大家族+ビーグル犬と、ハンガリー人留学生~『彗星物語』

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皆さんこんにちは!読書犬・パグのぐりです。お元気ですか? 僕はこちら,WOOFOO出張所で毎日せっせと本を読んだり、映画を観たりして暮らしています。こちらでの生活もこの3月で3年目を迎えました。あっという間だったなあ。

どうしてこんなに大家族?!

彗星物語〈上〉 (角川文庫)

さてさて、今日ご紹介するのは、大家族と1匹の犬のお話。『彗星物語』(宮本輝著 角川文庫 1995年)は、実に13人家族と1匹という、たくさんの登場人物が様々な物語を繰り広げる作品です。もともと宮本輝さんは人物描写がすごくうまくて、僕も大好きな作家さんの一人。この小説もあますところなく、その力が発揮されています。

関西の一軒家に住む城田家は、夫婦とその子ども4人+おいいちゃんの7人家族。50代の夫・晋太郎とその妻・敬子。24歳の長男・幸一、21歳の長女・真由美、18歳の次女・紀代美、11歳の次男・恭太、晋太郎の父・福造が構成メンバー。そして飼い犬のアメリカン・ビーグルのフック、8歳。ここに、夫の不倫が原因で離婚した、晋太郎の妹・めぐみとその4人の子どもが加わった状態で話はスタートします。ただでさえ大家族なのに、なんとここに、ハンガリーからの留学生、ポール・ボラージュが加わるのです。最初、こんなに登場人物が多くて、途中迷わずに読み切れるか心配になりましたが、大丈夫でした。

なぜ城田家にボラージュが下宿することになったかというと、晋太郎が以前していた仕事でハンガリーを訪れたときにある人と交わした約束がもとなのです。それを破るわけにはいかないと、大家族の中に迎え入れました。

自国の大学を卒業し、日本の大学の修士課程で日本近現代史を学ぶためにボラージュは来日。国の規定により、3年間しか日本にいることはできないという事情があり、3年で修士号をとるために彼は必死に勉強します。ですが、日本に来て日本で暮らす、しかも日本の大家族の中でとなると、勉学とはまた違った大変さが降りかかりました。性格や文化の違いを城田家のメンバーはどうやって解決していくのでしょうか。

次々勃発する問題

年頃の姉妹、真由美と紀代美はボラージュと恋仲になるのか? 離婚して精神的にもかなりまいっているめぐみは、仕事につけるのか? 家を出て一人暮らしをするという幸一は? 中学で悪い仲間と付き合い始めためぐみの長男・春雄はどうなる? 恭太の体の成長が遅いようだが大丈夫?

と、次々に問題が発覚する城田家。そこにボラージュの異性問題やら、「自立したい問題」やらが入ってきて、敬子は気が休まることがありません。が、そんな大変な毎日の中で、フックはただ一人(一匹?)、いつも優しい態度で家族を見守ります。彼は平和主義者で、家族の中で喧嘩が始まりそうになると、これ以上の悲劇はないというほどに吠えまくるので、結局喧嘩はおさまる、という場面が何度も出てきます。犬の力ってすごいよね。

この文庫本は上下巻に分かれていますが、下巻は特に、物語の展開が大きく、目が離せません。中でも、長女・真由美の不倫、幸一、真由美の一人暮らしなどは、家族のこれまでの形を大きく変化させました。そうこうしているうちに、ボラージュの帰国の日が迫ってきます。

そんなある日、ボラージュは彼の友だちを城田家に連れてきます。訪れた5人はみな留学生。日本語の上手なイギリス人のアランと、背が2メートル近くある、優しいアフリカ人のウモ。この二人は5人の中でも城田家のその後に大きくかかわってくる人物。どうかかわるかって?それは読んでのお楽しみです!

ありがとうフック

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image by travel oriented / Flickr

ボラージュが帰国する数日前に、中華料理店で開かれた送別会。そこでボラージュは城田家の家族全員にメッセージを送ります。その中でフックに送られた言葉はとても感動的でした。

「ぼくの愛する友だちであるフックへ。あなたは、ぼくにとって、いつも心でつながっている優しい友人でした。なぜなら、あなたは人間の言葉を喋ることができなかったからです。しかし、ぼくとあなたは、夜中に、城田家の居間で一緒に横になり、たくさんの会話を交わしました」(下巻p.224)

こんな言葉から始まる手紙は、ボラージュから持ち掛ける相談に、フックがどう答えてくれたかがつづられており、フックの優しさに読んでいるこちらもジンと来ました。なにしろボラージュは、初めて城田家に来たとき、犬が怖いといってフックから逃げた人物。そんな彼が、3年間の生活を通じて、フックをかけがえのない友人だと思えるまでになったことから、この一匹のビーグル犬がどれだけの癒しと励ましをボラージュに与えたかがうかがえます。

ボラージュは3年間、血のにじむような努力をして、見事修士号をとり、母国・ハンガリーへ帰国します。最後の日、城田家での別れの場面。ここで一番印象的なのは、おじいちゃん・福造とボラージュの別れの場面です。福造は、城田家の一番の年寄りですが、優しく、時におちゃらけキャラで皆をなごませます。困っている家族がいるとそっと寄り添い、問題解決を助けてくれる。そう、フックとおじいちゃんはどこか似た感じなの。この2人の絆もなかなか粋な感じです。

登場人物が多くて、話が散漫になるかといえば、まったくそんなことはありません。むしろ、一人ひとりがメインになる場面がうまく組み込まれていて、飽きることがありません。そして何より、フックの描写があたたかく、書き手の犬への愛情があふれています。僕、実はこの本を『ああ、犬よ!』(本上まなみ、アーサー・ビナード他 キノブックス 2018年)で知ったの。こちらの本の「へんてこりんな犬」(宮本輝)を読むと、フックがどうしてこう描かれたのかがわかります!ぜひ合わせて読んでみてくださいね。


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Featured image credittravel oriented/ Flickr

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