皆さーん、お空の上からこんにちは! 読書犬のぐりです。日本の梅雨は高温多湿。体調も崩しやすい時季だから、体調に気を付けてくださいね。僕も地上に住んでいた時には、湿度が高いの、苦手でした。
こちらに来てから、いろんな国で生活していたワンちゃんに会えて、それぞれの故郷の話を聞くんだ。たとえばアメリカのシアトルは、夏は30度超すこともあるけれど、湿度が低いからカラっとしていて、それほど暑さがきつくないんだって。うらやましー。あ、でも、天の上のこちらも、梅雨のじめじめはないから、僕も快適に過ごしています。
きっかけはイギリスでの職場体験
今日ご紹介するのは、世界各国の、犬をはじめとした動物たちが暮らす、シェルターを紹介した本『世界のアニマルシェルターは、犬や猫を生かす場所だった。』(本庄萌著 ダイヤモンド社 2017年)です。
著者の本庄さんは現在、動物法学者として大学院で研究を続けている方。動物法学者って、耳慣れないかもしれませんが(僕も初めて聞いた)、動物全体の保護に関する研究を続けているんだって。
本庄さんは、親御さんの転勤でイギリスに住んでいたとき、学校のカリキュラムに組み込まれていた職場体験で、シェルターに行ったそうです。日本で保健所というと、引き取り手のいなかった動物たちを殺処分するおそろしいイメージしかなかったのですが、イギリスのシェルターはそうではなく、保護された動物たちがゆったりと過ごし、しつけもされ、そして何より明るい雰囲気のその場所には、新しい家族を迎えたいと考える人たちが次々と訪れていました。その様子に感動したことが、動物保護について考えるきっかけになったそうです。
その後、本庄さんは他の国のシェルターにも興味をもち、アメリカ、イギリス、ドイツ、ロシア、スペイン、ケニア、香港、そして日本のシェルターを訪ねました。この本はこうした国々のシェルターの様子を分かりやすく伝えてくれます。
家畜も、象も
アメリカのシェルターには、犬や猫などの愛玩動物だけではなく、鶏や豚など、家畜として飼われていて、放棄された動物たちも保護されていました。ストレスフリーな環境で生活している豚たちの表情が、「笑っている」そうで、素晴らしいなと思った。
当たり前のことだけれど、僕たち犬と同じように、他の動物たちにも命があるわけで、アメリカのシェルターは、どの動物の命も大事にしていることが伝わってきました。
ドイツのシェルターで著者が出会った少年とのストーリーが印象的です。
「どうしてシェルターの犬を迎えようと思ったの?」。
「インターネットでここのことを知ったから」と答えて、その先は言わなくてもわかるでしょ? という雰囲気。人が犬を飼いたいと考えていて、捨てられて暖かい家族と生きたい犬が存在する。そしたら自然とシェルターでもらうことになる、ということだ。そんなの当たり前だよ、という少年の態度が清々しい。心で飼ってるなぁ、と感心してしまう。(p.89)
犬が飼いたければ、まずペットショップへ行き、子犬を買う、というのが当たり前の日本では、まだ保護犬を飼う、ということはそれほど当たり前になっていないよね。シェルターで新しい家族を向かることが当たり前の社会にするためには、飼おうとする側の意識と共に、シェルター側も出会いの場を調える工夫が必要であることが、ドイツの事例からよくわかります。
あるシェルターの猫舎はガラス張り。もちろんキャットタワーにタオルがかけられていて、人に見られたくない猫は隠れることもできます。このシェルターにいる犬猫は、平均2~3週間で新しい家族に出会えているそうです。いいな。
他にも。犬たちが放し飼いで生き生きと暮らしているシェルターのあるスペイン、象牙について深く考えさせられるケニアなど、海外の事例は、今まで知らなかったことばかりで驚くことの連続でした。
そして、日本
著者は、日本のシェルターも取材しています。高校生の頃、イギリスのシェルターを見学する際には、日本の保健所は、犬猫を殺処分する場所というイメージだったそうですが、今回取材した場所では、そうしないための数々の試みが行われていました。
特に熊本での、「間口を狭く」という試みはすごいな、と思った。つまり、日本のシェルターでは、もう面倒をみられなくなったからと、安易に動物を連れて来る飼い主が後を絶たないそうで、熊本ではそうした飼い主たちに家族を手放さないで、と「説得」を続けたんだそう。行政の仕事なんだから引き取れ、と脅されたこともあったそうですが、それでもあきらめずに説得を続けてきたそうです。そして、間口を狭くすると同時に、出口を広く、というポリシーを掲げており、希望者はいつでも見学できるようにしています。
そもそも日本の保健所は当初、狂犬病の撲滅のために野良犬を処分する目的で建てられました。ですから、その構造も犬猫を保護する仕組みも、処分ありきだったのですが、今はもうほとんど狂犬病は発生していませんし、野良犬も減りました。ですから、本来なら保健所はなくてもいい場所のはず。でも、心無い飼い主のせいで、持ち込まれる動物はゼロにならないのです。
“ドイツで訪れたシェルターのスタッフの言葉が頭をよぎります。「自分の動物をしっかり最期までみんなが世話する社会であればアニマルシェルターは必要ない」。”(p.269)
この本を読むと、世界中で、命ある動物みんなが尊厳ある暮らしをし、最期まで大事にされて生きられるように、と願わずにはいられなくなります。そして、自分もできることをちゃんとしなきゃと思わされるって、地上のNさんが言っていました。そういう人、多いんじゃないかなあ。
この記事を読んでくださっているのは、きっと犬が好きな方だと思います。もうすでに、シェルターについても興味を持っている方もいると思いますが、ぜひ世界の現状を知るために、読んでみてほしい一冊です。
ダイヤモンド社
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Featured image credit bullcitydogs / Flickr