読書犬「ぐり」はこれを読む!『白い犬とワルツを』 別れと再会~アメリカの男の一生~

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こんにちは。皆さんお元気ですか? 東京の読書犬・ぐりです。この前1年に1度のワクチン接種に行ってきました。注射キライですかって? そりゃ好きではないけれど、僕は爪切りの方が嫌いだから、いつも爪切り後に注射なのであまりよく覚えていないの。人間の世界でもインフルエンザワクチンの接種が始まっているみたいで。予防に越したことはないけれど、今年は値段が高いみたいですね…

突然妻に先立たれ…

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あ、話がそれてスミマセン。

今日ご紹介するのは、もう皆さんご存知の本かもしれません。『白い犬とワルツを』(テリー・ケイ作 兼武進訳 新潮文庫1995年)です。この本、僕もタイトルはずっと前から知っていて、ストーリーも誰かから聞いておぼろげには知っていたのですが、ちゃんと読んだのは今回が初めてでした。

舞台はアメリカ。ものすごく大きな出来事が起こったり、謎解きがあったりするわけではなく、1人の男性の一生を淡々と描いている物語です。ストーリーの中に、彼の書く日記がたびたび挿入されるのですが、それがまた、物語にいい味を加えています。

男性の一生が描かれる、と書きましたが、この物語は主人公がすでにおじいさんになってからスタートします。もう80歳を過ぎたサム。冒頭、彼と57年一緒に生きてきた妻、コウラが亡くなります。突然のことで、4人の子どもたちも、そしてサムも深い悲しみに襲われるのです。

コウラの葬儀が終わり、サムの独り暮らしを心配する声が子どもの中から出ます。ニーリーという、昔からのお手伝いさんが何かと世話をやいてはくれますが、サムは足が不自由で歩行器を使っていることもあり、子どもたちは、たとえばニーリーが来る前の朝ごはんや部屋の中の移動など、細かい日常のことを心配し、交互に手伝いにくるようになるのです。

ふっと現れ、そっと寄り添う

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そうした中、もう一人、この家を訪れるようになった生き物がいます。そう、それが白い犬。ある日サムの目の前にふっと現れて、サムが差し出した朝食を食べました。それからも、たびたびサムの家を訪れるようになったこの犬ですが、サム以外の人には見えないようなのです。そのため、子どもたちはとうとうサムの頭がおかしくなってきたのではないかと、心配し嘆き悲しみます。

でもサムは、そうしたことも承知の上で、白い犬がいると断言するのです。その犬はどこからともなくサムの前にやってきて、サムを気遣い、そばにそっと寄り添います。

妻が存命中、サムに高校時代の同窓会の案内が届きます。妻が行きたいと言っていた同窓会。サムは物語の後半、この同窓会へ出席するために、長年の相棒であるポンコツのトラックに白い犬を乗せて子どもたちには嘘の行先を言い置いて、出発します。途中道に迷い、大変なおもいもするのですが、たまたま通りがかった人に助けられ、時間はかかりながらも目的に着くのです。そこまで苦労してたどりついて、同窓会会場に向かうのですが…

この旅行中の、サムの若いころのコウラとの出会いや結婚、その後の暮らしの回想シーンは、なんだかじんわりきます。僕は結婚ってしたことがないんだけれど、人間はこうして、出会ったパートナーと、お互いを尊重しながら暮らしていく。それって素敵だなと思いました。そして同時に、だからこそ、片方が亡くなった時の喪失感は本当に大きいのだなと感じました。

役割を終えて

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同窓会への旅行から数年たち、サムの人生も終盤にさしかかります。病気になったサムを気遣い、娘たちが1週間ずつ交代で泊まり込み、一緒に暮らすことになった最初の日。アルマという娘が来たときにはまだ白い犬はいましたが、その直後にサムの家を出ていきます。まるで、これで自分の役目は終わった、というように。

「おい、あれはお前たちのママだったんだ」(p.266)

病に倒れ、ベッドに寝た切りになったサムは、父親を気遣いそばに付き添っている末の息子、ジェイムズに語りかけました。白い犬は、自分の妻だったと。
 本当にそうなのかは、誰にもわかりません。サムにも、子どもたちにも、そして読者にも。でも、物語の最後のシーンで、誰もが「そうだったのかもしれない」と思います。

白い犬はどんな種類だったのか、どんな顔立ちだったのか、あまり詳しい描写はありません。でも、いつもサムを気遣ってそっとそばにいたことはよくわかります。サムも、妻亡き後、この犬にどれだけ慰められたことかわかりません。口では強いことを言いながら、心の中には常に温かい優しさを秘め、子どもや友人のことを気遣っていたサム。そんな彼のことを一番理解していた妻が、死後も姿を変えて彼のそばにいた。十分にあり得ることではないかと思います。

著者のテリー・ケイはあとがきで、この物語のモデルが彼の両親であったと書いています。そして、白い犬にあたる犬も実在したそうなのです。世の中には、科学的には説明できない不思議なことが起こるとよく言いますが、人と犬の間にもそうしたことが起こるのかもしれません。この物語は、そういう説明不可能なことが、起こってもいいじゃないか、と、なんとなく思えるようになる物語です。


白い犬とワルツを (新潮文庫)
テリー ケイ
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Featured image from cursedthing / Flickr
artworks by Temudzhinova Anna Vladimirovna / Shutterstock

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