みなさんこんにちは。東京の読書犬、パグのぐりです。楽しい本に出会えていますか?
さて、新年度が始まってからだいぶたちますけれど、この季節、僕はあんまり好きじゃなくて。というのも、あれですよ、あれ。1年に1度の、狂犬病予防接種!! ヒー!
ついでにフィラリアの検査もするから採血も。「お出かけお出かけ~」とルンルンな気分で車に乗ったら、あれれ、着いたところは、獣医さん。とほほ。というのが毎年繰り返されるんだけれど、今年も同じでした。緊張のあまり震えながら尾っぽ振ったりと、不思議行動をとっていた僕ですが、なんとか終了。「あとは秋のワクチンだね」と先生に言われてどんよりした気分になった。けど、ご褒美においしいおやつもらえて元気になった。単純な僕です。
アメリカに住む一家とジャーマン・シェパード
前置きが長くなってすみません。今日は、ジャーマン・シェパードが主人公のノンフィクションをご紹介します。『犬心』(伊藤比呂美著 文藝春秋 2013)は、著者の伊藤さんが飼っていた、タケ(名前からオスを連想するかもしれませんが、メスです)とういジャーマン・シェパードとの暮らし、最後の2年間の記録です。
急いで書かないと、タケのいのちに置いてけぼりにされてしまうような気がしている(p.8)
という、若干衝撃的な一文から始まるこの本は、アメリカで暮らす伊藤さん一家が、タケと送った日々が赤裸々につづられています。
ジャーマン・シェパードといえば、警察犬にもなる子が多いような犬種。大きくてカッコイイという印象ですが、やはり大型犬のため、適切な訓練をしないと危険があるそうで、タケも、警察犬を扱うような本格的な訓練所に通ったそうです。
伊藤さんは大型犬と暮らすのはタケとが初めてだったそうなのですが、その感想を
まったくおもしろい。食べ物と散歩に人間離れした熱意を持っているだけで、あとは、人と暮らすのとあんまり変わらない。(p.13)
と書いています。サイズも人間並みだしね。きちんと訓練されていれば、大型犬は本当に人と同じような存在で受け入れられるのかな、と思いました。
日本の父の介護も
そんなタケが老齢期にさしかかり、昨日までできていたことが、今日はできない、となってきます。たとえば、これまではなんとか自力で飛び乗っていた車に、自分では上がれなくなってしまうとか。徐々に老いを本人(犬)も家族も感じるようになってきた頃、日本に住む伊藤さんのお父様も老齢期に入り、一人暮らしをされていたことから、伊藤さんは日本とアメリカを行ったり来たりの生活に忙しくなります。
日本に帰れば、寂しい思いをさせているだろう父にできるだけのことをしようと奔走する。そしてアメリカに戻ると、日々年老いていくタケと向き合う。かなり壮絶な日々だったのだろうと思いますが、伊藤さんの筆は、冷静に、淡々と、当時の状況を描いていきます。
さて、この本に、実に頻繁に登場するのが、いわゆる“シモの話”です。排泄の問題というのは、人間と同様、僕たち犬にとっても切実です。特に年をとってくると。タケの場合もそうでした。散歩に行くにも、だんだんと歩行自体が大変になっていく。苦肉の策で、庭で排泄をするようになる。でもそれも、だんだん間に合わなくなっていく、というように。
著者の伊藤さんは、「こんな話ばかりですみません」というようなことを書いているけれど、なるほど、年をとっていくというのはこういうことなんだな、と勉強にもなりました。
詩人の筆による読みやすい文章
この本には、あと2匹、伊藤家の犬が登場します。ニコはタケの次に家族に加わった犬。そしてルイ。ルイは伊藤さんのお父様が熊本で飼っていた犬。父上が亡くなられて、伊藤さんと一緒にアメリカにやってきました(その道中の話がまたすごい。ぜひご確認を!)。タケは晩年を、この2匹と共に暮らしたのでした。それぞれの性格がよくとらえられていて、読んでいるとまるで犬が人間のように感じて来るから不思議です。
伊藤さんは詩人です。だからなのかな。文章が完結でわかりやすく、すごく読みやすいの。犬の介護、人の介護、家族、いろんなテーマが絡み合って出て来るけれど、読み手を混乱させず、しっかりと捉える文章はさすがプロだなあと感じ入りました。
生きとし生けるものには、必ず最期が訪れる。分かっているけれど、なかなか想像はできないし、したくないと思うのが普通でしょう。でもこの本を読むと、そういう最期もあるんだ、となにか妙に納得できるような気持ちになるから不思議です。ぜひ読んでみてくださいね。
Featured image from ben a.k.a me / Flickr
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