【犬本紹介】江藤夫妻の犬への愛情『妻と私と三匹の犬たち』~コッカー・スパニエルに魅せられて~

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皆さんこんにちは! 寒いですね~ブルブル。寒さが苦手な読書犬・パグのぐりです。

僕、東京の西のほうに住んでいるんだけれども、山沿いだからか寒いんです。この前も近所の畑に霜が降りていたよ。きれいだけれど、見るだけで寒さが倍増した…。

評論家も犬好きだった

妻と私と三匹の犬たち (河出文庫)

こういう寒い日は、家の中で日向ぼっこしながら本を読むに限ります。今回はほんわかした気持ちになれるエッセイをご紹介しますね。

妻と私と三匹の犬たち』(江藤淳 河出文庫 1999年)は、作家・評論家として有名な、江藤淳さんが、ご自分が24年にわたって飼っていた3匹のコッカー・スパニエルのことを書いた文章をまとめた一冊です。

江藤淳さんといえば、日本を代表する文学評論家。僕の中では、難しい文章を書く人、というイメージが強くて、その著作に触れることはこれまでありませんでした。でも、犬に関する本を探している時にこの作品に出合って、読んでみたのね。そしたら、すごーく優しい人、そしてユーモアにあふれた人だったことを知りました。だって、こんな文があるんですよ。

はたから見れば、犬と大真面目で話したり、犬を抱いて寝たりしている夫婦などは、酔狂を通りこしてほんものの狂人に近いであろうが、なんといわれてもこればかりはどうしようもない。散歩につれて出て、「わあ、可愛い」と誉められると自然に頬がゆるんで来るし、「変な犬」とやられると思わずにらみつけたくなる。(p58)

ね、このくだりを読んで、僕の中での江藤さんは「難しい文章を書く学者・評論家」から、「犬好きなおじさん」(失礼!)に一気に変換されたのでした。

コッカー・スパニエルに魅せられて

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image by Asif A. Ali / Flickr

江藤夫妻にはお子さんはいなくて、ある時、江藤さんの小学校時代の同級生の妹さんから生後2か月のコッカー・スパニエルを譲り受けます。黒い女の子で、ダーキイと名づけ、それはそれは可愛がるのです。江藤さんは自分と犬の関係を次のように書いています。

だいいち、私には、もともと「犬を飼う」という意識がまるでないのだ。「犬と一緒に暮らす」とでもいったほうが、よほど実情に即しているのである。(p93)

ダーキイはまさに家族の一員として、江藤家で暮らしました。10年でダーキイがその命を閉じた時、もう二度と犬は飼わないと思った江藤夫妻でしたが、黒のメスのコッカー・スパニエルのすばらしさを忘れられず、アニイを迎えます。

アニイはダーキイとはまた違った性格の持ち主だったようで、

ダーキイは和服の似合う夢二画の大正美人という風情だったが、アニイのほうはミニでゴーゴーを踊る現代ッ子風である。”(p87)

なんだって。ちょっと笑えるよね。同じ犬種でも、同じ性別でも、やっぱりみんな個性があってそれぞれなんだ、と思わせてくれる一文です。

アニイが江藤家にやってくるという日、なんと江藤さんはあの遠藤周作さんと仕事で対談をしていたそうです。そして、いいバーがあるからと誘ってきた遠藤さんに「実は犬がくるから」と断ります。遠藤さんは「けったいなやっちゃな、まあ、そこがお前のいいとこや」と言ったそう。きっと遠藤さんも犬好きだから(先月の『好奇心は永遠なり』をぜひ読んでみてくださいね!)、こう言われたのかな? ああ~犬本よんでいるとこういうつながりもあるから、やめられないんだよね。

アニイは9年ほどで天国へ。その後、夫妻はまた黒でメスのコッカー・スパニエルを探しましたが、日本にはほとんどいなくなってしまったとかで(当時)、出会うことができませんでした。でも、パティという、白と金茶のブチのコッカー・スパニエルと出会い、家族として迎えます。これで3代目。パティは、江藤氏がアメリカの研究所勤務になった際、一緒に渡米し、アメリカでも暮らしたことのある犬となりました。江藤氏いわく、現地で預けていた場所で、英語でしつけをされたとかで、すっかり「帰国子女」になったんだって~。おもしろいいね。なんでも、日本語、犬語、英語の3つの言語を理解するそうなので、トリリンガル。すごいなあ。

妻の生き生きとした挿絵

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image by Kurt / Flickr

3匹の犬について、楽しく優しく書かれた文章には、素晴らしい挿絵がついています。これは、江藤さんの妻・慶子さんが描かれた犬たちです。単純な線画なんだけど、これが雰囲気があっていいのです。この本はもともと、『三匹の犬たち』という題名で出版されたそうなのですが、たくさんのカットは慶子さんが描かれたものであることから、改題して再出版されたそうなのです。

この再出版された版には、姪の府川紀子さんが夫妻について書いた文章も最後に収録されています。実は、江藤さんは、慶子夫人をガンで亡くし、その約1年後に自死しているのです。そのことについて、府川さんの視点から書かれている文章です。本文中に垣間見られる、仲睦まじい夫妻を知ると、確かに、そうなのかもしれない、という内容です。どうぞ、最後まで読んでみてくださいね。


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Featured image credit Jamie Montgomery / Flickr

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