散歩する犬達が、トイレのために必ず立ち止まる場所があります。
犬の飼い主たちは、そこは単なるお気にいりの場所としか思っていません。しかし、当の犬達にとっては、それ以上の意味を持つといいます。すなわち、匂いによってコミュニケーションを図っているというのです。
今日は、匂いによるコミュニケーションがどんなものか、考えてみたいと思います♪
ケミカルコミュニケーション
嗅覚のすぐれたイヌ属動物にとって、匂いを利用したコミュニケーションは重要です[1]。イヌはいろいろな物質に対して、人より1000倍から1億倍も敏感なのだといいます。そして匂い信号は長時間環境中に残るし、信号の発信者がそこに存在しなくても伝達できるのだそうです[2]。
ジョージア大学獣医学科行動医学(the University of Georgia College of Veterinary Medicine)デイヴィス教授(Sharon Crowell-Davis)によれば、「犬たちは、自分がここに来たことや、この地域メンバーだということを、排泄によって他の犬に知らせます。その匂いには、誰が来たかということに加え、犬の年齢(若いかシニアか)や性別、さらには健康状態や食べた物、心理状態なども知ることができるといいます[3]。
お散歩中、クンクンに興じるワンコさんは、こんなことを考えているのかもしれません。
「ココちゃんとゆずが来てるな」
「お、ゴエモンのやつ、新しいドッグフードをもらってるよ。いいな〜」
「みかんお婆ちゃん、早く膀胱の痛みが治まるといいね」
「あれ、おデブのルークは、昨日は来なかったみたいだな」
「ココアったら、また彼氏募集してるわ」
道端でプーやピーをすることは、飼い主さんがSNSに情報をアップするようなものなのかも。そう考えると、少しクスッと笑っちゃいますよね。
お尻の匂いを嗅ぐこと
ニンゲンは「うわっ、何やってんの!?」って思っちゃうお尻の匂い嗅ぎ。でも、犬たちにとっては、相手を認識するために重要な行動なのです。ワンコ家族がいる方ならご存知だと思いますが、犬(イヌ属動物)には肛門の周囲に肛門嚢という器官が存在します。肛門嚢の本来の機能は匂いつけであり、イヌの手段あるいは個体により肛門嚢分泌物の化学的組成が異なっているのだそう[2]。それはすごい。
また、社会的な意味をもつ匂い(ざっくり言うと性的な意味をもつ匂い)を発するアポクリン腺からの分泌物は肛門あたりから多く出るそうで、やはりお尻は個体の情報を豊富に伝える場所だということがわかります。
ニンゲンが顔をみて相手を記憶するように、そしてその人の状態まで推察するように、ワンコたちはお尻の匂いで他のコの情報を得て記憶するのでしょう。
過去ログはどのくらい確認できる?
SNSで「3年前の今日を振り返ってみましょう」とかいって、懐かしい写真を掲示してくれることがありますよね。これと同じように、ワンコたちも数年前の匂い情報を振り返ることはできるのでしょうか。
さすがに数年前というのは無理のようです。それでも、匂いは通常1ヶ月ほどは持続するのだといいます[4]。一方、ワンコ側はどうかといえば、犬が匂いを覚えていられる期間は数週間から数か月に及ぶであろうことが推察されています[3]。
いつも同じ場所で立ち止まって、おかしなコねぇと思っていましたが、もしかしたら気になる犬や気になる情報が落ちているのかもしれませんね。早く立ち去ろうとする飼い主さんに対して、「もっと嗅ぎたいのに!」と文句の一つも言いたいのかも。
匂いの世界を覗いてみると、お散歩がワンコたちにとって重要なものだということがわかりますよね。いつまでも好奇心一杯で生き生き暮らしてもらうために、お外に連れ出してあげましょう。アンチエイジング効果もあるかもしれませんよ。
身体を健やかに保つだけでなく、心のケアのためにも、匂い嗅ぎの楽しさをエンジョイしていただきましょう♪
[1] Bradshaw, J. W., & Nott, H. M. (1995). Social and communication behaviour of companion dogs. The domestic dog: Its evolution, behaviour and interactions with people, 1, 115-130.
[2] 猪熊寿. (2001). イヌの動物学. (林良博 & 佐藤英明, Eds.). 東京大学出版会.
[3] A walk isn’t just a walk to your dog | MNN – Mother Nature Network
[4] Bekoff, M. (1980). Accuracy of scent-mark identification for free-ranging dogs. Journal of Mammalogy, 61(1), 150-150.
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