【犬本紹介】『だれもが子供だったころ』~内海隆一郎の子どもの世界

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皆さんこんにちは~ 東京の読書犬、パグのぐりです。

だんだん日の出の時間が早くなってきましたね~ 我が家のNさんは5時40分起床。冬の間はだいたい真っ暗なんだけど、最近は東の空がすこーしオレンジ色になってきたって喜んでいたよ。だんだん春に近づいているのかな。

普通の子どもの日常を

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image by bullcitydogs / Flickr

今日ご紹介するのは、一般の家庭の、本当に普通の子どもたちの日常を切り取って書かれた短編小説集『だれもが子供だったころ』(内海隆一郎著 毎日新聞社 1994年)です。

著者の内海さんは、市井の人を描かせたらその右に出る人はなかなかいないのでは、と思うほど、人々の何気ない日常を上手に描写する方です。この本は、全編子どもたちが主人公。小学校に上がる前の子から、だいたい小学生くらいまでかな。男の子も女の子も出てきます。

お父さんとお母さん、きょうだいのいる子どももいれば、一人っ子の子もいて、そして、親一人、子一人の家庭も出てきます。

この中に「隣の犬」という作品があります。主人公は小学6年生の昇。昇の家のお隣さんはベルとうい犬を飼っていて、昇が物心ついたときからもうベルは庭にいました。そんなベルが老犬になり、いよいよ弱ってきている、という場面から物語は始まります。

昇は幼稚園の頃から毎日ベルに声をかけ、ときにおやつを分けてあげていました。垣根越しに、ですけど。

毎日声をかけてくれる昇に、親近感を持っていたのでしょう。ベルも昇の声がすると、必ずそちらに顔を向けて尾っぽを振っていました。

でも、時がたち、ベルは老犬になりました。昇が声をかけても近くまで行く元気がなくなってきてしまったのです。それでも、隣のおじさんは言います。

ベルは昇くんが大好きなんだね。昇くんの声が聞こえると、ぐっすり眠っていても耳を立てて、むっくり起き上がるんだよ(p58)

ある日、学校から帰ると昇は、学習塾に行くため、あわただしく準備をして出かけます。ここ数日、ベルの容態がよくないと聞いていたので、出かける前に、精いっぱいベルにエールを送ります。その声を聴いたベルは… どうなったのかは、ぜひ本書で確かめてくださいね。

丁寧な観察をもとに

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image by bullcitydogs / Flickr

この本に登場する子どもたちは皆、実に生き生きとしています。描写が丁寧で、まるで目の前にその子がいるような錯覚におちいります。そして、大人は時に身勝手だったり、ご都合主義だったりするのですが、子どもはそんなこともすべて承知の上で生きている、ということがなんとなーく伝わってきて、なんだか子どもって、すごいな、と思わされました。

内海さんはどうやって、こんなに生き生きとした子どもたちを描いたのでしょうか。そのヒントはあとがきにありました。

デパート、スーパー、ファミリーレストラン、電車、小公園など、さまざまな所で子供たちを観察した。そして気づいたことは、むかしの子供も、いまの子供もまったく変わりがないという、当たり前の事実である。(p216)

なるほど。小説家は、そのテーマによって詳細に取材をすることが多いですが、内海さんは子どもを描くにあたって、いろんな場所でいろんな子どもたちを観察したのですね。そこで、子どもは今も昔も変わっていない、ということに気づくのです。

むしろ、子供は変わったと思う大人のほうが問題ではないか。もし変わったとすれば、変えた張本人は大人である。大人は、利己主義で拝金主義、無節操で無感動、移り気で恥知らず、そのうえ身勝手ときている。(p217)

そうですねえ…確かにそうです。なるほど、この感覚は、小さな物語の中にも十分に反映されています。身勝手な大人がたくさん出てきますから。

人の温もりを書く

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image by bullcitydogs / Flickr

僕は、人間の子どもって大好き。時々尾っぽやひげを引っ張ったり、体に馬乗りになろうとしたりと、無茶をすることもあるけれど、「ともだちになろうよ」というオーラをびんびんに出して近づいてきてくれる子たちは、本当に素敵。

そして、友だちになると、一緒に遊んでくれる。昇くんのように、いつも気にかけて、声をかけてくれる。本当に優しい存在です。

僕は思います。そういう子どもをこれだけのびのびと、自由に描いた内海さんご自身も、きっとどこかに子どもの心を持ち続けている、素敵な人なのではないか、と。

実はNさんは編集者時代に、内海さんの担当になったことがあったそうです。実際にどんな方だったかを聞いてみると、「とにかく優しい方。おおらかで、出会った人との絆を大事にする人」だそうです。

やっぱり!

まさにそういう人が書いたのだろうな、という文章です。ぜひ本書でみなさんも、その温かさに接してみてくださいね。


だれもが子供だったころ
内海 隆一郎
毎日新聞
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Featured image credit bullcitydogs / Flickr

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