なぜ愛犬をクローン化してはならないのか

社会
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愛する犬の死は受け入れがたく、あなたはどんなことをしても命を繋ぎ止めたいと思うかもしれません。

ペットのクローン化は、その願いを叶える一つ夢の方法のように思えます。

犬のクローニングの歴史

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image by İrem Türkkan / unsplash

犬クローン作製の最初の成功は、2005年に韓国の研究チームによりもたらされました。チームは体細胞核移植(SCNT)を用いて、2匹のアフガン・ハウンドの子犬を作り出すことに成功したのです。1匹は誕生直後に肺炎により死亡しましたが、もう1匹のスナッピー(snuppy)はその後10年間生き続けました。

これ以降、犬のクローニングはかなり進歩しています。人間のクローニングは多くの国で禁じられており、家畜のクローニングも禁止の国が多いのですが、ペットのクローニングはグレー領域です。今日では韓国および米国にクローニングを請け負う企業や団体が存在しており、一般の飼い主でもペットのクローン化を委託することが可能です。代金は、アメリカのViagen社に委託した場合だと、犬1匹で5万ドル、猫だと2万5千ドルですが、中には犬1匹で1千万ドルを超える請求をする会社もあるようです。

決して安くはないものですが、ペットを失う痛みに比べれば大したことはないと考える人もいます。2018年2月、アメリカの歌手で女優のバーブラ・ストライサンドさんは、自分の愛犬2匹がクローン犬であることを発表しました。彼女はニューヨークタイムズ紙にこう寄せています。

14年間一緒に過ごした愛しいサマンサが死んだことで、私は途方に暮れてしまいました。私はただ、彼女と一緒に過ごしたかった。彼女のDNAにあるもので彼女の一部を生かすことができると知って、サミー(サマンサの愛称)を送り出すことができたんです

愛犬家ならこの気持ちはよくわかりますし、犬を失う苦痛から逃れられるなら5万ドルは安いくらいかもしれません。しかし、私たちは愛犬家だからこそ、クローニングに背を向けなければならないのです。

クローン犬は元の犬にあらず

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image by Ravi Sharma / unsplash

愛犬と同じ遺伝子をもつというと、愛犬そのものが帰ってくるという印象をもつかもしれませんが、そうではありません。クローン犬がドナーと全く同じ犬になるということはないのです。RSPCAが言うように「クローン動物は、外見や行動のいずれにおいても、元のペットの正確なコピーになることは決してない」のです[1]

遺伝子型が同じだというと、見た目からして全く同じ動物が生まれそうに思いますが、そうではありません。1つの遺伝子型からは、様々な表現型(その生物の形態、構造、行動、生理的性質)の個体が生み出されます。実際、ストライザンドさんの犬は、サマンサとは目の色が異なるようです。

この点はクローン会社も認めるところで、米Viagen社はFAQに「新しい子犬や子猫は、性別こそドナーと同じですが、エピジェネティクス要因によって表現型において若干の違いが見られることがあります」と記載しています。

その上に異なる環境要因が重なれば、全く別の犬のように育つこともあり得ます。気質とは個人が生物学的に引き継ぐ傾向ですが、性格は気質と環境の相互作用の結果[2]ですから、遺伝子型が同じであっても性格は引き継ぐことができないのです。

作られる犬が健康かどうかはわからない

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image by Heather Miller / unsplash

さらには、クローン犬が健康に生まれるか、健康に育つかについては、まだよくわかっていないのです。

多くのクローン犬は、健康に生まれ、その犬種の寿命とされる年齢まで生きることができるようです。実際、スナッピーは元気に10歳13日を過ごしました(死因はドナー犬と同じ癌だった)。しかし、全てのクローン犬が健康に生まれる訳ではないのです。

クローン犬に関しては、2014年と2015年の報告があります。 2014年発表の報告には、8歳オスのジャーマン・シェパードの2匹のクローンについての記述があります(1匹は健康、もう1匹は口蓋裂で異常な外性器を有していた)。 2015年の報告は、肝臓と胆嚢の異常を持って生まれてきたクローン子犬が、誕生の日に死亡した例を伝えています。

また、他のクローン動物の研究では長期的に健康問題を抱える可能性が示唆されています。中には生活の質を損なう形態学的特徴(呼吸困難、関節や目や耳に問題)を持って生まれるという指摘もあります。

多くの犬が犠牲になっている

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image by Cam Bowers / unsplash

それよりも何よりももっとも気になるのは、1匹のクローン犬を作り出す裏側で、多くの(少なくとも1匹以上の)犬が犠牲になっているという点です。1匹の犬を生み出すためには、代理母(犬)が必要だからです。

クローニングには、犬を育てるお腹が必要です。体細胞核移植(SCNT)を例にとると、①メスの犬から未受精卵を取り出し、②核を除いたのち、③ドナー犬の体細胞を卵に注入してから、④これを代理母犬に移植するというプロセスを辿ります。代理母犬は必ず妊娠する訳ではありませんから、おそらくは複数の代理母犬に移植が行われるのでしょう。

最初のスナッピーの作製においては、123匹の代理母犬に肺の移植が行われ、妊娠したのはわずか3匹でした。現在はそれほど多くの代理母の犠牲はありませんが、どれだけの犬が関与するかは公表されていません。また、代理母犬がどこから来て、どんな生活をしているのかもわかりません。プロジェクトのための政府資金を受けている研究企業や大学は、米国農務省の検査に提出し、使用する猫や犬の数を報告する必要がありますが、ペットのクローニング企業は基準を守るか、または使用する動物の数を記録する必要はないからです[3]

代理母犬には多くの侵襲的処置(生体の内部環境の恒常性を乱す可能性がある処置)が取られることも見逃すことはできない点です。

仮に代理母犬 をするためだけに生かされている犬がいるのであれば、パピーミルの問題とそう大きくは変わらないことになります。


クローン犬が愛犬と遺伝子を分け合っただけの別の犬だとしても、その犬を手に入れたいと思うでしょうか?あなたの犬は、あなたと人生を分かち合ったからこそ「ウチのコ」だったのであり、遺伝子がそれを決める訳ではありません。

◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Copycat, copydog: Is it ethical to clone your dead pet? | Alphr
[2] Dog’s Personalitites | The Bark
[3] The Hidden Dogs of Dog Cloning – Scientific American Blog Network
[4] Kim, M. J., Oh, H. J., Kim, G. A., Jo, Y. K., Choi, J., Kim, H. J., … & Lee, B. C. (2014). Reduced birth weight, cleft palate and preputial abnormalities in a cloned dog. Acta veterinaria scandinavica, 56(1), 18.

Featured image creditPchela Vladimir/ shutterstock

テキサスの企業「5万ドルで愛犬のクローンつくります」 | the WOOF イヌメディア

大金を投じても、愛する我がコを取り戻したい…。そう考えるのなら、ViaGen Petsの名を覚えておくと良いかもしれません。このテキサスの企業は5万ドルで、犬のクローン化を引き受けてくれます。

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