一匹の犬をめぐる、僕たちの夏~『ファミリーツリー』

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皆さんこんにちは! 天国在住の読書犬、パグのぐりです。今日、地上ではずいぶんと冷たい雨が降っているよ。春から初夏になる季節。

暖かい日が増えてきたものの、地上ではまだこうして気温が下がる日もあるみたいだね。Nさんの周りでは風邪をひく人も多いみたい。皆さんお気を付けくださいね。犬仲間のみんなも、体調気を付けてね!

装丁も素敵

ファミリーツリー

さて今日は、あの、小川糸さんの作品をご紹介します。『ファミリーツリー』(小川糸著 ポプラ社 2009年)は、ある男の子を主人公に、彼の周りの人間たちとの交流、そして信州の大自然を美しく描いた傑作です。

僕ね、この本、まず装丁が好き。表紙画がとっても素敵なのです。たぶん信州の山々を描いているのだと思うのですが、実際に僕、地上にいたときにこの地方に遊びに行ったことがあるからわかるんだけど、さわやかな空気と、雄大な山々がある、すごく素敵な場所なの。この表紙はまさにその雰囲気を醸し出していて、素晴らしいです。

もちろん内容も、読ませますよ。小川さんの作品はこのコーナーでこれまでもいくつかご紹介してきましたが、どれも人間のありのままを丁寧になぞっていく感じで、読みやすい。この本の主人公はリュウ。リュウの一人語りの形式で物語は進みます。書き出しが面白いよ。

リリーは、空とおしゃべりするのが大好きな女の子だった。(p2)

そう。このリリーという女の子がこの小説の中では大きな存在感をもって描かれます。リュウの親戚(リュウの父親とリリーがいとこ同士)なんだけれども、どこか不思議な感じのする子でね。リュウは3歳の時に初めてリリーと出会い、その後毎夏リュウが住む田舎で彼女と一緒に過ごします。リュウは1985年の4月生まれ。リリーは同年3月生まれ。ということで、たいして間があかずに生まれているのですが、学年はリリーのほうがひとつ上。リュウには蔦子という年子の姉がいるのですが、蔦子とリリーは同級生ということになります。子ども時代、年の近い3人はいつもつるんで自然の中でおおいに遊びました。

捨て犬「海」

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image by nejcbole / Flickr

そんなある日、3人はひょんなことから一匹の子犬と出会います。海と名付けてリュウが飼い始めました。リリーは東京在住なので海が遠くはないけれど、リュウのいる長野県には海がありません。海を見てみたい、いつかこの犬と海に行きたい、そんなあこがれも含めて付けた名前です。海を飼うことは、リュウの両親には承諾してもらえたのですが、一つ難関がありました。というのも、リュウ一家は、リュウのおばあちゃんとおじさんが経営している旅館に間借りしていたからです。おばあちゃんの菊さんが了解してくれないと犬は飼えない。でもその壁も、なんとか乗り越え、晴れて海はリュウたちの家族となりました。

海は賢い犬で、リュウたちの言うことをほとんど理解しているようでした。そして、本当によく、リュウと心が通じ合っていたのです。

見つめ合っていれば、海の心がわかる気がした。海の瞳には、すべての感情が表れていた。そこには、少しの曇りも汚れもなく、僕にちょっとでも邪な心があると、それをありのままに映し出す鏡のように思えた。(p67)

僕たち動物は、「今、ここ」を生きる生き物。だけど人間は過去や未来についてもすごく考えるから、困ったことや悩みや、いろんな感情が心の中に同居しているんだと思う。そういう心の中が、海にもまるまる通じているような感じが、リュウはしたのかもしれないね。

恋人、なのか?

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image by nejcbole / Flickr

お互い、とても大切な家族として暮らしていたリュウと海。しかし、ある出来事からその絆が引き裂かれます。

その事件後から、いろいろな歯車がちょっとずつ狂いはじめるのです。リュウも成長し、進路を考える時期にさしかかり、家族との関係に悩み始める。そしておじさんと菊さんと一緒に暮らしながら、家族とは離れて学校に通うことを選択します。

リリーとの関係にもちょっとずつ変化が出てきます。恋心、でしょう。幼いころは素直にじゃれあっていた二人ですが、リュウはだんだんとリリーに対して自分が特別な感情を持っていることを、認めざるを得なくなるのです。

しかし、そんなリリーにも実は、家族との間につらい出来事がありました。リリーにはきょうだいがいるのですが、なぜか毎夏長野に遊びにくるのはリリーだけでした。それがどうしてかは、物語後半で明かされていきます。

こうして、登場人物一人ひとりの背景が徐々に明らかになりながら、それでも物語は長野を舞台に進んでいきます。最後まで飽きさせない。常にどこかに「これからどうなっちゃうんだろう」と読者に思わせる魅力をもったお話です。小さな子どもが学校時代を経て成長し、大人になっていく過程を、みずみずしく描いた本。ぜひご一読くださいませ。


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Featured image creditnejcbole/ Flickr

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