国際研究チームがイヌ回虫の遺伝子コードを解析〜トキソカラ症の予防や治療に新たな道が拓かれるか
この記事をシェアする |
イヌ回虫が引き起こす病気の予防や治療に、新たな道が拓かれるかもしれません。
研究者たちが、イヌ回虫の遺伝子コードの配列を解析したということです。研究成果は今年2月、論文として”Nature Communications“に発表されました。
イヌ回虫(学名:Toxocara canis)とは、世界中に分布するイヌおよびイヌ科動物に寄生する回虫です。成犬では通常は寄生しても無症状ですが、幼犬(生後6ヶ月齢ごろまで)にとっては大事を引き起こす恐ろしい病気です。予防していない幼犬の場合、15cmほどまで成長した数百の回虫が腸の中にすし詰め状態になり、最悪の場合、死に至ることもあります[1]。
また、この回虫は人間の小児に感染症(トキソカラ症)を引き起こします。メルクマニュアル医学百科(家庭版)によれば、体内に寄生虫がいるイヌやネコなどの糞で汚れた土をいじったことでトキソカラの卵を飲み込んでしまい、感染することが多いそうです。小児が多いようですが、大人でも卵を飲み込めば感染します。発熱、せき、喘鳴、肝臓肥大などが、よくみられる症状です。発展途上国などの比較的貧しく、衛生環境が整っていない国で非常に多く発症しています。
イヌ回虫の研究は、主に臨床の観点から多く行われてきましたが、今回のように分子生物学から詳細に検証を行うことは初めてだといいます。論文の筆頭著者であるガッサー教授(Professor Robin Gasser、メルボルン大学)、研究は実際の病気の予防や治療に役立つであろうと語り、「本研究はイヌ回虫にフォーカスしたものであるが、研究アプローチおよび研究成果は他の回虫研究にも適用できる」と、今後の研究の可能性にも言及しています。
研究は、メルボルン大学、中国農業科学アカデミー(CAAS)BGI-シンセン、カリフォルニア工科大学、モナッシュ大学を含む国際研究チームによって行われ、論文”Genetic blueprint of the zoonotic pathogen Toxocara canis”は2月にオンライン上で発表されています[2]。
h/t to Genetic code cracked for worldwide dog and human parasite | The Melbourne Newsroom
[1] 犬回虫 – Wikipedia
[2] Zhu, X.-Q., Korhonen, P. K., Cai, H., Young, N. D., Nejsum, P., von Samson-Himmelstjerna, G., … Gasser, R. B. (2015). Genetic blueprint of the zoonotic pathogen Toxocara canis. Nature Communications, 6, 6145. http://doi.org/10.1038/ncomms7145
Featured image by hoyou / Shutterstock