最期の時を迎える前に~『楽しかったね、ありがとう』

本・映画・テレビ
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皆さんこんにちは! 今年の梅雨は雨が本当に多かったみたいだね。7月上旬には地上の飼い主だったNさんが「ぐり~、ここ最近、全然太陽を見ていないんだけど、太陽ほんとにある?」と聞いてきた(笑)。

僕、読書犬のぐり。WOOFOO天国出張所に勤務しているんだ。こちらはそんなに天気の変動はなくて、過ごしやすいんだけど、地上には仲間もたくさんいるから心配していました。この原稿がアップされる頃には、もう梅雨明けしているかな? みんな、早く雨がやんで、お散歩できるといいね!

最長寿猫は25歳!

楽しかったね、ありがとう

さてさて、今日ご紹介する本は、長寿犬、長寿猫たちを見送った飼い主さんの話が20編収められた『楽しかったね、ありがとう』(石黒由紀子著、幻冬舎 2019年)です。石黒さんは、あの有名な豆柴の「センパイ」(14歳)と、猫の「コウハイ」(推定9歳)の飼い主さん。

センパイとコウハイにいつまでも元気で長生きしてほしい、だけど彼らの年齢は人間でいえば70歳と50歳。先々のことを考えると不安もあります。だったら、長生きした犬や猫たちを見送った先輩たちのお話を聞きたいと考え、石黒さんご自身が取材をしてまとめられた本です。

「これから経験するかもしれない方に少しでも参考になれば」と、かけがえのない愛犬愛猫との日々を、20人の方々が一生懸命に話をしてくださいました。伺ったお話には、それぞれに迷いや悩み、悲しみ、そして喜びがありました。(p.3)

とのこと。20個のストーリーはそれぞれに個性があり、猫や犬と長く暮らした飼い主さんたちの人生が描かれていました。ちなみに、本の中で一番の長寿は猫のにゃん。なんと享年25歳。四半世紀! すごいです。

我が道を行く

Shiba inu chilling

photo : Yuya Tamai/ Flickr

いくつか印象的だったお話をご紹介します。「生と死は地続き。生きてきた一部に死がある」は、雑種猫の黄金(こがね)の19年間の猫生を追ったお話です。飼い主は音楽プロデューサーの赤井由絵さん。以前は都心にお住まいでしたが、東日本大震災後に沖縄へ移住。今は東京と沖縄を行き来しており、沖縄では保護猫の活動もされているそう。

赤井さんは小さいころから動物が大好き。でも転勤族の家だったために犬や猫は飼えず、あらゆる小動物を飼っていたといいます。このあたり、地上のNさんとすごく似てる(笑)。そして人生で初めて猫を飼ったのは、もともと夫と暮らしていた黄金と、結婚後に同居するようになってからだったそうです。

黄金は、とにかく「ゴーウィングマイウェイ」、我が道を行く猫で。気が強くて、夫以外の人になつくことはなく、お客さんに猫パンチ、遊びに来たゴールデンレトリバーにもパンチするほどだったそう。唯一心を許していた(?)夫が出かけると、ずっと玄関で鳴きながら待っていて。でもね、面白いのが、だからといって帰宅した夫に甘えるかというとそんなことないんだって。

自分の道を歩き切って亡くなった黄金。たくさんの猫を看取ってきた赤井さんは19年間生きて大往生した黄金を見て、こう感じます。

ありのままに生きていたら自然に死ねる、生き抜ける。だから死ぬことを恐れる必要はない。そう教えてくれた黄金。猫も納得して身体から魂を抜くのだろうか。(p.70)

猫の生き方から、人もいろんなことを感じ取っているんだなと思いました。日本は高齢化社会ということがずいぶん前から言われているけれど、自分の人生を生き抜いて、最後は自然に死ぬのはきっと理想的な形なんだろうね。動物は人よりも短い生を生き抜くから、その姿が人に何かを感じさせるのかもしれません。

犬が人を成長させてくれる

Miniature pinscher

photo : LEONARDO DASILVA/ Flickr

武井さんが飼っていたのはミニチュアピンシャーの「はな」。30代で事故にあって大けがをした武井さんが、リハビリに散歩をと、奥さんが犬を飼うことをすすめてくれて、出会った犬でした。

はなを迎えてから最初の10か月間は、怪我のリハビリで、れこそずっと一緒に生活していた武井さん。夜寝る時も一緒。はなが自分の酒臭い息を吸い込んでしまうのではないかと、きっぱりお酒もやめるくらい、武井さんははな想いの飼い主になっていました。

はなは18歳のとき、脳梗塞のような症状が出ます。それでもなんとか持ち直し、武井さんが差し出すハーゲンダッツのアイスクリームをなめた。でもそんなはなを見ながら武井さんは思います。

「もう何年でも介護してやるぞ、安心しろよ」という強い気持ちもあったが、瀕死のはなを見つめているうちに、ふと気づいたことがあった。”世話をしている“とか”面倒を見ている“とか自分で思っていたけれど、本当は、はなが自分を励まして、支えていてくれたのではないか。(p.190)

そして武井さんははなに声をかけるのです。その言葉が、あったかくて、とても素敵なのです。そして翌日。はなを抱いていつもの散歩コースを歩いている時、はなは天国へいきます。

「犬って、人を成長させるために生まれてくるんじゃないかと思うんです。僕もはなにずいぶん教えてもらいました。」(p.192)

この武井さんの言葉は、犬を飼っている人みんなの実感ではないかなと思います。僕たち犬も、飼い主さんはじめ、人間の皆さんからたくさん愛情をもらって、人よりは短いけれど、犬としての犬生を精一杯生きる中で、いろんな経験をさせてもらう。だからお互いにかけがえのない存在なのかなって思います。

犬や猫は、人間よりも短い寿命を生きるから、飼い主さんよりも早く天国にくことが多い。愛犬や愛猫を見送ることになったら、いったい自分はどうなってしまうんだろう。彼らにどんなことができるんだろう。そんな、飼い主さんであればだれもが持つ思いに、優しく、丁寧に答えてくれている本です。


楽しかったね、ありがとう
石黒 由紀子
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