパニエルとプードルのミックス犬種のコッカプーなどは、もともと盲導犬や聴導犬として障がいを持つ人の家庭で暮らしていく上で、オーナーの手を煩わせずアレルギーも出にくいと考えられている抜け毛の少ない犬が必要とされ、作出された犬種でもあります。ただし、アレルギーに関しては、抜け毛量が減れば単純にアレルギーも出なくなるというわけではないようです。アレルギーの発症原因はとても複雑なので、毛が抜けない犬種ならばたとえアレルギーを持っていても問題なく暮らせると早合点しないようにしましょう。

MC5RとRSPO2遺伝子とで、大まかに抜け毛の多さとコートタイプ(シングルかダブルか)を説明できるようになりましたが、アンダーコートの量や微妙な毛の長短など、まだ説明できないことが残されています。それらの部分に関しては、また別の遺伝子の存在が影響をしているだろうと想定されていますが、現時点ではまだ明らかになっていません。

3種類の被毛を持つ牧羊犬ベルガマスコ

もっとも毛の抜けにくいランクに位置する犬、プードルはシングルコートです。しかし、巻き毛でワイアーアリ、且つ長毛という同じ遺伝子背景を持ちながらもダブルコートである犬がいます。プーリーやコモンドールです。モップ犬などとも呼ばれて親しまれているこれらの犬は、毛の成長と共に縄状のコードといわれる毛束を形成していきます。このコードを作る遺伝子が何であるのかは分かっていませんが、コード形成には下毛の存在の有無も影響すると考えられています。とはいえ、プードルと同じシングルコートでも、スパニッシュ・ウォーター・ドッグはコードを形成しますし、コーデッド・プードルと呼ばれるコード状の被毛を形成するタイプのプードルも存在しています。ですので、コード形成には下毛の存在の有無のほかにも、強いカールを持つ前提で、そこに働きかけるまた別の遺伝子が関与しているのではないかと個人的に推測しています。


Bergamasco sheepdog – image by Monica Martinez Do-Allo / Shutterstock

さらには3種類の被毛を持つとても珍しい犬種が存在しています。イタリア原産の牧羊犬、ベルガマスコです。ベルガマスコの3種類の被毛は、それぞれが絡み合いながら伸びていくことで、あの平たいフェルトが全身にぶら下がっているような独特な風貌になっていきます。縄状のコードもベルガマスコのフェルト状の被毛も、外敵となるオオカミなどの攻撃から身を守るのに役立ったといわれていますが、自然に伸びるままにしていても決してあのような被毛にはなっていきません。毛の手入れをせずに放置しておくと、むしろ、無秩序に絡まったり毛玉になったりして動きを妨げることになるばかりか、皮膚の通気性が悪くなって皮膚病になることもあります。これらの特徴的な被毛は、適切な毛のお手入れがある上で作られていくものなのです。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Hayward, J. J., Castelhano, M. G., Oliveira, K. C., Corey, E., Balkman, C., Baxter, T. L., … & Kalla, S. E. (2016). Complex disease and phenotype mapping in the domestic dog. Nature communications, 7, 10460.
[2] Genomia: Testing of dogs: Furnishing – Shedding
[3] Paw Print Genetics – SD Locus (Shedding)

Featured image creditAlena.Kravchenko/ shutterstock

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