こんにちは!天国在住読書犬・パグのぐりです。
今年の3月末に、病気で急にこちらに住むことになったのですが、相変わらず楽しく本を読んでいます。皆さんはどうですか? 4月から新生活を始めて2カ月目。通勤通学で本を読んでいる方も多いのかなあ。ぜひぜひ、犬本もレパートリーに入れてくださいね。
「ぼく」と三本足の犬
さてさて、ある雑誌を読んでいたら、画家のいせひでこさんの記事が出ていて、そこで初めて『あの路』(山本けんぞう・文 いせひでこ・絵 平凡社 2009年)という本を知りました。表紙が紹介されていて、その絵があまりに素敵だったから、読んでみたよ。
ある町のある路に、三本足の犬がいます。どこから来たのか、どうして三本足なのか、なぜこの場所に住んでいるのか、誰にもわかりません。でもその犬は、まるでずっと昔からそこにいたかのように、路に来る人を歓迎していました。
主人公の「ぼく」は、ママと二人暮らしでしたが、ママが亡くなり一人ぼっちになってしまいます。そしておばさんの家に引き取られるのです。
いとこと学校へ通う途中に、「ぼく」はこの路で三本足と出会います。そして、1人と1匹は、仲良く遊ぶようになるのです。
「ぼく」は次第に学校に通わなくなりました。友だちは、三本足。二人でじゃれ合いながら、毎日たくさんの時間を過ごしました。
でもある日、三本足が見あたらなくなって…。
その後どうなったのかは、本書で確認してくださいね。
大人への絵本
この本、形は子ども向けの絵本と同じなのですが、文章の内容が深く、どちらかというと大人向けかな? と思いました。漢字すべてに仮名がふってあるわけでもないのです。頑張れば小学校高学年以上くらいからだったら読めるかもしれません。
それぞれのページの表現方法も凝っています。たとえば、「ぼく」の学校からの帰り道のシーン。トボトボと歩く「ぼく」の姿を見つめている三本足。ページをめくると、文章はないのですが、「ぼく」がどんな立場に立たされているのかが、一目でわかるような絵が描かれています。この見開き2ページを見るだけで、読者は「ぼく」の心がどんな状態なのかが、よくわかるのです。
また、本の最後も印象的です。子どもだった「ぼく」は、成長し、青年になったような描かれ方をしています。そして、つぶやくのです。
大丈夫さ。
目をつむれば、あの路がある。(p34)
人の心を支えるものとは何なのか、を考えさせられる言葉です。
絵が語るもの
この本は、いせひでこさんの絵が、そのストーリーの良さをより一層引き立てています。文章は、もしかしたら大人向けなのかもしれませんが、たとえ文章が読めない子どもがこの本を手に取ったとしても、絵を見るだけで、なんとなく内容がわかる作りになっています。それもすごいことですよね。
特に素晴らしいなと僕が思ったのは、38、39ページの雪の絵。抽象画のようでもあり、雪の結晶のようでもあり… 青と白だけで銀世界を表しているのですが、こんなに抽象的なのに、どうして雪ってわかるんだろうって、不思議になります。
そして、どの絵にも共通しているのが、「にじみ」です。水彩の絵の具が、ところどころにじんでいるのですが、そのにじみが、僕にはとても温かく感じました。子ども向けの絵本は、わりとはっきりとした線画が多いのですが、こういうにじみのある絵も優しくてとてもいいなあと思いました。
そして、三本足という名の犬の絵がまたとても魅力的なのです。本当にそこを走っているように見える。特に、学校を休むようになった「ぼく」が三本足と遊ぶ場面。11ページの絵が僕は大好きです。三本足がうれしそうに「ぼく」と一緒に走っている絵なのですが、楽しそうな子どもの声と、犬の呼吸が聴こえてきそうです。
一度読み終わっても、つい、もう一度最初のページからめくりたくなる。そんな魅力のある本です。どうぞ手に取ってみてくださいね。
Featured image credit brando.n / Flickr