子犬の人間に対する社会化に「最適な」時期はあるの?1960年代の研究を紐解いて考えてみたよ

生態・行動
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今回は、犬の飼育歴24年というイギリス在住Atsukoさんと一緒に、「犬の社会性」について考えてみたいと思います。

子犬の社会性ってなに?人間に対する社会化に最適な時期があるってどういうこと?英国のワンコ事情をからめつつ、そうした疑問を解消しちゃいます。


「子犬の社会化」ってなんだろう

ソーシャライゼーションという言葉を聞いた事があるでしょうか。社会の中でうまく暮らせるように、コミュニケーション能力や社会適応能力を養うことを言います。

日本語では「社会化」と訳される事が多いようです。これは人間社会だけに適用される言葉ではなく、子犬のしつけといったテーマでも良く使われる言葉です。

私の住むイギリスでは生後8週間未満の子犬は売買したり譲渡したり出来ません[1]。この重要な時期に、親兄弟から隔離されてショーウインドーの中で過ごしたりすると、精神的、身体的にストレスを受けますし、犬同士の社会のルールを学ぶことができません。のちの問題行動の原因になると考えられており、厳しく規制されています。

子犬同士が心ゆくまでじゃれあって咬む加減などを遊びながら覚え、成犬と接する事で習慣やルールを学んでいくのです。そして、飼い主は子犬と一緒に「パピークラス」に通って犬仲間や人との付き合い方やマナーを教えていくのが一般的です。この「犬の幼稚園」で、社会のルールを学んでいくのです。

1960年代に行われた犬の「刷り込み」を扱った研究

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コッカー・スパニエルのみなさん (c) Zuzule / shutterstock

それでは、犬の人間に対する社会化はどういったものでしょうか。犬の発達において人間との触れ合いに適した時期というのはあるのでしょうか。

この問いに答えるために、しばしば引用されるFreedmanらの研究[1]をご紹介しましょう。1961年にScience誌に掲載された古い研究ながら、とても興味深いものなんですよ!

この研究では犬を人間から隔離して、さまざま時期に1週間だけ人間と接触させ社会化を経験させるということが行われました。目的は、人間と接触するそれぞれの時期における犬の様子を観察することにありました。接触時期の違いによって人間に対する関心や行動にどう影響するのかを、子犬の行動を得点化することで測定しようとしたのです[1]

研究に「協力」したのは、ひと腹で産まれた兄弟犬のコッカー・スパニエル5組、ビーグル3組、そしてそれぞの母犬です。人間から隔離された育った彼らのうち、29匹の子犬には1週間人間と接触させる社会化を経験させ、残る5匹には経験させませんでした。

社会化を経験したのは、生後2週、3週、5週、7週、9週の子犬たちです。彼らを一日3回、30分人間と接触させて、その行動を測定したのです。

社会化適齢期は5週齢あたりなんだって

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ビーグルさん (c) Soloviova Liudmyla / shutterstock

週齢による違いは、かなり明確にあらわれました。生後5週齢の子犬たちは、2−3週齢、あるいは7−9週齢の子犬たちよりも人間に対して高い関心を示しました。関心が低かった要因として、2-3週齢の子犬たちは運動能力が低かったため(判定困難)とされた一方で、9週齢の子犬たちは人間(調教師)に対しする回避行動があったためとされました。

回避行動がみられた子犬たちは人間と接触できないのかといえばそうではなく、訓練が終わる前までには人間と仲良く遊ぶことができたのだそうです。ホッとしますね!

それでは、人間が横たわっていたらどうでしょう?2週齢の子犬たちは、幼すぎて触れ合い行動をとることができません。3週齢の子犬たちは人間に触れたり、登ったり、口を付けたりしました。そして5週齢の子犬たちは、初めは用心深く行動していましたが、第一回目のセッションの最後には遊ぶようになりました。用心深い行動は週齢があがるほど長くなり、7週齢の子犬たちは3日目まで、生後9週の子犬は4日目まで人間と遊ぶ事が出来ませんでした。

この結果から、人間に対する恐れは、他の新しい刺激に対する回避と同様に、齢を重ねると増大していくことがわかりました。そして、9週齢の子犬の回避行動が減少したことから、生後9週までの子犬であれば、やり直す事はさほど難しくないということがわかったそうです。

社会化を経験しなかった子犬は人間と馴染めない

1週間の社会化期間を終えた子犬達は、また元の場所に戻り、人間との接触を持たない生活に戻ります。そして14週齢を迎えた時点で、すべての子犬は社会性テストを受けることになります。

社会化経験のある子犬と、経験していない子犬では、違いが明確にみられました。社会化経験のある子犬は人間に高い関心を示しましたが、人間に一切接触しなかった子犬は、人間にほとんど関心をみせず、恐れの反応をみせたそうです。任意に選んだ一匹の子犬は、さらに3ヶ月の社会化訓練をしましたが、大きな変化はなかったということです

ところで、社会化経験を早いうちに済ませたコ、つまり人間と触れ合っていない時期が長かった子犬はどういった反応を見せたのでしょうか(たとえば2週齢のときに社会化経験をもつと12週は人間から隔離される)。一定期間のふれあいの後には、人間に高い関心を見せるようになったということです。

適齢期をすぎたって社会化はできるんだ!

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(c) Poprotskiy Alexey / shutterstock

この研究からいえるのは、子犬の人間に対する社会化には適齢期がありそうだ(生後5週頃)ということ、しかしこの時期を過ぎたとしても社会化することはできそうだ、ということです。

適齢期を過ぎると回避(「恐れ」)が増大するので、時間はかかるのかもしれません。でも犬は8〜14週齢になっても社会化することができるのだそうです[2]

でも、それまでに人間との触れ合いをもたなければ、社会化は困難のようです。子犬は生涯、人間に対する恐れを抱き続けるのかもしれないのです。とても残念ですが。

でも、極端な回避がみられるのは人間との接触がまったくない子犬だけ、ということは朗報ですよ!人間との接触は、ほんの少しの時間でも十分だといいます[1]。「このコは人間との触れ合いが少なかったから、トレーニングしても無駄」なんて諦める必要は全くナシ。時間をかけて根気よく付き合えば、お互いに信頼しあえる良い関係を築くことがきっとできるのです。


[1] What is the law relating to the sale of dogs? | in BRIEF
[2] Freedman, D. G., King, J. A., & Elliot, O. (1961). Critical period in the social development of dogs. Science, 133(3457), 1016-1017.
[3] Stanley, W. C., & Elliot, O. (1962). Differential human handling as reinforcing events and as treatments influencing later social behavior in basenji puppies. Psychological Reports, 10(3), 775-788.
[4]このほかPuppy Behavior: A Sensitive Period for Puppy Socialization | Animal Behavior and Medicine Blog | Dr. Sophia Yin, DVM, MS を参照

 
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