皆さんこんにちは! 天国在住1年になる、読書犬パグのぐりです。
春が来ている、気がする。地上にいるNさんから聞いたんだけど、3月に入ってから、気温が上がったり下がったりし始めたんでしょう? それって、春のきざしだよね。楽しみだね。この記事がアップされる頃にはお花見も終わっているのかな?
異国の風景も存分に楽しめる本
さて、今回ご紹介するのは、シャンソン歌手の石井好子さんが書かれた『私の小さなたからもの』(石井好子著 河出文庫 2015年)です。石井好子さん、お名前は知っていたし、シャンソン歌手だということも知っていたけれど、どんな方だったのかは知りませんでした。でもこの本を読んで、僕は一気に石井さんのファンになったよ。
この本は、そのタイトル通り、石井さんご自身がたからものと思っていらっしゃる、ものやこと、人を紹介しています。石井さんは1922年東京生まれ。東京音楽大学(現:東京芸術大学)を経て、戦後米国へ留学。その後フランスへ渡り、パリでシャンソン歌手としてデビューされました。だから、米国時代に住んだサンフランシスコや、パリの風景、食べ物、建物などがこの本にはたくさん登場します。
犬も私のたからもの
そして犬も。石井さんは幼いころに犬に噛まれて狂犬病予防の注射に通った経験から、犬はあまり好きでなかったそう。家には常に犬が飼われていたそうなのですが、それほど愛情は感じなかったんだって。
大人になってから、お姉さんが同居犬とうまくいかないということで連れてきたトイプードルを飼うことになって、最初はあまり乗り気でなかったものの、あるきっかけで情がうつり、それからは、
「チロちゃんチロちゃん」「チロちゃま」「ベビーちゃん」と今や十三歳になるトイプードルをかき抱いたりするのだから母や姉は笑う。(p191)
というところまで、そのトイプーちゃんをかわいがるようになったそう。よかったね、チロちゃん。石井さんのご両親も犬好きで、プードルを飼われており、親子で自分のプードルがどれほどかしこく、かわいいかを自慢しあう様子の描写もほほえましいです。
次に飼われたヨークシャーテリアのテムも、ヨークシャーにしてはずいぶん大柄に育ったそうですが、石井さんに愛情をもって育てられた様子が伝わります、
海外文化を知る
犬の他にも、この本の中にはいろいろ素敵なものが紹介されています。僕が印象的だったのが、アメリカ留学時代のクリスマスが書かれているところでした。日本のクリスマスは、イベント色が強くて、カップルはレストランへ、家庭ではチキンとケーキを食べてプレゼントを渡し合ってという感じだけれど、クリスチャンの多い国のクリスマスは違うみたい。
留学時代には、保証人の大学教授夫妻が自宅に招いてくれたそうです。家庭でクリスマスを祝うのがメジャーな国で、留学生は孤独を感じ、ホームシックになる。それを察して招いてくれる人たちの温かさ。
食事にしたって、焼肉とサラダだけ。食後はアイスクリームが出るくらいである。善意にあふれた優しいもてなしに、例えご馳走は出なくとも、ほろ酔いにならなくとも、楽しい家庭的なクリスマスを過して、ホームシックの気持が消えたものだ。(p57-58)
こういうクリスマスも素敵だなって思いました。
フランス人の描写も面白いのだけれど、中でも「倹約のエスプリ」の章は僕をうならせたよ。フランス人はものすごい倹約家だそうで、それがどのくらいかというと…
旧式なアパートの廊下の電気は、スイッチを押すとつくが三十秒位で消える自動式である。エレベーターも昇りはOKだが、下りは歩けと言う。(中略)キャフェに入って便所へゆく。どこをさがしてもスイッチがない。あきらめて鍵をしめたとたんに明かりがつく。鍵をあけると又くらやまいという倹約の仕方である。無駄を出したくないという心がけには、全く舌をまく。(p131)
すごいなあ。つけっぱなしのものを消す、というのではなく、そもそもの仕組みとして長い間電気がつかないような仕組みを作り出していることに驚きました。でもこれだったら、誰もが倹約できそうだよね。うっかりがないから。劇や映画を見るからとテレビがあまり発達していないことや、何を買うにも、買う時は高くても長く大事に使えるものを選ぶという。石井さんはそうでない文化のことも許容しているけれど、でもフランスに長く暮らしたことがあるからか、ご自身がお家で大事にしているものたちも長く丁寧に磨き込まれたものが多いと思いました。
外国文化を紹介する本はたくさんあるけれど、石井さんの目や舌を通って書かれた文章は、その場所に行ったような気分になったり、食べているような錯覚に陥るよ。もちろんワンちゃんへの愛情も溢れています。ぜひぜひ読んでみてくださいね。
河出書房新社
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Featured image creditThe Poodle Gang/ unsplash