人間の愚かさと犬の強さと~『動物記』

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皆さんこんにちは~! 読書犬のパグのぐりです。

7月は日本全国で記録的な暑さだったみたいで、Nさんが新聞を読みながら「こんなに急に暑くなって、ヒトの体がそれに順応する準備がまだできてないから、亡くなる人も出てくるんだよ」とぼそぼそつぶやいていました。生物は生き延びるために、その環境に順応しようとして進化してきたのだと思うけれど、確かにこの暑さにはなかなか体が慣れないですよね。

地上のパグちゃんたちは一日中外に出ないか、まだアスファルトが熱されていない早朝(それも日の出前?!)に散歩するか、のどちらかの子が多そう。僕たち犬も、あまりに暑いと命にかかわるもんね。8月に入って少し落ち着いてきたのかもですが、引き続き皆さま、暑さには警戒を!

犬の生態がよくわかる

動物記

さてさて、動物の生態って少し書いたけれど、今日ご紹介する本は、僕たち犬の生態を知り尽くした作者による作品です。『動物記』(新堂冬樹著 角川書店 2004年)は、動物小説3編が収められています。

新堂さんて、よく目にする名前だけれど、他にどんな作品を書いていたんだっけと思ったら、金融系のシリアスな小説から純愛ものまで、幅広く書かれているようで。僕はこの『動物記』が初めての新堂作品でしたが、読ませますよ。かなり。

『動物記』の中の「兄弟犬ミカエルとシーザー」は、ジャーマン・シェパードの兄弟犬の物語です。心無い飼い主によって子犬時代にとある高原に捨てられた2匹。最初は無邪気に遊んでいますが、実はその土地はほかにも捨てられた犬が野犬となって縄張り争いをしている土地で、彼らも危険にさらされます。

その高原でペンションを経営している五郎という男性は、地域の住民と一緒に野犬撲滅会を結成し、日常的にパトロールをしていました。その活動の中でこのシェパードの兄弟を見つけ、自分のところで引き取ることにします。ミカエルとシーザーと名付けて、育て始めます。

人間の身勝手な行動が生む悲劇

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image by Maja Dumat / Flickr

これで子犬たちは他の野犬からの攻撃から逃れられると思ったのですが、物語はそう順調には進みません。あるときペンションの宿泊客であった中年夫婦がシェパードを自分たちで引き取りたい、と言い始めました。一度捨てられた経験をしている犬たちです。二度とつらい思いはさせたくないと、五郎は最初、その申し出を断りました。

しかし、夫婦の熱心な願い出に、とうとう折れ、どちらか一匹をゆずることにしたのです。兄弟犬といっても、それぞれにはっきりした個性がありました。

二頭とも、物覚えがよく、運動能力に恵まれ、シェパードの持つ優れた資質を余すところなく分け合っており甲乙つけ難かった。

 五郎が決意する判断材料となったのは、人間への従順さだった。

 素直で扱いやすいミカエルに比べ、シーザーは頑固で反抗的な一面があった。

 もっとも、それは欠点というよりも、還元すれば、独立心旺盛というシーザーの長所の一部でもあった。(p253-254)

五郎は野犬パトロールの際に同行させる犬としては、シーザーのほうが向いているとも考えました。しかし最終的には相性の問題で、ミカエルを手元に残し、シーザーを里子に出すことにしたのです。この決断が、物語後半で思わぬ悲劇を生むことになるとは、誰も想像できなかったのですが…。

ペンションのあった高原から、都会へ引っ越したシーザー。その後の彼の運命はどうなったのでしょうか。幸せにこの夫婦と暮らせたのでしょうか? それとも…。このあたりは本書で確かめてくださいね。

さて、様々な伏線を経て、ミカエルとシーザーは再会を果たします。しかしそれは、幸福な再会とはなりませんでした。彼らはなぜ再会できたのか。そして2匹はその後どうなったのでしょうか。

きっかけは『シートン動物記』

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image by Tim Frost / unsplash

動物を飼うということは、責任を伴う。それはいろいろな場所でずっと言われてきていることであり、僕たち犬を飼っている人たちも心に深く留めてくれていることはよくわかっています。でも時々、その責任を放棄してしまう人がいる。そうして山奥に捨てられた犬たちはどうなるのか。この本はフィクションでありながら、現実にも十分起こりうることなのではないか、と思わせるほどのリアリティをもって書かれています。

かなりの種類の犬が登場しますが、それぞれの犬種がどのような特徴をもち、その特徴は犬の行動にどう表れるのかをはじめ、犬それ自体の生態、つまりもともとは群れで動く生き物であること、群れの中での順位付けなど、かなり細かく描写がされていて驚きました。

これは、そうとうに著者が動物好きな証拠です。プロフィールを見ると、こんなことが書いてありましたよ。

7歳の頃『シートン動物記』(講談社青い鳥文庫)と出会い、特に「ギザ耳うさぎ」「おおかみ王ロボ」に大きな感銘を受けた。その後、映画『南極物語』『野生のエルザ』シリーズなど、少年時代の多くを動物ものに親しみ、実際にヤマネを飼育するなど根っからの動物好きである。(本書著者プロフィール部分より)

なるほど。子ども時代の経験というのは、人の中に大きく残るのですね。この『動物記』はそうした著者の初めての動物小説だそうです。人の闇の部分も描きながら、犬が生きる様を実に美しく、力強く描写しています。ぜひぜひ、読んでみてくださいね。


動物記
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Featured image creditYuki Dog/ unsplash

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