皆さーん!夏、楽しんでいらっしゃいますか?
こんにちは。毎日水浴び三昧の読書犬・パグのぐりです。こちら、天国では、好きなときにいつでもプールに入れて快適。地上ほどは暑くないけれど、やっぱり水遊びは最高だよね~。
日本初の老犬ホーム
さて、今月は引退した盲導犬のお世話をしている人が書いた本を紹介します。『ハーネスをはずして』(辻恵子著 あすなろ書房 2016年)は、副題に「北海道盲導犬協会老犬ホームのこと」とあります。そう、この本は、日本で初めての、盲導犬の仕事を引退した犬たちのためのホームについて書かれたものなんです。
この本の著者である辻惠子さんは、高校卒業後、専門学校でトリマーの勉強をします。きっかけがあって在学中から北海道盲導犬協会の老犬ホームで働き始め、以来28年間ホームで犬たちに寄り添ってきました。その経験を、わかりやすく書いたのが本書です。
盲導犬としての仕事を終えて
先だってご紹介した『サンダードッグ』(マイケルヒングソン・スージーフローリー共著 井上好江訳 燦葉出版社 2011年)にも、盲導犬が登場したよね。ロゼール。彼らの平均的な仕事終了年齢は、だいたい10歳くらい。それ以降は、パピーウォーカー(生後50日くらいから1年間、盲導犬候補犬を育てる家庭)の元に再び戻るか、まったく別の家庭でひきとってもらうか、という選択肢があります。
いずれにせよ、それまで一緒に暮らしてきたユーザーが、引退する盲導犬の引き取り先について心を配るのが一般的だそう。でも、と辻さんは書きます。
(ユーザーに引退犬の行先をさがさせる)この問題を視覚に障害をもつユーザーにまかせることはできない、とも考えました。
それは、ユーザーの心の重い負担になるからです。老犬のお世話をしてくれる人をさがすのは、そう簡単なことではありません。(p13)
なるほど。たしかにそうかも。子犬であれば、もらい手も早く見つかるかもしれませんが、仕事を終えた、いわば定年後の犬と一緒に暮らしてくれる家庭を探すのは難しそうです。
また、北海道盲導犬協会は1978年、その設立当時に初めて訓練をして盲導犬として育てたミーナとジョナが引退する時を迎え、この2匹を、責任をもって協会でお世話したいと思いました。これらの思いやきっかけが重なって、日本初の老犬ホームが設立されたのです。
動物にかかわる仕事がしたい!
著者の辻さんは、小さいころから動物が大好きな両親のもとで育ちました。自身も動物好きに育ち、しょっちゅうけがをした鳥を連れ帰って手当をしたそうです。ただ、住宅事情により、犬を飼ったことはありませんでした。
ある日のこと、辻さん家族がみんなでテレビを見ていたときです。そこで、北海道盲導犬協会での、犬の訓練の様子が放映されました。辻さんはこの時初めて盲導犬の存在を知り、その訓練という仕事が世の中にあることも知ったのです。
この時の強い印象が後々、彼女を盲導犬協会へ引き寄せるのです。高校卒業後、動物に関わる仕事がしたいと、トリマー養成の専門学校に入学します。最初はむくむくの小型犬を抱っこし、きれいにしてあげることがうれしくて楽しんでいましたが、徐々に自分のやりたいのは犬の飼育に関わることで、勉強していることとは違うのでは、と思い始めるのです。
その頃、あのテレビ番組を思い出し、辻さんは行動に出ます。履歴書を持って北海道盲導犬協会へ行き、仕事をさせてほしいと頼みました。その時に老犬ホームでの仕事を与えられ、以来、その仕事一筋できました。
健やかな老後を
盲導犬を引退した犬といっても、10歳くらいであればまだまだ元気。でもそれから年を重ねるごとに、やはり徐々に弱っていく犬もいます。
この本で印象的だったのは、どの犬も盲導犬として働いてきたことは共通ですが、1匹1匹、みんな違う、ということ。そして、その違いを丁寧に把握し、必要なケアを提供している協会の方々の姿勢でした。ブラッシングや食事、散歩。基本的には犬のお世話ですから、一般の犬と変わりませんが、たとえば、後ろ足が弱ってきたら、車いすや介護服、起き上がって食べるのが難しい子にはホタテ貝型の食べやすいエサ入れを使うなど。いつも「この子が一番快適に過ごせるためには、何ができるか」を考えています。まさにプロフェッショナルです。
そして1匹1匹、個性もそれぞれならば要望もそれぞれ。ミニーという引退犬の物語は、特にそれがよく表れています。ミニーは盲導犬を引退して老犬ホームに来たとき、とても寂しそうだったそうです。それまでのユーザーさんが提供していた環境や食べ物をなるべく再現しようと辻さんは頑張りますが、それでもミニーの寂しさが消えることはなく…。
でも辻さんは、あきらめずにミニーを観察し続け、ある時はっと気づくのです。
ミニーの欲しがってるのは、人に甘えることなんだということに気づいたのです。(中略)
そこでその犬舎からだして、いつも職員がいる、詰所の方にうつしてやりました。そして、声をかけ、名前をよんで世話をしてやるようになると、それまでのさびしそうな表情が消えて、だんだん元気になり、私にもなついてくれるようになりました。(p143)
犬は、人と心を通わせやすい動物ではあると思います。でも、だからといってすぐにその子のことが分かるかといえば、そうとは限りません。でもその時に、この辻さんのように「分かりたい」とずっと心を寄せてくれる人がいる。老犬ホームの仲間たちはなんて幸せなんだろうと思ったよ。
この本は、盲導犬がどんな仕事をする犬なのか、現役時代、ユーザーとどのような暮らしをしているのか、そして、老犬ホームの、日々の生き生きとした様子、辻さんの生い立ちなどが入っていて、読者を飽きさせません。これまで250頭の犬たちを看取ってきた著者の言葉を、ぜひみなさんにも読んでいただきたいです。
あすなろ書房
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Featured image credit Darin House / Flickr