【犬本紹介】『シティ・マラソンズ』〜パリの街で、ゴールデン・レトリバーと

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皆さんこんにちは! 天国在住の読書犬パグ・ぐりです。今回もよろしくお付き合いくださいね~。

さて、地上もだいぶ秋らしくなってきたのかな? Nさんが「ぐり~ やっと涼しくなってきたよ。空気が乾燥してきてうれしい!」って言ってた。夏は湿度が高いのがきついものね。秋はお散歩にもってこいの季節。どうぞ皆さんも、愛犬さんと一緒に、散歩を楽しんでくださいね。

「走る」がテーマの小説

シティ・マラソンズ

さて今月は「走る」をテーマに書かれた作品を紹介します。『シティ・マラソンズ』(三浦しをん、あさのあつこ、近藤史恵著 文藝春秋 2010年)は、株式会社アシックスが2008~10年に行った「マラソン三都物語~42.195㎞先の私に会いに行く~」というキャンペーンのために書き下ろされた、3作品が収録された本です。

実は僕、以前に犬DVDで、『風が強く吹いている』を紹介したけれど、その原作の小説を書いたのも、三浦しをんさんです。この作品を読んでから三浦さんのファンでね。今回のこの本に三浦さんの名前を見つけて読んでみようと思ったの。そしたら、近藤史恵さんの作品に、素敵な犬が登場していたのです! 偶然に出会えた感じで嬉しかったなあ。だから今月はこの近藤さんの作品「金色の風」をご紹介しますね。

パリに来たのに浮かない顔?

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image by sebastien panouille / Flickr

主人公の夕は、23歳の女性。語学留学のためにフランスはパリに来たところから物語は始まります。パリといえば花の都。さぞかしウキウキしているのではと思いきや、夕はどうも浮かない様子です。「なんでだろう?」と思いながら僕は読み進めました。

そうするとだんだんその理由が分かってくるの。夕には5歳年下の妹がいるのですが、その妹の朝美は今、ドイツにバレエ留学中。この姉妹の母親はバレエ教室で教えていて、夕も朝美も小さいころから当たり前のように踊っていました。でも、夕はある頃から気が付くのです。自分にはバレエの才能がないことに。

それは、妹の朝美が小さい頃から非凡な才能を見せ、たくさんのバレエの賞を受賞していたこととも関係しています。そして夕は、朝美がバレエ留学をした後に、母親にバレエを辞めると申し出ました。母親もそれを止めなかった。そして、自分でお金をためて、フランスに半年、語学留学に来たのでした。でも、本当に語学留学がしたくて来たのか、と聞かれれば、なんとも答えようがない夕。

自分は本当はこんなところにきたくはなかったのかもしれない。ただ、日本にいることがいやになっただけで、フランス語を勉強したいというのも単なる口実だったのかもしれない(p145)

と、夕は思います。だから、パリに着いた後、最初の週末に街を観光し、エッフェル塔を見て、ルーブル美術館を訪れても、全然ウキウキしなかったんだって。なんか悲しい幕開けの物語…。

素敵な友だちとの出会い

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image by Franco Vannini / Flickr

でもね、そんな夕が、家の近所である女性と出会ったことでちょっとずつ変わっていくのです。その女性はアンナ。彼女は愛犬ベガと一緒に毎日ランニングをしていました。ベガはアンナと同じ金色の毛をなびかせて走る、美しいゴールデン・レトリバーです。

犬が好きな夕。それを察知したのでしょうか。ベガは初対面のときから夕に親しく近寄ってきました。表情豊かに、可愛い仕草で。夕はすっかりベガが好きになり、そしてとても聞き取りやすいフランス語でしゃべってくれるアンナにも好感を持ちました。

それからたびたび彼女たち(あ、ベガは雌です)に出会うようになった夕は、自分もランニングをしてみようかと思い立ちます。そして走り始めるのです。その後、あるきっかけでランニングシューズも買ったところ、語学学校の友人から「だったらパリマラソンに出てみれば?」と言われます。そして、考えました。

パリマラソンに出てみよう。一年前までは、毎日、何時間も汗だくになってレッスンをしたのだ。それを思えば、42.195キロも走り抜けられる気がした。それに、まだ五ヶ月もあるから、充分練習はできる。

フランス語のほかに、もうひとつ、なにかを記憶に残したかった。(p186)

と。それで彼女は新しい靴で練習を開始します。アンナとベガとも時々会って、二人は夕の家でお茶を飲むくらいの友人になりました。ですが、ある時から彼女たちの姿を見かけなくなり、夕は少し気になっていました。

そんなある日、突然アンナが夕の家を訪ねてきたのです。そこで聞かされた事実に夕はぼう然とします。それはいったいどんなことだったか? ぜひ本書で確かめてみてください。

そして、物語は夕のパリマラソン出場の様子で幕を閉じます。

ベガが笑った気がした。ふいに、自分がベガになったような錯覚に陥る。

金色の毛を揺らして、前を走るアンナを追って、弾むように走る。

四つの足での駆け足は、きっと二本の足よりもリズミカルだ。それを想像すると、毛穴のすべてが幸福で満たされる気がした。

わたしも金色の風になる。(p210)

美しい描写だよね。僕、この部分大好き。

近藤さんはバレエをしていたのかな。マラソンも走ったのかな。そう思わせるくらい、物語に出てくるそれぞれの描写は真に迫るものがありました。特に、夕とアンナがバレエについて語り合う部分は圧巻です。

走るのにもいい季節になってきましたから、ぜひぜひ本書めくってみてください。あ、ちなみに、三浦さんとあさのさんの作品、犬は出てこないけれど、こちらもすごく面白いですから、あわせてお楽しみくださいね!


シティ・マラソンズ
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Featured image credit Franco Vannini / Flickr

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