病気治療中の子供のストレスを緩和には、セラピー・ドッグが一定の役割を果たします。しかし、犬の抗菌や消毒が正しく行われないと、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を蔓延させるリスクが高まることが、研究により明らかになりました。
本研究は、サンフランシスコで開催されたIDWeek 2018で発表されています。
研究を行ったのは、ジョンズ・ホプキンス大学の博士候補生、キャサリン・ダルトン獣医師ら。セラピー・ドッグは小児癌患者のストレス、不安、痛みのレベルを減少させる一方で、弱った患者のMRSAの感染リスクを高めるのではないかと疑い、本研究を行ったそうです。
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)とは、「ヒトや動物の皮膚、消化管内などの体表面に常在するグラム陽性球菌で(中略)、通常は無害であるが、様々な重症感染症の原因となる[2]」菌のこと。健康な人(通常の感染防御能力を有する人)に対しては一般的には無害で、症状のないままブドウ球菌細菌やMRSAを保菌していることがあります。
しかし、癌患者となると話は違ってきます。癌治療により免疫系が弱くなっている癌患者では、健康な人よりも感染症による症状を起こすリスクが高くなるのです。
そこでダルトンらは、大学系列の小児病院(Johns Hopkins Bloomberg Children’s Hospital.)のセラピー・ドッグ・プログラムの中で、癌患者と犬のMRSA保菌状況が訪問前と訪問後でどう変わるか、および、除菌により感染リスクを低減できるかの確認を行いました。
研究協力は、45人の癌患者(2歳から20歳)と4匹の犬(ピピ、ポピー、バジャー、ウィニー)。観察された13回のセッションのうち、7回は通常と同じようなプロセスで、6回はダルトンらが指定する除菌のプロトコルが用いらて、セッションが実施されました。
セラピー・プログラムでは、訓練された犬たちが、外来で癌の治療を受ける子供たちを訪問します。犬は一日の中で、1対1のセッションをいくつかとグループセッションをこなすため、病院内の複数の場所や病院間を移動することになります。
通常のプロトコル下では、犬は訪問日の入浴や傷や健康上の問題がないかのチェックが行われ、子供達には手の消毒剤を使うことになっています。しかしこれらは厳密には実行されていませんでした。
一方、指定した除菌プロトコル下では、犬は訪問前にクロルヘキシジンでシャンプーし、訪問中は5〜10分ごとに、クロルヘキシジンでの拭き取りを行うなどが徹底されました。
結果、除菌が徹底されていない場合は、犬も人もMRSAのキャリアになる可能性が高くなることがわかりました(約6倍ほど高くなる)。これは、犬が元々保菌犬でMRSAをバラまいたからではなく、病院で他の患者やモノの表面についたMRSAを拾ったために起こった可能性が高いと、研究者らは考えています。
除菌のプロトコルでは、事前のシャンプーにより菌を外から持ち込ませず、訪問中の頻繁な拭き取りにより媒介させないことが効果をもたらしたようです。
研究者らは、除菌を徹底させることは感染リスクを低減させる効果はあるとしながらも、抗菌薬を頻繁に使用すると細菌の抵抗力が強くなるという懸念もあります。このため研究者らは現在、耐性を示す遺伝子を探すための細菌サンプルの検査などにより探求を深めています。
セラピードッグの訪問を心待ちにする子供達のためにも、安全を確保するためのさらなる研究がまたれるところです。なお、5-10分おきに拭き取りされる犬たちは、ストレスを感じることなく、むしろ喜んでいたのだとか。これについてダルトンは、「彼らにとって拭き取りはまるでナデナデされているようだったから」とコメントしています。
◼︎以下の資料を参考に執筆しました。
[1] Therapy Dogs Can Spread MRSA to Young Cancer Patients. Here’s How to Prevent It.
[2] メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症
Featured image creditDebMomOf3/ Flickr
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