皆さんこんにちは! 東京の読書犬、パグのぐりです。
寒い日が続いていますね。なんだか、乾燥しているからか、くしゃみが・・・(ブシュッッ!!)。「うぎゃー!ぐりの鼻水がー!」って、Nさんがのけぞっています(笑)。生理現象だから仕方ないでしょ。巷ではインフルエンザが盛大に流行っているようです。どうぞ皆さまお気を付け下さい。
主人公は狛犬!?
さて今日は、めずらしい犬が主役の小説をご紹介します。『狛犬ジョンの軌跡』(垣根涼介著 光文社文庫 2015年)です。タイトルでバレてしまうかな?そうなんです、めずらしい犬って、あの神社などの入り口できりっとお座りをしている、狛犬なんです。
主人公は太刀川要というフリーの建築設計士。独身男性です。彼は車が趣味で、ある夜ドライブに出かけた時、大きな犬に遭遇します。それもひどい傷を負っている…。見つけてしまったからにはなんとかしなければと、動物病院を探し回り、なんとか診てくれる獣医を見つけて治療を頼みます。その後、いろいろあって、飼い主が見つかるまでと、この大きな犬は太刀川の家に住むことになるのです。
さて、同居を始めたこの犬には不思議な点がいくつかありました。まず犬種がわからない。ロットワイラーか、レオンベルガーか? はたまたそのミックスか? と、獣医師は言いますが、特定はできないのです。また、「犬臭さ」がない。そして何より、ひどい傷を負っていたのに、その傷の治り方がものすごく早い。いったいこの犬は何者? 太刀川は不思議に思いつつも、同居を続け、徐々に情も移ってき、ジョンと名づけて世話をしていました。
物語は中盤から、このジョンが負っていた傷の理由に太刀川がせまります。そこには驚くべき事実が隠されていました。が、ここでネタバレさせるわけにはいきませんので、本をめくってみてください。
語り手は一人と一匹
物語の構成は、主人公の太刀川と、犬のジョンがそれぞれの視点で交互に語る形になっています。犬の視点で語られる部分はなんとなく、どこか哲学的で、不思議な雰囲気。最初から、時間の流れが壮大なのだろうな、ということだけは感じ取れます。
気の遠くなるような長い時間、実に多くの人々を見てきた。(中略)
ごくまれに、私にも手を合わせて拝む者もいた。
だが私には何も出来ない。身じろぎもままならず座っているだけだ。(p5)
という調子です。一番最初にこのセリフが出て来るから、しょっぱなから読者は、いったいこれは誰が語っているの? と「?」が頭に点滅するスタートです。でも、タイトルと表紙絵から、何となく、狛犬のことなのかな、と想像はできます。そして、ところどころに出てくる、犬なのに不思議な雰囲気は、「もしや? やっぱり元狛犬?」と思わせる。だけど、決定的な証拠は出てきません。そう、ジョンが狛犬だという証拠は。
これって実はすごい技術ですよね。だって、タイトルからして、きっとこの犬は、もともとは狛犬だったのではないか、と読者に思わせるのに、それでも最後まで読ませてしまうのですから。狛犬だったとして、いったいなぜ、命ある犬になったのか? どうやってなったのか? と、疑問は次々におしよせるから、ページをめくる手がとまらないのです。
そしてもう一つ、太刀川の性格が読み手をひきつけると思います。どちらかというと、偏屈というか、自分のスタイルを固持している男性。結婚していないのも何か理由がありそうです(ちなみに彼女はいる)。でも、偏屈なように見せかけておいて、この大型犬を自宅からかなり離れた場所であったのに保護し、深夜に獣医を探し、最終的には同居もする。心の奥深いところでは、とても優しい人なのでは、と思わせます。
また、ジョンの主治医や恋人、そして何より、ジョンとの暮らしを通して、太刀川自身が人に対して少しずつ心を開いていくというか、人と接するときの気持ちに変化が出てくるのです。そういった、人間の心の機微をうまく描いているところも魅力の一つだと思います。
読み始めたら止まらない
全442ページのこの小説。決して短くないですが、僕は一気に読んでしまいました。寸暇を惜しんで読みましたよ。ジャンルとしては、推理小説かな? と思いますが、著者自身は
分かりやすくジャンルとして言えば、そうだなー、モダン・ホラー系というかSF系になるのかな?(p450「解説」より)
とオフィシャルサイトに書いているそう。確かに少しホラーの要素もあり、終盤はSFの香りもしていました。でも、基本的には僕が大好きな、推理小説だと思います。犬、設計、車…。とにかくいろんな要素が盛り込まれていて、読み手を飽きさせない作品です。
光文社 (2015-07-09)
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Featured image credit Mike Hayes / Flickr