皆さんこんにちは!僕は読書犬・パグのぐりです。普段はWOOFOO天国出張所にいて、本を読んだりDVDを観たりしています。
こちらはオールシーズン過ごしやすくてね。友だちといっしょに遠足に行ったり、水のみながらおしゃべりしたりしているよ。地上は湿度が高い季節でしょうか。ゆるりとした時間を大切に、どうぞ健康でお過ごしくださいね。
高安犬を求めて
今回ご紹介するのは『高安犬物語』(戸川幸夫著 1959年 新潮文庫)です。かなり昔の作品ですが、戸川さんはこの作品で直木賞も受賞されています。
本文によれば「高安犬」は「こうやすいぬ」と読むそう。
高安犬というのは、山形県東置賜郡高畠町高安を中心に繁殖した中型の日本犬で、主として番犬や熊猟犬に使われていた。(p.7)
つまり、高安という地名に由来する犬なんだね。高安犬物語の主人公はこの地方に住んでいた高等学校の学生さん。専攻は理科で、高安犬の純血種を見たいと、休みになると自転車を走らせて探していました。そもそも彼が高安犬のことを知ったのは、高等学校の友人から紹介された、地元パン屋の主人の話でした。高畠ということころに、高安犬とうい犬がいた、という話に魅せられ、友人とパン屋と彼は3人で探しに行くのですが、見つけることができません。しかし、彼だけはあきらめきれず、その後もアンテナをはっていたのです。
そのアンテナにある情報がひっかかります。和田村という山村にそれらしき犬がいるというのです。さっそく彼はその村を目指します。その地域の方言を使って、村人たちに地犬を知らないか聞いて回るのです。そこで美しい「チン」という名犬に出会います。これこそが高安犬!と思った主人公は、飼い主の吉に写真を撮らせてほしいとお願いするのですが…。
通い詰めてやっと
吉は寡黙な猟師で、そうそう安易に近づかせてはもらえません。しかし、主人公もやっと出会えた高安犬に少しでも近づきたい。ということで、それからずっとあしげく吉の元へ通うようになります。
そんな彼の真剣さを見た吉は徐々に心を許していきます。そしてぽつりぽつりと、チンのことを教えてくれるようになりました。吉は地元の山を知り尽くす猟師。チンはそんな彼の一部分となって、山を駆け巡り、このコンビは確実に多くの獲物を仕留めていました。特に、熊は体も大きく、一歩誤ればこちらが命の危険にさらされますが、人と犬との見事なチームワークによって、何度も猟を成功させていたのです。
吉は自分の一部のようにチンをパートナーとして尊び、可愛がり、一緒に生活していましたが、あるときチンに病気が見つかります。助けたいという思いで主人公はしぶる吉を説得してチンをひきとり、町へ連れて帰るのです。
その後、いろいろ事件が起こりますが、結局チンはこの町で命を閉じます。病気を治すためとはいえ、チンを手放した吉の気持ち、病気を治すためといいながら、この気高く素晴らしい高安犬を自分のものにしたいと思った主人公の気持ち、そして、チン。いろいろな人と犬の気持ちが交錯する、読み応えのある作品です。
貧しくても家族の元がいい
他にも、猟師源次とシロの「熊犬物語」では、壮絶なラストに言葉を失います。田舎で貧しい一家に飼われていた太郎、家族の病気の入院費のために泣く泣く町の医者に売られてしまうも、家族が忘れられず家を目指す「北へ帰る」。僕はこの中の次の一文に深くうなずきました。
人間のいう貧しい生活ということは彼には分らなかったが、自分の周囲には常に飼主の深い愛情と美しい空気ときれいな水と暖い陽の光がありそれで充分だった。それに熊猟犬の彼には作蔵が冬場になって連れて行ってくれる吾妻の大自然があった。これは何ものにも変え難い、生甲斐を感ずる舞台なのだ。(p.111)
たとえ町の金持ちの医者の家で贅沢な食事を与えられていたとしても、太郎は生まれ育った村、家族、自然をこよなく愛していました。犬ってみんな、そうなのかもしれません。他にも土佐犬、秋田犬など、犬を主人公にした短編がいくつか収められています。
解説によれば、著者の戸川さんは『高安犬物語』の主人公と同じく、旧制の山形高校で理科を専攻し、生物学者をこころざすも、病気でやむなく中退します。入院中に本をたくさん読んだことで小説にも親しむことに。その後新聞記者となって、文章を書くようになり、記事だけでなく、こうして小説も書くことになったそうです。元来生き物が好きだった、動物への愛情があふれた作者のことがよくわかる作品です。
文庫版は、今よりもだいぶ字が小さくてびっくりしたけれど、内容に引き込まれてまれてどんどん読めちゃいます!
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