読書犬「ぐり」はこれを読む!『一分間だけ』〜命をまるごと引き受けるということ

本・映画・テレビ
この記事をシェアする

神様。どうかお願いです。一時間だけ、時間をください(p.3)

皆さんこんにちは。東京の読書パグ犬、ぐりです。今日はこんな印象的な言葉から始まる小説をご紹介しますね。

一分間だけ』は原田マハさんという女性が書いたラブストーリーです。主人公は神谷藍という女性編集者。『JOJO』というモード系ファッション誌の編集部で、バリバリ働いているキャリアウーマンです。この小説は、彼女とひょんなことから出会い、一緒に生きることになった「リラ」という名前のゴールデン・レトリーバーの一生を描いた物語です。

一生、といっても、生まれた時のことは書かれてないの。藍と出会ったときからのことが鮮やかに、そして深く、描かれています。

仕事と犬と自分と

藍は、浩介というフリーランスのコピーライターと同棲しています。当初は都心に居を構えていたのですが、リラと出会い、彼女と一緒に暮らすために、郊外の一戸建てに引っ越します。往復2時間かけての通勤はもう大変。そして月刊誌の編集の仕事って、まさに朝も夜もなく、という期間が長いから、彼女もふらふら。それでも、浩介が在宅ワークだったから、リラとの生活はそれなりにうまくまわっていました。

だけど、それがちょっとうまくいかなくなる。物語の中盤くらいかな。二人の仲に暗雲が立ち込めて…詳しいところは本文に譲ります。結局藍はリラと二人暮らしをすることになるのです。犬を飼っている方だったら、月刊誌の編集者が大型犬と暮らすことがどれだけ大変かって、想像つきますよね…。

実は僕の飼い主さんも、以前、月刊誌の編集者だったの。結婚してから僕を飼いはじめてくれたから、夫婦2人で世話してくれていたけれど、編集の仕事って大変そう~って思ったよ。この本の主人公もご多分に漏れず、毎月末やってくる校了や、編集長の代理で行かなくてはならなくなった夜の会合、接待…自分の予定だけではまわらない仕事だから仕方がないんだけど、リラの世話がどんどん大変になっていってしまいます。

リラはね、外でしか排泄ができない子なの。僕たち犬はそういう風に訓練されれば、そうなる。だけど、それは、雨でも雪でも、外に連れて行ってもらわないとおしっこやうんちができないってこと。だからますます大変。だって夜遅くなったら、トイレをそれだけ我慢しなくちゃいけないってことだから。藍はこのことでものすごく苦労して、葛藤して、大変な状況になることもある。でもね、どんなに大変な状況であっても、リラは藍といられることが本当にうれしい。それをいつも全身で表しているから、藍も頑張れていました。

僕たちの言葉を代弁してくれる人も

そんな二人の間に、事件が起こります。物語後半は、リラの一生の、最期の部分に向けてのストーリーになるのです。病気になったリラを看病する藍。それまでつい自分の仕事の都合のことばかりを考えてしまいがちだった彼女は、その状況に投げ込まれてから変わります。クールで敏腕な編集長の北條さんに、自分の今置かれた状況を正直に話し、仕事をセーブすることに。この北條さん、物語の最初からすごいクールで、仕事ができて、頭がきれて、と、ちょっと冷たい人なのかなと思わせる描写が続くのですが、後半、どんでん返しがあるから、楽しみに読んでください。

リラの病気をきっかけに、あと2人、印象的な人物が出てきます。1人は、動物病院へいつも送ってくれるようになるタクシー運転手の斎藤さん。ご自分のお母さんが寝たきりということもあって、リラに心を寄せてくれる優しいおじさんです。藍とリラは幾度となく彼に助けられます。そして、動物病院の宮崎先生。この先生は本当に僕たち動物の気持ちをよくよく理解してくれていて、その気持ちを飼い主さんに伝えてくれる人。藍は最初、先生の言葉に打ちのめされるんだけれど、その後は危機のたびに勇気をもらい、心を支えてもらいます。犬を飼っている人全員に、この先生の言葉を読んでもらいたいです。

命をまるごと引き受ける

冒頭の引用文は、物語の最初と、そして終盤に出てきます。あれ?でもなんで本のタイトルは「一分間」なんだろう?って思われたあなた。それは、最後の最後でわかりますよ。

動物と一緒に暮らすということは、その命をまるごと引き受けるということ。動物が元気な時にはあまり意識しないかれど、ひとたび病気になったり、年を取ったりすると、実感します。実は僕と一緒に暮らしていた、ウサギのラーボ君が、6月に天国にいったの。9歳を過ぎていたから、大往生なんだけれど、飼い主さんは「もっと何かできたのではないか」って、いつも考えている。だからこの小説を読んで、ボロボロ泣いてた。僕には涙なめてあげるくらいしか、できなかったけど。だけどね「やっぱり読んでよかった」、とも言ってた。そういう小説です。ぜひ、めくってみてくださいね。


一分間だけ (宝島社文庫)
原田 マハ
宝島社
売り上げランキング: 136,001

 
Featured image by Pete Markham / Flickr

the WOOF イヌメディア > すべての記事 > イヌを知る > 本・映画・テレビ > 読書犬「ぐり」はこれを読む!『一分間だけ』〜命をまるごと引き受けるということ

暮らしに役立つイヌ情報が満載の「theWOOFニュースレター」を今すぐ無料購読しよう!

もっと見る
ページトップへ