皆さんこんにちは! 読書犬・パグのぐりです。
さーて、今年もやってきました年末SP。大量の本をかかえて、「こっちがいいかな~」「いや、やっぱりこっちかな~」と迷いながら考えて、5冊を厳選しました。
お正月休みにぴったりな、読み応えのあるノンフィクションから、ちょっとほっこりできるイラスト本、旅行に思いをはせられる写真集など、いろいろ取りそろえてみました。
では、本をお供に、どうぞよい年末年始をお迎えください!
『極夜行』〜太陽が昇らない場所へ
冬になり、日が短くなってきたよね。寒さが一層身に染みるけれど、日中の太陽のありがたさを感じるときでもあります。ですが地球上には、ある期間、まったく太陽が昇らない場所があるそうです。この本は、そんな土地を犬1匹と荷物を載せた橇だけで歩いた著者の記録です。
地球上には極夜という暗闇に閉ざされた未知の空間がある。それは太陽が地平線の下に沈んで姿を見せない、長い、長い、漆黒の夜である。(p20)
その極夜を体験してみたい。著者の角幡さんは現在の暮らしを網羅しているシステムからの脱却を試みたい、つまり、明かりが当たり前にある世の中から脱して、極夜に身を投じることで、自分が何を感じるのかを知りたいと思い、北極へ旅立ちます。
実際に探検を結構する数年前から綿密な準備を重ねるのですが、その途上は困難を極めます。僕は読みながら、大丈夫なのか? 生きてゴールにたどり着けるのか? いや、今この本を僕が読めているということは、生還したってことだよね? などとぐるぐる思いながら一気に読み進めました。
さて、橇をひかせる犬は、愛玩犬とはまた違い、旅を共にするパートナーであり、万が一極限状態に陥ったときには、食糧になるかもしれないという、日本でペットとして犬を飼っている人たちにはドキッとするような存在として描かれています。でも、この本を1冊読むと、なるほど、確かにこの状況におかれたら、そうなるかも…と思わざるを得ません。どんな文化的背景の中で暮らすかによって、犬と人間の関係は変わってくる。しかし、極限状態の中でこそ育まれる、犬と人の特別な関係がどういうものかをたっぷりと知ることができます。
この本、最初になぜか「東京医科大学付属病院分娩室」から始まります。角幡さんの娘さんが誕生するシーンです。家族が大事ってことをいいたかったのかな?と思って読み進めると、最後の最後で、そうだったのか!と、答えがわかります。手に汗握る1冊。年末お時間のあるときに、ぜひぜひ読んでみてください。
『愛犬リッキーと親バカな飼主の物語』〜心配しすぎて超過保護?!
この本はそのタイトル通り、著者が飼っているヨークシャー・テリアのリッキーとの出会いから、育児ならぬ育犬の様子をつづった1冊です。著者はもともと犬好き。あるときひょんなことからヨークシャーの兄弟犬と出会い、バッキーとリッキーを飼うことに。ですが、本書のタイトルにはリッキーの名前しかありません。それがどうしてかは本文に譲りますね。
ある出来事から、リッキーの健康状態に異常なまでに敏感になり、ちょっとでも何かあると「死んでしまうのではないか」とすぐにお医者さんに連れていくようになった著者。ほとんどノイローゼ状態のような感じ。
リッキーが心配で外出もしたくない。が、どうしても外出しなくてはならない場合も生じ、そうしたときは、まわりに不義理をしてでも、用がすむととんで帰った。(p78)
そして、食が細いとなればあらゆる手を使ってリッキーが食べてくれるまで頑張り、耳ダニの発見が遅れたとなっては地球の裏側まで行ってしまうのではないかというくらい落ち込みます。でも、子犬を飼ったことのある人にとっては、「わかる、この気持ち」ってなるんじゃないかな。いのちを預かるというのは、人でも犬でも、大きな責任のあることで、その責任に時に押しつぶされそうになりながらも一生懸命育てるってこと。著者の慌てようとか、溺愛ようとかにアハハと笑ってしまうと同時に、著者の犬への愛の深さにジーンとしてしまう本です。
⇨『愛犬リッキーと親バカな飼主の物語』 藤堂志津子著 講談社文庫 2001年
『救助犬エリーの物語』〜「シゴト」を求めて
この本は、そのタイトル通り、警察の救助犬として働くエリーの物語です。舞台はアメリカ。とある家庭で生まれた子犬の中に、エリーがいました。そこに一人の男性が訪ねてきて、いろいろな遊びをします。そして、エリーを選び出しました。男性の名はジェイコブ。警察官です。エリーはジェイコブと共に、訓練を重ね(といっても、途中まではエリーにとっては「遊び」)、救助犬として成長します。そして、「いなくなった人を探す」ことを仕事として、働き始めるのです。
この本は、すべてエリー、つまり犬の視点で書かれています。著者はどうしてこんなに、犬の気持ちがわかるのだろうと、驚きました。この本の中には、エリーがジェイコブ、そして次のパートナー、マイアに「喜んでもらいたい」ということを常に思いながら動いていることが、実に生き生きと描かれています。犬は、飼い主が喜ぶ顔を見るのが大好き。褒められるのが大好き。よく、僕たち犬のしつけの方法で「できなかったことを叱るのではなく、できたときたくさん褒めてあげて」ということが言われるけれど、その理由がよくわかる内容です。
さて、この本は『野良犬トビーの愛すべき転生』(同著者)の中の一部を抜き出し、子どもにもわかる内容にしたものだそうです。そう、この『野良犬トビー~』は映画にもなり、日本では『僕のワンダフル・ライフ』というタイトルで上映されました。僕も見たんだ~。そして思い出したの。確かに警察犬のシーンが出てきたことを。そちらも併せて見てみると、より面白いかもしれません。
⇨『救助犬エリーの物語』 W・ブルース・キャメロン著 西本かおる訳 小峰書店 2018年
『モモ』〜大切なのは、日常のちょっとしたこと
おーなり由子さんの描くイラストが好きです。だから『モモ』も大好きな1冊なのです。この本は、大人の絵本、といった感じかな。短い文章とあたたかいイラストで構成されています。
はじめて会った時 わたしより ちいさくて すぐに わたしより 大きくなって また わたしが 追いこした(本文中)
そう。この本に出てくる女性は、きっとおーなりさん自身。モモという犬はかつて飼ったことのある犬なのでしょう。子どものときから飼い始めたモモは、最初は子犬で小さかったのに、成長が早いからすぐに大きくなって、でも人間も負けじと成長して追い越す。だけど、犬のほうが早く年をとるから、人間より長生きはできない。そんな、ちょっと切ないけれど、でも犬と一緒にいられることがどれだけ尊いかを書いています。
あとがきに、こんな一文がありました。
愛しいのは、当たり前のように近くにあったひとつひとつ。取るに足りない日常の一瞬。命の正体は、そんなものの中にあるような気がするのです。(あとがき)
そう。僕も、地上での生活で思い出すのは、本当に日常のちょっとしたこと。でもその、何でもないような思いでが、あったかい気持ちにさせてくれるの。おーなりさんも同じことを思っていらしたんだなと嬉しくなりました。年末、ちょっと落ち着けるときに、この本を読んで、ほっこりしてくださいね。
『ボサノバ・ドッグ』〜世界中に犬がいる
動物写真家として有名な岩合光昭さん。これまでもこのコーナーでは日本の犬の写真集を紹介したことがあります。この本は、その岩合さんが撮影した世界各地の犬の写真集です。
先だってご紹介した新美敬子さんの『犬を旅する』(新美敬子写真・文 河出書房新社 2001)も世界中の犬たちを撮影した写真集だったのですが、この2冊、どちらも僕は大好きなのね。撮影する人が違うと、その写真も雰囲気ががらりと変わります。写真についてはド素人の僕でも、その違いがわかるのが面白いなあと思って。
さて、岩合さんの写真集で面白かったのが、スリランカのお坊さん(かな?)と一緒に写っている大きな大きな犬。子どもの身長だったら追い抜かしてしまうのではないかというほど。そしてグリーンランドの橇を引く犬たち。これは、前に紹介した角幡さんの『極夜行』も彷彿とさせる写真です。『極夜行』と併せて見ると、よりいいかも。
この本、本文中にはひとつだけ文章が付いています。それは、
イヌは存在を知らせたがる。(p2)
というもの。なるほど。世界中でありとあらゆる種類の動物を撮影している岩合さんだから出てきた言葉のような気もします。だって野生生物の中には何十日とねばってもその姿を現してくれない動物もいるのでしょう。そうした中で犬は、こんなにも様々な表情を見せてくれる。撮影者の喜びもどこか感じられるような1冊。ぜひぜひ。
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